文字通り、事業の再生を目指す対策ですが、ひとえに「事業再生」といっても多くのやり方が存在します。
今回はそのなかのひとつ「再生型M&A」について解説しましょう。
再生型M&Aとは?
経営が困難な状況に陥った企業が、自力での再生が難しい場合に、M&Aによって経営再建を図ること「再生型M&A」といいます。第三者から支援を受ける事業再生の一種がこれに当てはまります。
一般に、「事業再生」には、自力再生・私的再生(整理)・法的再生(整理)・第三者支援による再生の4つのパターンがあります。
自力再生は文字通り、自分の力で事業の再生を目指します。私的再生は法的手続きを取らずに債権者との交渉によって債務を整理する方法で、法的再生はその逆に裁判所の監督下で債務を整理します。そして最後が、本題となる再生型M&Aが含まれる第三者支援による再生です。
ちなみに、第三者支援による事業再生では、2010年に経営破綻した日本航空や熊本阿蘇熊牧場などの成功事例があります。
さて、再生型M&Aの大きな特徴のひとつに、「債権者が関わる」ことがあります。通常のM&Aでは買い手と売り手の関係になりますが、債務超過や経常利益が赤字になっている、銀行への借入金返済が滞っているなど、業績不良の会社がその対象になっているためです。
また、再生型M&Aにもさまざまな手法があり、通常のM&Aとは異なる手続きが発生します。
再生型M&Aの手法は?
まず、再生型M&Aには大きく分けて3つの手法があります。企業の現状や経営者の事情に則し、どのやり方が適切なのかを判断する必要があります。
・企業再生方式
経営困難な企業の法人格を維持しながら企業再生を目指す方法です。負債企業を支援する企業(スポンサー)の「子会社」として、採算事業を中心に業績を回復していこうというスキームになります。
再生型M&Aの手法のなかで、唯一、私的整理手続きで行うことが可能です。私的整理とは、裁判所の関与なく、債権者などの当事者同士による話し合いをして再建を図ることを意味します。
企業再生方式は一般的に、売り手会社の規模が大きい場合に用いられることが多いです。小さな企業だと、これまでの法人格で事業再生を目指していることが不安要素となり、無理に取引をしないと考える取引先も出てきて、取引を停止されるケースもあります。
また、自己資本の少ない中小企業では、子会社化しても繰越欠損金などによる税金面の負担回避が見込めない場合が多くなることも理由のひとつです。
中小企業による企業再生方式では、行政官庁からの許認可が必要な事業に関わっている会社であったり、公共事業の受注の関係など、国や行政を相手にしていた会社が法人格を維持しなければならないようなケースで採用されます。
・事業譲渡方式
M&Aによってスポンサー企業の一部門(事業実態を買収元の法人格に移す)として再出発する方法になります。債務者(売り手)企業は、この取引で調達した資金によって残った会社の清算を行います。
業績が悪化した会社から採算事業部門と不採算事業を切り離せることがこの方式の大きなポイントです。また、破産手続きになっても利用することができるといった利点があります。このような特徴から、中小企業の再生手法として広く実行されています。
債務リスク回避やリストラの手間などが省ける一方で、取引先との契約継承や行政の許認可取得、譲渡資産の登記など事務手続きに時間や費用がかかります。
・第二会社方式
GOODな事業のみを新設される会社に移転し、BADな不採算事業と残債のみとなった会社は金融機関から債務免除を受け、特別清算させる方法になります。新会社(第二会社)はスポンサーが受け皿となり、事業を引き継ぐ形をとります。
第二会社はBADな不採算事業を切り離せるので、スポンサーはGOOD事業のみを引き受けるので、効率化や収益の強化を図れ、早期の再建を達成しやすい環境を生み出せます。
ただ、このやり方を採用するには当面の運転資金が必要です。会社を新設する際のコストは当然ですが、新会社として事業運営の許認可を再取得する必要もあり、手続きに時間がかります。その間の資金支援をスポンサーとして担う必要があります。
上記で、再生型M&Aの3つの手法について解説しましたが、素人考えでは何か同じようなことを言っているように感じる部分も多々あったかもしれません。
このように、専門的な知識がないと細かな違いを理解することができず、大きな間違いや誤解を生じさせる危険性があります。再生型M&Aを検討している企業の実情にあった手法を選ぶことが大切になります。
再生型M&Aの流れ!
ここでは、実際にどのように再生型M&Aが進んでいくのか、その手順を紹介します。以下に一般的な流れを展開していますが、「金融機関との交渉」が大きなポイントになります。
通常のM&Aと再生型M&Aの大きな違いはまさにここで、債権者という立場にある金融機関を納得させるための交渉が必要不可欠で、手続きに時間がかかる傾向にあります。
【再生型M&Aの大まかな流れ】
1 初回相談
2 再生型M&Aの戦略を話し合う
3 代理人弁護士とともに計画作成
4 金融機関と代人弁護士による交渉
5 支援してくれる企業(スポンサー)の選定と交渉
6 金融機関とスポンサー企業の調整
7 デューデリジェンス
8 スポンサーによる事業対価の提示
9 スポンサー契約締結
10 金融機関が同意、クロージング
・専門家へ相談を!
再生型M&Aを行う際は、まず専門家のサポートを受けることが重要です。高度な専門知識が必要となり、そのアドバイスが成功の可否を決める鍵となります。特に再生M&AのFA(フィナンシャルアドバイザー)の経験ある、専門家に相談しましょう。通常のM&A仲介会社ですと債権カットのスキームの提案はしないところが多いです。
・事業再建の計画を決める!
専門家を交え、経営再建するための準備を進めます。企業の現状とともに、採算事業があるのか、どうか、その事業に価値があるのか、そして、スポンサーの元で金融債務がなくなれば、再生できるのか、これが重要なポイントです。その上で、再生型M&Aの手法をどれにするかなど、実行する計画の具体案を話し合います。
当然、実現が可能なスキームやプランでなければなりません。また、計画書は再建を支援してくれるスポンサー企業や負債の債権者となる金融機関にも提出する必要がありますので、協力が得られるよう具体的で詳細な内容のものを専門家と協力して作成することになります。
・金融機関との交渉!
計画書ができるとまず金融機関に計画資料を提出し、その内容を確認してもらいます。返済計画の妥当性を中心に、金融機関の意向は再生型M&Aにおいて非常に重要になります。
再生型M&Aでは、やり方によっては金融債権者は債権カットの必要が生じることが多く、金融債権者の合意を得ることができるかどうかが大きなポイントです。
メインバンクである、金融機関がまずは協力いただくことが再生M&Aの第1歩です。事業を再生させ、雇用とお客様を守り、地域社会を停滞させないという強い決意が経営者に必要です。
・再生型M&Aの肝は資金繰り
再生型M&Aを進めていくにはスポンサーに譲渡するまでの間、資金繰りを持たせる必要があります。しかし、金融機関はリスケして、スポンサー探しをしている企業に追加で融資をしてくる可能性は皆無です。そのために、スポンサーを探して、クロージングできるまでの期間を見越し、資金繰りに目途をつけるのが、この再生型M&Aの必須条件です。
そして、スポンサー企業の選定にもポイントがあります。財務状況が健全であり、このスポンサーとなった事業がたとえ、ダメになっても二次破綻を回避できる企業が好ましいです。
公平性という意味では、事業再生を支援する公的機関も存在しますので、そちらを活用する手もあるかもしれません。
参考:事業支援機関
https://www.jfc.go.jp/n/finance/jigyosaisei/link.html
スポンサーの選定や交渉には、知識やコネクションがある専門家のサポートがないと、期待するような結果を得るのは難しくなりそうです。
・基本合意書の締結
これまでの交渉の内容をまとめたり、今後のスケジュール確認を中心に合意書を作成します。この基本合意書には法的拘束力はありません。
ただ、基本合意書を締結したタイミングでスポンサー企業との独裁交渉権が有効になりますので、ほかの企業との交渉を行うことはできなくなります。
・デューデリジェンスの実施
事業再生計画が実現可能かを調査すべく、デューディリジェンスを実施します。これは、M&Aの対象となる資産価値や債務のリスクを調べるなど、会社の実態を第三者によってチェックすることです。
調査において、特に重要なポイントになるのが「簿外債務」です。計画が走り出した後に簿外債務発覚するとその実行に大きな支障をきたすことになりますので、債務の洗い出しは絶対不可欠な要素と言えます。
・最終契約書の締結
デューディリジェンスで問題が見つからなければ、金融機関と最後の調整を行いながら、再建を目指す会社とスポンサー企業の間で最終契約書を取り交わします。
これにより、再生型M&Aの成約がなされ、いよいよ企業再生への具体的な活動がはじまります。最終契約書では、すべての項目で法的拘束力が生じます。
締結のあとは、M&Aの手法によってスケジュールが異なります。たとえば「事業譲渡」なら取締役会の決議や株主総会の開催(条件によっては必要がない場合もあります)だけなど手続きが少ないですが、「会社分割」の場合は、労働組合や労働者との協議や債権者保護手続きが発生するなど、手順はさまざまです。
ちなみに、スケジュールの詳細は、事業譲渡の場合で①事業譲渡契約書(最終契約書)の締結、②取締役会での決議、③株主総会の開催(必要ない場合もある)、④事業譲渡の通知・公告、⑤反対株主の株式買取、⑥効力発生日といった流れになります。
一方の会社分割では、①吸収分割契約書(最終契約書)の締結、②労働組合・労働者との協議、③事前開示書類の備置、④労働組合・労働者への通知、⑤株主総会招集通知、⑥債権者保護手続き、⑦株主総会開催、⑧反対株主の株式買取請求、⑨株主への通知、個別通知、⑩効力発生日、⑪事後開示書類備置、となっています。
このように、選択した手法によって、手間のかかり方も変わってきますので、注意してください。
再生型M&Aのメリット
再生型M&Aを行うメリットとして挙げられるのは、事業の存続を図れることにあります。債務超過や赤字を抱えている企業でも、強みのある事業をひとつでも持っていれば、そこを会社のレガシーとして維持・存続が可能になります。
そこに付随する要素になりますが、業績が悪化している会社ながら従業員の雇用や取引先の維持も果たせる手法なので、企業としては関係者にあまり迷惑をかけないで済むといった側面もあります。
また、人との関係性だけでなく、会社が培ってきたノウハウや築き上げた技術の部分でも、事業を存続させることで受け継がれていきますので、業界やその分野の文化的・知的財産の損失を防ぐことにつながります。
ほかにも、スポンサー企業の支援や不採算事業の切り離しなど、効率的で効果的な事業の再建を目指せる点も見逃せないところでしょう。
スポンサー企業という第三者の助けを借りれることは、債務超過や赤字の企業にとっては大きな恩恵になると思います。自力での立て直しとなれば、資金の面で困難が予想されますし、経営資源にも限界があります。
しかし、スポンサー企業の資金力や経営資源の相互活用による相乗効果を期待できるところとなり、早期の再建も不可能ではありません。
再生型M&Aの注意点!
上記のような魅力的なメリットも多いですが、そもそも再生型M&Aは非常に困難な手法であることを前提として承知してください。
一般的なM&Aに比べ、手続きが複雑であったり、手間がかかるものです。さらに、その過程のなかで最重要事項ともいえる「スポンサー企業探し」もそう簡単に見つかるものではありません。長引けばコスト(時間・費用・労力)が膨らむばかりです。
また、実行するうえでは知識やノウハウ、経験が必要になるので専門家によるサポートは欠かせません。それも一人や二人では足りない状況が発生する場合もあるでしょう。
再生型M&A全体を取り仕切る仲介会社、金融機関とのタフな交渉をする弁護士、財務面でのやりとりを任せられる公認会計士など、成功させるためにはチームとしてさまざまな専門家の助けを借りなければならないといったことも考えられます。
このように、まず費用がかかることが多く想定されますので、ある程度の資金を工面しなければなりません。
「お金」のことでいえば、経営者にとってはシビアな選択を迫られる場合もあります。
通常のM&Aでは事業を譲渡したあかつきには、現役を引退して経営者としての重荷を背負うことがなくなったうえに、取引で得た資金からある程度の現金を退職金がわりにもらえるといったようなケースも多くあります。
しかし、再生型M&Aにおいては、借入金の全額返済ができない場合に保証債務履行を求められるケースもあります。その際に、自己破産しなくて済む代わりに個人の資産を全部差し出さなければいけない可能性も少なからず出てきます。
メリットだけを安直に求めず、難点があることを理解したうえで、経営者として覚悟を持って取り組む必要があります。
まとめ
再生型M&Aは、債務超過に陥ったり、赤字経営の企業でも倒産を回避し、債務や事業を整理するためにM&Aを活用することで再建を目指せる手法です。自力での再生が難しい場合でもスポンサーなどの第三者の支援を得て事業の維持・存続を期待できます。
ひとくちに再生型M&Aといっても「企業再生方式」「事業譲渡方式」「会社分割方式」「第二会社方式」などさまざまなやり方があり、手間や時間、コストなどは通常のM&Aよりかかるものになっています。
大きな特徴は、スポンサーと債権者の存在で、一般的なM&Aでは関わらないこの2つの要素が、再生型M&Aでは非常に重要なポイントになります。
このように、従来イメージするようなM&A案件とは性質ややり方が異なるため、専門家のサポートを欠かすことができません。専門家選びがスキーム成功の鍵を握るでしょう。社会的にも意義の高い再生型M&Aをお考えならM&A仲介会社にご相談ください。

小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役
