KIZUNA ローカルM&Aの
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ローカルM&Aマガジン

先細りしていく将来を見越して、競合企業へのM&Aを決断! 「自分にとっても従業員にとっても、いい結末に終わりました」

[著]:小川 潤也

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明治43年創業という老舗企業で、地元密着型で8店舗のスーパーマーケットを展開している「にいつフードセンター」。

「社長のおすすめ」というこだわり商品を陳列するなど、他のスーパーにはない品揃えと独自の魅力で地元民から長く愛されてきましたが、このたびM&Aを成功させました。

「先行きを見越して決断した」という川﨑貴樹社長に、M&A成功に至るまでのお話を伺いました。

「従業員だけは守りたい」という思いに動かされて

――まず、今回のM&Aに踏み切った理由をお聞かせください。

川﨑:
M&Aを考えた理由は、私自身に後継ぎがいなかったということもありますが、その前にまず外部状況があります。小売業にとっては、人口減や物価高などで、15 〜20年前から非常に厳しい状況になっています。スーパーの先行きは、県で1番か2番の大規模店、もしくは個人店しか生き残れないのではないかと私は読んでいたのですが、我々のような規模のスーパーは、これからどんどん厳しくなってくると思います。

我々の経営状況はどんどん悪くなってきていて、賞与が出せない年もありました。賞与も出せない社長なんて失格だとも思いましたし、その状況でずっと同じ業種にかじりついて、最悪の事態になってしまうのが一番いけないと思った。従業員やその家族だけは守らなければいけない、そういう使命感があったのです。

――M&Aを進めるにあたって、こだわった条件はありましたか?

川﨑:
なにはなくとも、従業員の環境が悪化することは避けたいと考えました。基本的には、従業員を100パーセント残してほしいというのが一番大きな思いでしたね。

そして、現会長である父にとっては長い間経営してきた会社ですから、「にいつフードセンター」という名前には非常に強いこだわりがありました。結果としてその名が残ることになりましたが、それが父を喜ばせ、納得させる要因だったかなと思います。

驚きのスピード感と行動力に助けられる

――絆コーポレーションとは、どのようなかたちで接点を持たれたのですか?

川﨑:
実はその前にも、銀行を通して企業の社長さんにお会いしたり、毎日のように封書の案内を送ってくるM&A業者の方々とお会いしたりしていたんです。小川社長とは「新潟経済同友会」というところで知り合いました。それまで何度も会合などでお会いしてはいましたが、特に深い話をしたことはありませんでしたね。

あるとき、小川社長が書いている、M&Aのメルマガを読ませていただいて、M&Aを受ける側と買う側の言葉や心理などが、非常に参考になったんですね。私はそのとき、大手のM&A業社の方とやりとりしていたんですが、ちょっと違うなと感じていました。

大手企業ですからM&Aの知識はとても豊富なのですが、新潟のローカル事情のことを知らない。やっぱり一番大切なのは、地域の業種の現状を知っていることだと思い始めたのです。そこで小川社長に相談することにしました。

小川社長に自分の思いや悩みをいろいろぶっちゃけて話したら、非常に親身に聞いていただいて、そのうち「ぜひ手伝わせてもらえないか」と言われました。小川社長は非常に明るくて親身な方ですが、どこか物事を冷静に見ていて、ドライさも持ち合わせている感じがあり、それが信頼できると思ってお願いすることにしたんです。

――M&Aは、どのように進んでいったのですか?

川﨑:
小川社長は、まずうちの8店舗全部を回ってくださいました。「品揃えのこだわりや、従業員の社長へのリスペクトが現れている感じなどは、地域の中でも特異なスーパーだ」ということをおっしゃってくださいましたね。「我々の良さをなくさず、そのまま引き継いでいただける相手を探さなければ」と思ってくださったようです。

私は当初、最初にお話しさせてもらってから、だいたい2年以内くらいにM&Aが決まるかなと考えていました。それが実際は、驚くほどのスピードで進みました。

「ある程度こんなふうになったらいいな」という希望的な条件をすべて叶えつつ、県外を含めてまたスーパー以外の業種も含めて、相当数の候補をあたっていただきました。そのなかで、それなりに話になりそうだという会社をピックアップいただいたのですが、このスピード感と行動力には本当にびっくりしました。それが一番、印象に残っていますね。

――買い手の企業様が決まった後の進み具合は、順調でしたか?

川﨑:
節目節目で小さなアクシデントやハードルはありましたが、私の中ではすべてのことがとても順調に進んだと感じています。やはり、このまま続けていても先はどうなるか、というのがある程度読めていましたので、M&Aを決めたのは「一瞬遅からず、一瞬早からず」の絶妙なタイミングだったと自負しております。我々のような業界は、ひと月単位、下手すると1週間単位で状況が変わったりするんです。1ヶ月契約が遅かったら、いろいろな形で違ったかもしれないですね。

実は、会社には借金があって、その8割が個人保証になっていました。もし私に万が一のことがあった場合、この個人保証が3人の娘に行くことになります。たとえ3分の1ずつでも、相続放棄するしかないような金額だったので、これは父親としても失格だという思いがありました。しかし今回、その個人保証がとれて、ストンと重い荷物を降ろせました。ここが一番私にとって良かったことで、M&Aが終わってからは体が軽くなったように感じました。見えない借金の保証は実に重いものですから、それは本当にありがたいことでしたね。

――一連のM&Aで、苦労なさった点はありましたか?

川﨑:
うちはスーパーの他に介護事業もしており、今回、M&Aの中で、スーパー事業と介護事業とを分ける会社分割の手続きも必要になりました。この手続きがけっこう煩雑で、大変でしたね。いくつ印鑑を押したかわからないくらいです。

本来、絆コーポレーションさんはM&Aに関してだけの仕事のはずなんですが、分割して設立した新会社の立ち上げに関しても、最後の最後までお付き合いくださいました。私も知らないことばかりでしたから、いろいろと教えてもらって、税理士や労務士の方まで紹介してくれて、本当に感謝しています。

「困った!」と思う前に相談して、決断してほしい

――オーナーが変わって、店舗はどうなるのでしょうか?

川﨑:
現時点では、私が監修したオリジナルのラーメンはそのまま続けて販売していただけますし、私がこだわっていた「社長のおすすめ」という商品に関しても、その言葉と私の似顔絵が取れるだけで、商品自体は残っていくと思います。うちのバイヤーも「これだけは残してくれ」と伝えているようですね。

買い手企業さんは、以前は競争相手だった企業さんなのです。うちの社員も身構えるところがあったかと思いますが、まだ私が会社に在籍中、こちらとあちらのバイヤー同士が和やかに笑いながら情報交換をしていて、それが非常に嬉しかったですね。ああ、いい会社を見つけて一緒になったな、と思う反面、一抹の寂しさも感じましたけれども……。けれどこれはこれで、社員にとってもいいことだったなと思います。

――実際にM&Aを体験された立場から、M&Aを検討している方に対してアドバイスはありますか?

川﨑:
M&Aを考えたときに、一般的にはまず銀行さんに相談するらしいですね。ただ、銀行さんもM&Aみたいな窓口を作ったりしているようですが、実際にうまくいくケースは少ないそうです。また、大手のM&Aの会社だと、東京など遠方から来るので、時間差もあるし密度も薄すぎる。だから、距離の近いローカルの中で探せるほうが結果的にうまくいくように思います。

あとは、人ですよね。私は結局、小川社長の人柄とか、私の思いを実現させようという熱意が好印象で、お願いすることにしましたので。あとは、困ったなと思う前に相談して決断することが大事です。「困った状況になってしまった、すぐになんとかしてくれ」となっても、すぐにはなんとかならないものですから。

――最後に、社長を引退されてこれからどう過ごしていくつもりなのか、今後のビジョンをお聞かせください。

川﨑:
私は今、58歳です。自分ではまだ若いつもりでいますし、しばらくはゆっくりして、これまでできなかったこと、たとえば今回のサッカーワールドカップをカタールまで見に行こうとか、髭を伸ばしてみるとか、そういうことをやってみたいですね。ただし、ぼうっとしていると人間はだめになるので、将来的には、得意分野だと思っている「食」の方面で、またなにか新しいことを始めるつもりでいます。

――本日はありがとうございました。社長時代はとてもご多忙だったことと思いますが、これからしばらくはごゆっくり過ごされて、心身の休養をなさってください。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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