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事業承継を妨げる株式移転! 自社株式の評価額引き下げ方法

投稿日:2021年7月27日

[著]:小川 潤也

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子や孫といった親族内への事業承継にせよ、従業員への承継にせよ、事業承継の大きなハードルになるのが持株の移転。

オーナー企業の場合は社長が株式の大半を持っているケースがほとんどで、長年の事業実績によって膨れ上がった株式を移転すると、多額の費用がかかります。

今回は、承継でとくに問題になる税金負担を軽減するため、承継前に株価を引き下げる方法について解説します。

なぜ、事業承継で多額の費用がかかるのか

そもそも、なぜ事業承継に伴う株式の移転では、多額の費用がかかるのでしょうか?

中小企業でも、時価総額が数億円に!?

最初はほんの小さな出資から始まった中小企業でも、業績を向上させれば株式の評価額はどんどん上がってゆきます。

社長は「うちみたいな中小企業は、株価なんて問題にならない」と思っていても、いざ計算してみると時価総額が数億円であると発覚した……というケースは、決して珍しくありません。

現に、社長が筆頭株主であれば、自社株だけで億万長者レベルの資産を持っていたという事実が突然発覚する場合も散見されます。

高額の資産を引き継ぐのには費用がかかる!

こと事業承継となると、膨れ上がった株式評価額は、事業承継においては大きな問題に発展します。

多額の株式を後継者に移転するには、多くのお金が必要になるからです。

相続であれば相続税、贈与であれば贈与税、譲渡であれば譲渡代金……といったように、後任社長がそれぞれの資金を用意する必要があります。

とくに、後任社長がもともと単なる会社員であった場合、とても支払えないかもしれません。

株式移転なしの承継はNG!

「株式を承継するとお金がかかるから、とりあえず前社長が株式を保有したまま事業承継しよう!」と考える人もいますが、これはおすすめできません。

持株比率は会社における権力の強さそのもので、役員の任命や解任といった重要事項はすべて過半数の議決権に左右されます。

株式移転なしで社長を引き継ぐと、「実権はオーナーが持っているのに経営は後任社長が担当する」といういびつなガバナンスの状態を招いてしまうのです。資本と経営が分かれた状態です。オーナーと雇われ社長の関係で、大企業ではよくあるケースです。

しかし、中小企業では株主と経営者は同じ方が意思決定が速くなり、その速さが成長の原動力でもあるので、一体のことが多いです。

さらに、先代が急死してしまえば結局は相続で株式が移転されるので、問題の先送りにしかなりません。

株式評価額を引き下げる方法は?

それでは、自社株式の移転費用負担を軽減すべく、株価を引き下げるにはどうすればよいのでしょうか。

方法①赤字を作る

株式の評価額を下げる代表的な手段は損金処理できる投資や役員報酬を意図的に引き上げたりし、赤字決算にすることです。とはいえ、経営としてメリットのある手段で赤字を作り出さなければ意味がありません。
たとえば、社長引き継ぎ後に予定していた設備投資を前倒しにするというのも有効な手です。しかし、設備投資はその期の減価償却額しか、費用計上されないので、限定的です。

ほかには、前社長が生きているうちに役員退職金を支払ったり、減価償却の額が大きくなる償却資産を購入したり、リース商品を活用したりする手法もあります。

ただし、スピーディに損金を出す方法は、それほど多くはありませんし、無理な手段を用いれば、租税逃れとして国から課徴金を命じられる危険性もあります。

税理士などの専門家に相談しながら、そのようなリスクが大きくならないように対策しましょう。

方法②含み損を作る

株式の価格決定においては、損益だけでなく純資産も大きく影響します。

簿価が高い不動産を所有している会社が株価を下げるには、時価評価し、保有資産の評価額を下げるのも有効です。

方法③事業承継税制の活用

事業承継を支援するために国が用意している「事業承継税制」を活用するのも一つの手です。

事業承継税制の適用を受ければ、なんと株式の贈与税がゼロになります。費用をまったくかけずに事業承継を実施できるのです。

ただし、事業承継税制を活用するには前社長と後継社長が一定の要件を満たし、さらに「特例承継計画」の承認を受けなければいけません。

事業承継税制については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
贈与税・相続税をゼロにできる!? 事業承継にかかる税金を解説

まとめ

自社株式の移転費用を軽減するためには、さまざまな手段があります。

どんな手段を用いるにしても共通していえるのは、承継直前に慌てて準備するのは危険だということ。

準備を怠ると、思ったような株価引き下げ効果を実現できなかったり、租税回避行為として扱われてしまったりするリスクがあります。

遅くとも、承継の数年前から株式の引き継ぎを見据えた対策を講じておきましょう。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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