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M&Aの注意点は?――株式分散がもたらす大きなデメリット

[著]:小川 潤也

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企業が事業承継の方法としてM&Aを検討するときに注意したいのが、「株式分散」です。

M&Aでは、株式分散していれば売り手側の経営者が株式集約に奔走することになります。

今回の記事では、株式分散していた場合、なぜ経営者が株式集約をする必要があるのか、株式分散がもたらすデメリットを徹底解説します。

株式分散とは?

株式分散とは、企業の株式を複数の人物が保有している状態のこと。

非上場の中小企業の場合、ほとんどがオーナー企業であるため、オーナー一族が100%株式を保有しているケースが大多数です。

しかし、なかには中小企業でも株主が10人近くいるパターンもあれば、社長の配偶者や子に持たせているケースもあります。

この株式分散は、M&Aの準備段階に入ると、非常に厄介となります。

▼株式分散については、コラム「株式分散がM&Aにもたらす意外なデメリットとは?」で詳しく解説しているので、こちらも参照ください。

注意点1:株式が分散している場合

M&Aを進める際に株式が分散している場合は、株式を買い戻すか、それとも分散したまま売却するのかを決める必要があります。

ただしM&Aを行なうのであれば、株式は買い戻しておくことをおすすめします。

分散したままだと、買い手企業からすれば当事者が複数となり、それぞれの売却意思を確認して、買い取る交渉をしたりする必要があり、その後の手続きが非常に面倒で嫌がられる要因となります。

現に多くのM&Aでは、株式を集めた上での株式譲渡が、買い手側からの条件となっています。

仮に株式が分散している場合は、その分散した時期や手続きがきちんとなされていたか、議事録や売買契約書で確認することを求められます。

注意点2:従業員持株会がある場合

古くから続く老舗の中小企業では、従業員持株会を立ち上げているケースがあります。

近年ではあまり見られませんが、過去には福利厚生の一環として、従業員に株式を持たせる企業も珍しくありませんでした。

ただ、従業員は株式を退職の際は会社に買い取ってもらい、その売却代金が退職金の上乗せ分のようなものとなります。大抵の場合、株式譲渡制限がありますので、自由に売買できるわけではありません。

そのため、上場企業でもない限り、従業員が株式を所有していても、あまり意味がないといえます。

M&Aのディールが始まる前に従業員持株会は解散させて、従業員が所有している株式はきちんと買い戻しておきましょう。

注意点3:持株を生前贈与して社長の持分がなくなっている場合

生前贈与を利用して、社長の持ち株を配偶者や息子、娘などに持たせているケースもあります。

創業当時から付き合いのある年配の税理士が顧問についている場合は、社長死亡時に相続で一気に株式を移転すると相続税が高くなるため、生前に少しずつ子どもに株を動かすようにとアドバイスを受けるケースが少なくありません。

ただし、これは「会社は代々家族の後継者に引き継ぐ」というかつて主流だった考え方に基づいた戦略です。

近年は後継者不足といわれる時代ですから、多くの場合、経営者の家族は後継者候補になっておらず、子どもたち自身にも「自分たちの会社を守らなければならない」という意識はほとんどありません。にもかかわらず生前贈与を実施していた場合、株式は配偶者や子どもが持っているせいで会社を売却しても社長自身に現金が入ってこないという不思議なことになってしまいます。

その際、子供が株式売却に反対することはなく、スムーズに売却にいたるのですが。さらに、株主が配偶者や子供が多くいることはM&Aの交渉でも不利にはたらく場合があります。

特に親族以外で創業者の友人などが株主にいるときは要注意です。もめるケースはその友人がすでにお亡くなりになり、その子息に相続されているときなどです。オーナーとは直接の面識もないので、株は価値があり、価値相応で売却しないと損すると考えていたりします。そういう方が「株主の権利を主張したい」といってきます。。

もちろん、オーナーからのとりまとめには応じず、譲渡価格について独自に理論武装して相応の金額を要求したりします。会社の業績や今後の見通しを踏まえ、買い手の候補者とある程度合意できているのに、さらに高い値段を要求されると交渉は難航します。

だから、事業承継をどうしようかと考えるときはまずは株のとりまとめをするのが先決です。

▼M&Aの注意点については、「M&Aの注意点は?――ネガティブな情報こそ、隠してはならない!」でも異なる視点での解説をしているので、こちらもご参照ください。

まとめ

M&Aの交渉で株式分散は不利な条件となり、自分の首を絞めることになります。

売り手側の経営者はさほど問題視していなくても、株式分散による少数株主はM&Aの買い手企業からすれば危険を感じてしまうものです。

事業承継やM&Aを意識した段階で株式は集約して、社長自身や親族で100%オーナーになっておくことが安全です。

M&Aを成功させるために、株式分散は事前に解決しておきましょう。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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