本記事では、地方で実際に介護施設のM&Aを手がける現場の視点から、成功の鍵を握るアプローチについて詳しく解説します。
増える介護施設のM&A相談――その背景にある地域の変化
「介護施設を引き継ぎたいが、引き受け手が見つからない」
「事業は黒字だけど、借金の返済が続けられない」
新潟県を中心とするローカルエリア、地方都市では、こうした相談が年々増えています。
人口減少や人手不足、建築費の高騰など、介護業界を取り巻く環境はますます厳しさを増しており、運営事業者だけでなく土地オーナーや投資家にとっても、M&Aは「前向きな撤退」や「資産戦略」として注目されるようになっています。
介護M&Aの主なケース――再生型と承継型の違いとは?
実際に私たち絆コーポレーションにも、介護事業に関するM&Aのご相談が数多く寄せられています。
介護事業のM&Aには大きく分けて2つのパターンがあります。
ひとつは、黒字経営を維持しながら、事業や施設を次世代や他社に引き継ぐ「事業承継型M&A」。もうひとつは、赤字や経営難に陥った介護事業を第三者が引き継いで再建する「再生型M&A」です。
★「再生型M&A」については、下記の記事もあわせてご参照ください。
「再生型M&Aとは? メリット・デメリットからポイントを徹底解説」
参照:https://www.kizuna-corp.com/column/restructuring/
いずれにせよ近年特に増えているのが、以下のようなケースです。
● 経営者の高齢化や健康問題による「自主的な撤退」
● コロナ融資の返済や物価高により赤字転落した「経営困難」案件
● 地域密着で頑張ってきたが、継続困難となった「小規模事業者」案件
とくに最近では、コロナ禍で借り入れた「ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)」の返済が本格化し、それがきっかけとなってM&Aを検討するケースが急増しています。返済原資が確保できず、「見えない赤字」が表面化する企業が相次いでおり、いわゆる「ゾンビ企業」が、いよいよ淘汰されはじめているのです。
この流れを受け、金融庁も地域金融機関に対して、単なる債権回収ではなく「事業の再生」に向けた支援を行うよう方針を示しており、債権放棄や再建スキームの活用も含めたM&A支援が現実味を帯びてきています。
★コロナ融資とM&Aの関係性については、下記の記事もあわせてご参照ください。
「M&Aの失敗事例紹介! ――失敗要因と買い手・売り手が気をつけるべきポイントを 徹底解説」
参照:https://www.kizuna-corp.com/column/covid/
成功のカギを握るのは「資産価値」の視点!
介護施設のM&Aを検討する際、事業の黒字・赤字だけでは測れない「もうひとつの評価軸」として、近年注目が高まっているのが「不動産の資産価値」です。
たとえば、同じ赤字の事業であっても、「自社所有の不動産の立地により、介護事業を廃止したとしても、売れる物件かどうか」によって、金融機関や買い手の評価は大きく変わります。たとえば、土地や建物に資産的な価値があれば、仮に現状の事業が赤字であるが、事業を再生させることが前提ですが、別用途での活用が見込めるため、その付加価値がリスクヘッジ要因となり、M&Aが成立しやすくなるのです。
再生を検討する際に「その事業をいかに再生させるか」だけでなく、「不動産としてどれだけ価値があるか、要は売却できるか」という点が判断材料になります。
こうした背景から、介護M&Aにおいて「不動産」は、単なる資産というよりも「交渉を動かす力」を持った要素として注目されつつあります。
成功のカギを握る「不動産型アプローチ」
介護施設のM&Aにおいて、施設の建物や土地が「誰の所有物か」は、実は非常に重要なポイントです。
たとえば、事業と不動産を同一法人で保有しているケースでは、不動産を価値と考える買い手にとって、資産評価の明確さから金融機関の理解も得やすくなります。
一方、事業と不動産の所有が分離されていたり、賃貸契約の継続性が不透明な場合、買い手にとってはリスク要因となることもあります。なぜなら、事業譲渡の場合、賃貸借契約は新規で契約をし直す必要があり、従前の条件から変更さえる可能性があるからです。
また、不動産は所有せず、賃貸で介護事業を展開している大手事業者もおります。その場合は資産を所有せず、アセットはできるだけ軽くという方針のようです。
そういう事業者の場合、所有不動産がネックとなる場合もあります。
話を戻しますと、不動産型アプローチとは、まさにこの「土地と建物の価値」に着目し、介護施設のM&Aを単なる“事業承継”ではなく、“資産活用”の視点から捉え直す方法。このアプローチには、主に以下のようなメリットがあります。
● 土地・建物の資産価値があることで、金融機関との交渉がしやすくなる
● 築浅・好立地の施設は、他用途(医療・福祉・社宅など)への転用も可能
● 自社運営でなくても、信頼できる事業者に賃貸し収益化する道もある
投資対象としての介護施設を考えると?
特に、新潟のような地方エリアでは「立地の良さ」が重要な評価軸になります。
駅や・幹線道路沿い・周辺人口の多いエリアにある築浅の施設などは、不動産として売却可能性が高く、買い手にとっても魅力的。
最近では、建築コストが高騰していることから、「新たに建てるよりも既存物件をうまく活用したい」という投資的なニーズも増加しています。
自社で介護事業を営むつもりはなくても、土地建物の資産として評価したうえで、信頼できる運営事業者に“貸す”という発想が広がりつつあるのです。
たとえば、私たちが支援したある案件では、経営が悪化しつつあった入所系施設を、大手の介護事業者が不動産ごと購入しました。ほかにも、介護運営のノウハウを持つ別法人に賃貸し、地域のニーズに応える形で事業を再生させた事例もあります。
このように、「買い手=事業者」という構図にとらわれず、不動産を介した多様な活用方法を設計することが、介護施設M&A成功のカギとなりつつあるのです。
★介護業界のM&A成功事例については、下記の記事もあわせてご参照ください。
「【介護事業者】M&A体験談①」
参照:https://www.kizuna-corp.com/column/ma_interview1/
「社長と番頭の二人三脚で乗り越えたM&A」
参照:https://www.kizuna-corp.com/column/ma_review_kaigo/
「悩むよりも断然、行動したほうがいい! 「はじめの一歩」を踏み出したらあとは「おまかせ」で、ストレスなくM&Aを成功させた体験談」
参照:https://www.kizuna-corp.com/column/kaigo_jirei/
まとめ――M&Aは「最後の手段」ではなく「未来を描く戦略」!
介護施設のM&Aは、単なる「撤退のための最終手段」ではなく、地域資産を守り活かすための「次の戦略」として注目されています。
経営状況や後継者問題だけでなく、建築費の高騰、人口減少、採用難といった環境変化の中で、従来型の事業継続が難しくなる一方、「不動産という資産の視点」を取り入れることで、全く新たな展開が見えてきます。
施設の立地や築年数によっては、医療や高齢者住宅など他用途への転用も現実的であり、金融機関や投資家にとっても十分に「投資対象」たりえる存在。
今後は、介護運営者だけでなく、不動産オーナーや地元企業など、多様な主体が関わることで、地域資源としての介護施設が「次の活用」へと引き継がれていく流れが加速していくでしょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役


