本記事では、会社分割の基本的な仕組みから、中小企業ならではの意外な活用メリット、そして実行する上での注意点まで、わかりやすく解説していきます。
◆会社分割とは?吸収分割・新設分割の違い
会社分割とは、会社が営む事業の一部または全部を切り出し、別の会社に承継させる組織再編の手法です。事業に関する資産や負債、契約、従業員などをまとめて引き継ぐ「包括承継」という点が大きな特徴です。
会社分割には、事業をどの会社に承継させるかによって、大きく2つの種類があります。
・新設分割
切り出した事業を、新たに設立する会社に承継させる方法です。例えば、好調なA事業部を独立させて子会社化する、といったケースで活用されます。
・吸収分割
切り出した事業を、すでに存在する別の会社に承継させる方法です。例えば、自社のB事業を、その分野で強みを持つC社に譲渡する、といったケースで使われます。
どちらも会社の一部を切り出す点は同じですが、「承継先が新会社か、既存会社か」という点で異なります。
◆なぜ今「会社分割」が注目されているのか
近年、事業環境の変化が激しくなる中で、経営のスピード感と柔軟性を高める手段として会社分割が注目されています。
大企業では、不採算事業を切り離して主力事業に経営資源を集中させる「選択と集中」のために活用されるのが一般的です。これにより、経営のスリム化や、事業ごとのリスク分散が可能になります。
一方で、中小企業においては、少し違った側面から注目が集まっています。それは、事業承継や人材育成といった、より身近な経営課題を解決する手段としての可能性です。
◆中小企業が活用する“意外なメリット”とは
会社分割は、中小企業にとって単なる事業整理の手法にとどまりません。経営の様々な場面で、意外なメリットを発揮します。
【事業承継】後継者問題をスムーズに解決
「すべての事業を一度に任せるのは不安だ」という場合、まず主要事業だけを会社分割で切り出し、後継者が社長を務める新会社として独立させることができます。
M&Aが成立することで段階的に経営を引き継ぎ、後継者の育成とスムーズな事業承継を両立できます。
【人材育成】幹部候補に経営経験を積ませる
特定の事業を子会社として独立させ、その社長を幹部候補に任せることで、実践的な経営経験を積ませることができます。
権限と責任を与えることで、次世代リーダーの成長を促す有効な手段となります。
【資金調達】事業単位での資金調達が容易に
将来性のある事業を分社化することで、その事業単体の価値を評価してもらい、出資や融資を受けやすくなる場合があります。
会社全体では借入が難しくても、有望な事業に特化した新会社であれば、資金調達の道が拓ける可能性があります。
【経営改善】事業ごとの採算を可視化
複数の事業を営んでいると、どの事業が本当に儲かっているのかが見えにくくなりがちです。
会社分割によって事業ごとの法人格を分けることで、それぞれの採算性が明確になり、的確な経営判断を下しやすくなります。
◆会社分割のデメリット・リスクも正しく理解する
多くのメリットがある一方、会社分割には注意すべき点もあります。
会社分割については、下記の記事もあわせてご参照ください。
参照:会社分割という選択肢――メリットとデメリットを解説
https://www.kizuna-corp.com/column/kaisyabunkatsu_merit/
不要な負債を引き継ぐリスク
会社分割は「事業部門毎の承継」であるため、事業に関するプラスの資産だけでなく、借入金や簿外債務(帳簿に載っていない債務)なども引き継ぐ対象となりますが、承継資産負債の明細を作成し、分割会社と承継会社でそれぞれ、引き継ぐ資産、負債を明確にします。
特に事業を承継する側(買い手)は、事前のデューデリジェンス(資産査定)で承継する資産、負債を慎重に吟味する必要があります。通常、負債は引き継がないとするケースが多いですが、承継資産明細、分割契約書にどう記載するか、そこがポイントです。
手続きの煩雑さ
会社分割は、会社法に定められた厳格な手続きを踏む必要があります。株主総会の特別決議や、債権者を保護するための公告手続きなど、専門的な知識が求められるため、独断で進めるのは困難です。経験のある、司法書士の手続きを依頼することをお勧めします。
許認可の再取得が必要な場合も
建設業許可や古物商許可など、事業に必要な許認可は、分割によって新たに取得し直さなければならない場合があります。事業が一時的にストップしないよう、事前の確認が不可欠です。
◆会社分割の進め方とスケジュールの目安
会社分割は、一般的に以下のような流れで進められます。吸収分割の場合、契約交渉などが必要なため、全体で2ヶ月以上かかることを見込んでおくと良いでしょう。
会社分割の具体的な流れについては、下記の記事もあわせてご参照ください。
参照:「会社分割」とは?――実際の流れやスケジュール、メリット・デメリットまで!
https://www.kizuna-corp.com/column/schedule-2/
1)分割計画・分割契約の作成
どの事業を、どのように分割するかの計画を固め、取締役会で承認を得ます。
2)事前開示書類の備置
株主や債権者が見られるように、分割に関する情報を社内に備え置きます。
3)債権者保護手続き
債権者に対し、分割に異議を申し立てる機会を設けるため、官報で公告します。
官報公告の期間が30日間必要であり、その官報の申込は8日前で、原稿作成にも時間がかかりますので、余裕をもって、申込をしましょう。
4)株主総会の特別決議
株主総会を開き、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を得て、分割を承認してもらいます。
5)登記申請
効力発生日から2週間以内に、法務局で変更登記を申請します。
6)事後開示書類の備置
分割が完了した後、その結果に関する書類を6ヶ月間備え置きます。
◆実際の活用事例――分社化、事業再編、事業承継
ではどのような分割事例があるのでしょうか。実際にあった会社の分割を見てみましょう。
事業再編のための会社分割と売却
新潟で長年愛されてきた「にいつフードセンター」様は、後継者不在と小売業界の先行き不安から、従業員の未来を守るためM&Aを決断。
譲渡にあたり、介護事業を分離する会社分割という複雑な手続きも実行。地域を深く理解する専門家のサポートのもと、従業員の雇用と店の名前を守り、個人保証という経営者の重責も解消して、未来へバトンを繋ぐことに成功しました。
参照:先細りしていく将来を見越して、競合企業へのM&Aを決断! 「自分にとっても従業員にとっても、いい結末に終わりました」
https://www.kizuna-corp.com/column/grocerystore/
先を見据えた本業回帰のための子会社の事業譲渡
新潟の地元で知られた建設会社、本業の建設業に集中するため、経営環境の変化を先読みし、子会社を事業譲渡。
利益が出ているうちに売却を決断し、従業員の雇用維持を最優先に交渉。着手金無料で信頼できる専門家と連携したことで、わずか4ヶ月でのM&Aを成功させました。
参照:子会社の事業譲渡で選択と集中を実現! 事業再編M&Aの体験談
https://www.kizuna-corp.com/column/experience02/
地元密着型M&A仲介業者のおかげで事業継承に成功!
地域に根ざした事業のM&Aは、主要な顧客になる地元の人との関係性の引き継ぎなども重要なファクターになります。
新潟で55年の歴史を持つ長井自動車販売は、後継者不在という危機に直面しました。「ナガイロングオート」の屋号と全従業員の雇用を守ることを絶対条件に、信頼できるアドバイザーとM&Aを推進。創業者同士の縁も後押しとなり、地域の信頼をそのままに未来へ事業を繋ぐことに成功しました。
参照:「地域に愛されてきた自社の名前を残したい」――経営者の思いを受け継ぎつつM&Aを成功させた体験談
https://www.kizuna-corp.com/column/nagai/
参照:地元密着型M&A仲介業者が取り扱った 事業承継型M&Aの成功事例!
https://www.kizuna-corp.com/column/setsubikouji/
◆まとめ――会社分割は“選択肢の一つ”として押さえておこう
会社分割は、単に事業を売買するだけでなく、事業承継、人材育成、経営改善など、中小企業が抱える様々な課題を解決するポテンシャルを秘めた経営手法です。
もちろん、法務や税務に関する専門的な知識が必要不可欠であり、安易に進められるものではありません。しかし、「自社には関係ない」と決めつけず、経営戦略の“有力な選択肢の一つ”として知っておくことで、会社の未来を切り拓く新たな一手が見つかるかもしれません。
少しでも可能性を感じたら、まずはM&Aの専門家に相談し、自社の状況を客観的に診断してもらうことから始めてみてはいかがでしょうか。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役



