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「地域に愛されてきた自社の名前を残したい」――経営者の思いを受け継ぎつつM&Aを成功させた体験談

[著]:小川 潤也

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新潟の地元密着で、自動車販売をメインに、整備やメンテナンス、カーリースといった事業を展開してきた長井自動車販売さま。これまで「ナガイロングオート」の名で築いてきたお客さまからの信頼をそのままに事業譲渡をしたいという希望がかない、M&Aをスムーズに成功させることができました。

M&Aの一番の理由は後継者の不在

−−まず、御社の事業内容について簡単にお聞かせください。

渡辺:新潟市と新発田市を拠点として、あらゆるメーカーの中古車・未使用車および新車の販売と買取、整備・板金・塗装などのメンテナンス、カーリース事業など、自動車にまつわる事業を幅広く展開しています。創業は昭和43年、今年で創業55年になります。

−−このたび、M&Aに踏み切った理由はどのようなことですか?

渡辺:やはり一番の理由は後継者がいないということですね。少し経緯が複雑なのですが、創業者である長井繁雄は2012年に60代前半という若さで亡くなり、その妻の長井名那子が一旦、代表を引き継ぎました。その後、実際に経営を回していた高橋耕一が代表になりましたが、高橋も昨年、突然亡くなってしまいました。

それで再び、長井名那子が代表となって現在に至りますが、70代なかばの高齢であり、その後を継げる者は社員にもおりません。加えて業績の不安などさまざまな問題があり、長井、社長の遠藤、専務の私と、役員3名で話し合った結果、後継ぎを考えるよりは事業譲渡した方がいいのでは、ということになりました。

創業者同士の縁がM&Aで再び結ばれた

−−具体的なM&Aの進め方はどのような流れでしたか?

渡辺:実際ダイレクトメールなどもたくさん来ていたのですが、うちのメインバンクである金融機関に相談したところ、事業譲渡ならFA(ファイナンシャル・アドバイザー)を立てて進めた方がいいということで、絆コーポレーションの小川さんをご紹介いただきました。

小川さんにはまず同業者さんをリストアップしてもらいました。最初はノンネームという、社名は特定されない形で、業種・地域・規模という最低限のポイントだけで打診して。それで興味を示してくれる会社だけに、機密保持契約を結んだ上でもっと詳しい情報を開示していくという形です。

ノンネームの段階で手を挙げてくれて、機密保持契約を交わしたのが10社ほどありましたね。そこから金額面の交渉に入り、最終的に面談までいったのは2、3社でした。

−−M&Aにあたって、これだけは譲れないという条件はありましたか?

渡辺:屋号をそのまま残してほしいということですね。うちは「ナガイロングオート」という名前で、地域に密着して営業しておりまして、それなりに知名度もあって愛されていますので、「ナガイロングオート」の屋号は必ず残してもらいたいというのが条件でした。それから、社員は引き続き全員雇用、給与面も変わらない形で、という話はしていました。

ただやはり、屋号を残すという点での折り合いは難しかったですね。うちを買えるぐらいの“クルマ屋さん”となると、ある程度大きい会社になりますが、大きいところはやっぱり社名も自社の名前に変えたいわけですから。

−−最終的に川内自動車さんに決めた理由はどんなところだったのですか?

渡辺:私たちの思いや、企業風土を理解してくださっている点、それからやはり合併した後の未来、将来を考えてということですね。川内自動車さんは新潟県と福島県に広く店舗を展開する大きい企業で、安定した収益を上げていらっしゃるので、今後も安心できるだろうと考えました。大きな会社なので社長はどんな方なのだろうと思っていましたが、第一印象は思ったより柔らかい感じの方でしたね。

それと、一つには、創業者の方がうちの創業者の(故)長井繁雄とちょっと交流があったんです。業種としてはライバルではありましたが、切磋琢磨するような関係だったようです。ですからあちらとしては、うちの会社を買うのは半分人助けのようなところもあったのではないでしょうか。

−−これまで競合であった会社とM&Aが決まったことについて、従業員の方々は、どのような反応でしたか?

渡辺:多少、動揺を感じる人もいたとは思いますね。ただ、会社経営面ではライバルだったといっても、民間の視点で見た時に悪いイメージはないんです。川内自動車さんは「ケイバッカ」という軽自動車に特化した店舗を展開していまして、これはとりわけ好感度が高いんですね。

ですから、それほど抵抗はなかったように思います。M&Aがきっかけで辞めた人はいませんでした。

従業員への発表の際はあちらの会長も同席してくれましたし、何より今までと全く変わらない条件で働けるということですから、安心感はあったと思います。

アドバイザーとの信頼関係が成功のポイント

−−M&Aは全体的にスムーズに進んだのですか?

渡辺:1月に小川さんにご相談し、成約したのが8月下旬ですから、だいぶスピーディーに進んだと思います。初めの頃こそ、やはり条件が厳しくて、うまくいかないものだなと思いましたが、小川さんは毎日とは言わないまでも週に2、3日は面談や打ち合わせの時間を持ってくれましたので、結果的にベストな会社に出会えたと思っています。

−−役員の方々は今後どうされるのでしょうか。

渡辺:長井は高齢でもあり、これを機に経営を退きます。遠藤と私は、社長と専務という役職ではなくなりますが、会社のトップとしては残ることになりますので、これまでと変わりなく、ナガイロングオートを運営していきます。

−−今回のご経験を踏まえて、M&Aを考えていらっしゃる経営者さんに、メッセージやアドバイスをいただきたいと思います。

渡辺:うちがうまくいったのは、たまたま絆コーポレーションさんとつながることができて、たまたま川内さんが手を挙げてくれた、ということで、運がよかったんですね。だからアドバイスなんて偉そうなことは言えないんですが……。

ただ、一つ言えることは、やっぱり、アドバイザーさんとどれだけ信頼関係が持てるかというところがポイントになると思います。途中で不信感が出てくるようだと、結局うまくいかないでしょう。先ほども言ったように小川さんは本当にまめに足を運んでくださっていたので、信頼関係も芽生えました。

M&Aは、信頼できる、よきアドバイザーに出会うことが大事ですね。

――地元で親しまれた「ナガイロングオート」の名前を変えることなく、従業員も安心できるかたちで事業の引き継ぎを行うことができた長井自動車販売さま。今後ますますのご発展をお祈りしております。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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