ローカルM&Aマガジン

「守りたいのは、従業員の生活と利用者の安心」 ――理想的な形でM&Aを成功させた体験談!

投稿日:2024年5月28日

[著]:小川 潤也

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新潟県内で、グループホームやデイサービスなど老人介護事業を展開してきたA・O様。利用者様からの信頼と従業員の安心を最優先に考えて譲渡先を模索した結果、希望通りにM&Aを成功させることができました。そんなA・O様に、M&A成功の舞台裏をうかがいます。

コロナ禍による業績悪化がM&Aのきっかけに

−−御社のこれまでの事業内容についてお聞かせください。

2000年代半ばから、新潟県内でデイサービス、グループホーム、ショートステイなど老人介護関連の事業を運営していました。当初は比較的順調に売り上げを伸ばし、県内では中堅とされるまでに成長して、2019年の時点では7億に近い売り上げを計上しました。ただ介護に関する報酬というのはどうしても限りがあるため、介護のみならず他の分野での事業展開も模索しておりましたが、思うような成果は出ていませんでした。

−−M&Aに踏み切った理由はどのようなことでしたか?

他の介護施設にも言えることですが、業界の慢性的な人手不足という問題があり、稼働率の維持は元から大きな課題でした。そこへ2020年にコロナ禍という予想外の事態が到来し、ショートステイ・デイサービス部門の稼働率は極端に下がりました。数カ所あるグループホームのほうは、割合コロナの影響は少なく職員も安定的に確保できていたため、大きく稼働率を落とすことはなかったのですが、会社全体で見ると業績は非常に悪化し、大きな負債を抱えるようになってしまいました。そこでM&Aという選択肢が浮上してきたわけです。

譲渡先はM&Aの経験豊富な大手企業

−−具体的なM&Aの進め方はどのような流れでしたか?

信頼のおけるM&Aコンサルタントを探していた際、地域密着型で新潟を中心に確かな実績のある絆コーポレーションの小川さんを紹介いただきました。小川さんに当社の現状とM&Aの可能性についてご相談した結果、比較的業績のいい、ある地域のグループホーム部門を譲渡しようということに決まりました。その後は小川さんのコンサルティング力に助けられ、いくつか譲渡先を見つけていただいた中から、無事に1社と話がまとまりました。

−−最終的に決まった譲渡先はどのような企業ですか?

全国300か所以上でグループホームを展開している大きな企業です。これまでにもM&Aの実績があり、事業譲渡に関するノウハウが豊富だったことが一つの決め手でした。小川さんが、そういうM&A方面に長けた会社との結びつきをお持ちだったことが大きかったですね。そうでなければ今回のM&Aは実現し得なかったと思います。

従業員の待遇は今まで通りを保証

−−従業員の方々には、M&Aについてどのように告知されたのですか?

M&Aに関しては、従業員を不安にさせないため、最後まで口外せず、ごく少数の役員のみで話を進めていました。従業員が不安を持つと利用者の方にもそれが伝わり、悪い影響を及ぼすことになりますので、そのリスクは避けたかったのです。結果的にある日突然の告知ということになり、従業員の方々にしてみれば驚きと同時に不安感や寂しさといった思いが、皆さんあったと思います。

−−告知してからの皆さんの反応はいかがでしたか。

もちろん、発表してからのフォローには力を入れました。やはり、不安感が募って、ちょっと退職を考えたいという人もありましたが、私が自ら一人一人と面談をして、気がかりな点についてご説明し、納得していただきました。その結果、60名あまりのうちで実際に辞めたのは2人にとどまりました。それも、これを機にこれからの人生を見直したい、というような理由でしたので、M&A自体に不満をもって辞める、という方はいませんでしたね。

−−従業員さんの今後の待遇はどのようになりますか。

新会社さんとの交渉の初めから、なるべく従業員さんの生活が維持できるように、給与は保証したいとおっしゃっていただけたので、その点は非常に安心できました。事実、そこは本当に守ってくださって、支給の仕方は多少変わっても年収ベースで考えた時に当社の時の年収は守れるような形で考えていただいています。そこは本当に良かったなと思っています。

利用者の反応と今後の展望

−−運営会社が変わることについて、利用者様側からはどのような反応がありましたか。

利用者様のご家族に対しては、しっかりと説明をしなくてはならないので、各事業所からきちんとした文書を作成してお知らせすると同時に、説明会の日を設けてお越しいただき、新しい会社の方からも説明を行いました。やはり、今までの職員さんの顔ぶれが変わってしまうと高齢の利用者の方々は不安になってしまう、という点をご家族の方々は一番心配されていまして、「今までよくしていただいたので、職員さんはぜひ残れるようにしてください」とのお言葉をいただけて、私どもも嬉しく思いました。結果として、苦情や不満を呈されるご家族様は一人としていませんでしたし、むしろ今まで通り入居が継続できるのであれば安心です、というご意見が多かったですね。

−−会社と従業員の方々の今後についてお聞かせください。

従業員にとっては、将来性ある会社に勤められることがベストですし、新会社のような大手企業に身を据えることは、これまでよりも仕事の可能性も広がっていくチャンスでもあると思っています。今は多少の不安感はあるかもしれませんが、後々振り返った時に、残って良かったなと思っていただけるのではないでしょうか。私も新会社のほうに籍を置いて仕事を続けさせてもらっていますので、従業員へのサポートも引き続き行いたいと思っているところです。

−−利用者にも従業員にも不満を感じさせることなく、M&Aを無事に成功させたA・O様の会社。これまで地域密着の施設運営で、利用者の信頼を得てきた結果ともいえるでしょう。これからの社会で重要度が増していく介護という仕事で、今後ますますのご発展をお祈りしております。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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