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「会社分割」とは?――実際の流れやスケジュール、メリット・デメリットまで!

[著]:小川 潤也

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M&Aの手法にはいくつか種類がありますが、今回の記事で取り上げるのは「会社分割」です。

簡単にいえば、事業の一部あるいは全部をほかの会社に承継させる手法で、M&Aが難しい中小規模の会社でもグループ再編に利用しやすいとされています。

本記事では、会社分割の具体的な流れやスケジュールについて解説しましょう。

「会社分割」とは?

M&Aの手段のひとつである会社分割とは、会社の一部、あるいは全部の事業を切り出して売却することです。

一部の事業だけを売却したい場合は、次の二つの方法があります。

・売却する事業だけを切り出して売る方法(吸収分割)
・残したい事業を別会社にして、会社を二つに分けて売りたい会社だけ売る方法(新設分割)

他の会社に包括的に事業承継するという点では合併と同じですが、会社分割の場合はM&A成立後、分割を行なった会社は消滅せず、あくまで別事業の運営主体として引き続き存続することになります。

会社分割の2つの種類

会社分割は、新規設立した会社へ承継する「新設分割」と、既存の会社へ事業を承継する「吸収分割」の2つに分類できます。

それぞれの特徴と手続きについて見ていきましょう。

●新設分割

新たに会社を設立して、その会社の事業の一部または全部を分割し、新たに設立する会社に承継させる方法です。

承継させる側の会社を「分割会社」、権利義務を引き継ぐ側の会社を新設分割する場合は「新設分割会社」と呼びます。

●吸収分割

売りたい事業を分割し、既存のほかの会社に吸収させる方法です。

新設分割と同様、承継させる側の会社を「分割会社」と呼びますが、権利義務を引き継ぐ側の会社を吸収分割する場合は「承継会社」と呼びます。

吸収分割の場合は、承継の対価が株式発行であるほか、金銭など株式以外の財産交付も可能になります。

会社分割の手続きの類型

新設分割の場合、分社方法によって「人的分割」と「物的分割」の2種類に分けられます。

●物的分割

事業を承継した会社が発行する新株式を、その事業を譲渡した会社自身が取得する方法です。

物的分割の場合、子会社の株主は親会社となるため、会社を売却した代金は親会社に入ります。

このように親会社に代金が入る場合、その代金は営業外収益になって営業利益と通算し、法人の所得として課税の問題が発生するので、注意しましょう。

●人的分割
切り出しだ事業を継承させた会社の株主に、その事業を取得させる方法です。

人的分割の場合、どちらの会社も同じ株主となっているため、会社を売却した代金は株主のもとに入ります。

なお、株式売却益に対する税金が株主に発生します。

会社分割の手続きの流れ

会社分割の流れは会社法で定められており、次の通りです。

●手続き①:分割契約書の作成と取締役会での承認と締結
最初に進める手続きは、分割契約書の作成です。これは新設分割と吸収分割、どちらにも必要な手続きです。

各社の取締役会での決議で承認が得られたら、分割契約書を締結します。ただし、決議の承認が必要なのは、取締役会設置会社のみです。

●手続き②:分割内容の事前開示・備置き
分割契約の締結後は、分割契約および分割計画書で定めたことを、書面または電磁的記録で備え置く必要があります。

書面の備置きの期間は、債権者や株主への通知または公告の日から分割の効力発生後6ヶ月と定められています。

●手続き③:労働者・労働組合への通知
会社分割では、従業員を承継する場合もあります。この場合は労働契約承継法に定められた従業員や労働組合への通知義務があります。

ただし、吸収分割の場合は分割会社のみが通知義務を負います。

●手続き④:株主総会における承認決議
原則として、分割会社や承継会社は会社分割の効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議で分割契約および分割計画の承認を受けなければなりません。

ただし、場合によっては略式手続や簡易手続も可能です。

●手続き⑤:反対株主や新株予約権者への通知・公告
反対株主や新株予約権者へ通知と公告を行ないます。

新株予約権では、新株予約権者を保護するために買取請求が認められています。

そのため、株主総会の決議を行った日から2週間以内には、分割会社の新株予約権者に通知と公告を行ないましょう。

●手続き⑥:債権者保護手続きと株主への通知・公告
新設分割や吸収分割を選択した場合、会社分割に異議申し立てをする債権者に対して、債権者保護手続きの必要があります。

効力発生日の1ヶ月以上前に公告・催告をして、効力の発生日までに手続きを完了させなければなりません。

承継会社は株主に対して通知と公告を行ないます。手続きの期間に余裕をもって計画を進めましょう。

●手続き⑦:会社分割の効力発生
ここまでの手続きを経て効力発生日を迎えると、会社分割が正式に成立します。この段階でも書類の備え付けを忘れずに行ないましょう。

●手続き⑧:会社分割に関する書面等の本店備置き
会社分割の成立後は、効力発生日から2週間以内に、分割に関する書面を本店に備え付けなければなりません。

株主や債権者とのコミュニケーションにも注意が必要です。

●手続き⑨:登記
登記申請が行われ、変更や設立が法的に確定します。新設分割と吸収分割では異なる手続きが必要なので、専門家を頼りながら適切に進めましょう。

新設分割では、効力発生日から2週間以内に分割会社の変更登記、新設分割会社の設立登記をしなければなりません。

一方で吸収分割では、効力発生日から2週間以内に分割登記を行ないます。

会社分割のメリットとデメリット

最後に会社分割のメリットとデメリットを紹介しましょう。

●会社分割のメリット
会社分割の大きなメリットは、資産や負債も分割できる点です。

たとえば、当社が関わった事例では、「資産と負債をうまく切り分けをしたい」という売り手企業がいました。

この事例では会社分割を行なったことで、子どもたちや新会社に負債を引き継がずに済みました。

ほかにも、買い手にとっては不要な事業や負債を引き継がずに済むのは大きなメリットといえるでしょう。

●会社分割のデメリット
会社分割のデメリットは、手続きが非常に面倒で時間がかかることです。

実は、M&AのプロであるM&A仲介業者やアドバイザーでも、このスキームを理解していない人が散見されます。

提案できる業者が少なく、前述したメリットを享受したい場合は会社分割を理解した業者をパートナーに選ぶことをおすすめします。

まとめ

会社分割には、慎重なプロセスと計画が求められます。

M&Aに精通した専門家に相談してアドバイスを得つつ、手続きを進めることが成功のポイントといえるでしょう。

スケジュールの調整や計画の段階で確認漏れのないよう注意し、円滑な会社分割を実現しましょう。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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