ローカルM&Aマガジン

Q「M&Aのスケジュール感や要する期間を教えてください」

投稿日:2023年10月3日

[著]:小川 潤也

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(質問者様)
会社のM&Aを検討しているのですが、どれくらいの期間を要するのか、スケジュール感を教えていただけないでしょうか。

(小川)
わかりました。M&Aをいつまでに完了させたいという希望はありますか?

(質問者様)
社長である私が70歳を過ぎたこともあり、できれば1年以内には終わらせたいと考えています。

(小川)
1年ですね。では、まずはスケジュールについて、M&Aの規模や内容にもよりますが、半年〜1年程度はかかります。相手の企業さまの状況もございますので、条件に適う企業が見つからない場合は2〜3年も覚悟したほうが良いでしょう。

(質問者様)
やはり結構時間がかかるものなんですね。具体的にはどのような流れを想定すればよいでしょうか?

(小川)
M&Aの流れとしては、次のような工程を踏みます。

1.M&A専門業者の選定(M&A仲介業社と契約)→0ヶ月

2.スキームの選定及び企業評価、候補先の選定まで→1ヶ月程度
・スキーム選定と企業価値評価(誰にどのくらいのお金をもらえるようにするか)
・候補先の選定(エリア、業種、企業規模など)

3.候補先への打診から基本合意まで→開始から3ヶ月から6ヶ月
・候補先へ打診(ノンネームで興味あるかを仲介業社がヒアリング)
・候補先の中で関心ある先へ情報開示(秘密保持契約と企業概要の開示)
・候補先のトップと面談
・候補先から意向表明書の提出を受ける(希望金額、スキーム、今後の成長戦略やシナジー効果、従業員の処遇、社名などの取り扱いetc)
・意向表明書の内容を比較検討し、一社に絞り込み
・基本合意書の締結(候補先へ独占交渉権の付与)

4.DDから最終契約締結まで→開始から4か月から9ヶ月
・候補先によるデューデリジェンス(買収監査)の実施
・最終条件交渉と最終契約書の締結→ここまで6ヶ月から1年

5.クロージング→6ヶ月から1年
・関係先と従業員への開示
・クロージング(経営権の譲渡と引き換えに譲渡対価の受け取り)
・引き継ぎと経営統合(PMI)

初めてM&Aを検討される人には聞き馴染みのない言葉もあるかもしれませんが、M&Aを1件成立させるにはこれだけ多くのプロセスと時間がかかります。

(質問者様)
工程を聞いただけでも、かなり大変なことが想像できました。それぞれの工程で気を付けるべきポイントなどを教えていただけますか?

(小川)
はい、それでは順を追って解説しますね。

まずはM&Aを検討する最初の段階で、自社の経営状況や財政状態を把握しておくことが大切です。M&Aの交渉において、トラブルになりやすいのが「情報を出し惜しみ」することです。要求されても、「機密情報は出したくない」と経営情報の開示に否定的ですと、相手は「何か見られたくないことがあるのか」と検討のトーンが下がってしまいます。また、一方で、自社独自のノウハウや特許などがあれば、それは交渉の好材料になります。

自社の状況を整理して、希望条件の優先順位をつけておくとM&Aがスムーズに進められるでしょう。

(質問者様)
事前準備が大事なのですね。これを機に会社の状態を整理して把握しようと思います。

(小川)
最初にすることはM&Aの専門業者に相談して、契約をする必要があります。

自社の希望に応えてくれる業者かどうか、複数社に話を聞いてみることをおすすめします。

特に企業規模やエリアによって、大手仲介会社にするのか、銀行系がいいのか、地元の仲介会社がいいのか、判断に迷うところです。また、ここで気をつけてほしいのは、社内外に相談レベルでも知られないようにすることです。M&Aはかなりデリケートなので、ただ情報収集をしているという話が知られるだけでも、社員や取引先は不安になるはずです。

M&A業者の選び方は「M&A仲介会社か、アドバイザリー会社か? ベストな業者の選び方」でも解説しているので、こちらも参考にしてください。

(質問者様)
業者が決まったら、次は何を行なえばよいですか?

(小川)
M&A専門業者とアドバイザリー契約を締結したら、交渉相手企業の選定のロングリストの提示を受けます。その中から、相手先のエリア、業種、企業規模、特性などを勘案し、どんな会社に譲渡したいかをイメージしていきます。そのイメージを元に候補先を選定し、打診して、興味あるかどうかを確認していきます。

それに先行して、御社を検討してもらうために資料をご用意いただきます。決算書、税務申告書、社員の給与、取引先など、これをみれば財務内容や収益構造、社員の構成がわかり、M&Aをするかどうか、検討する材料になります。それを元に「企業概要書」をまとめ、秘密保持契約を締結した企業へ開示していきます。

(質問者様)
私のような素人には大変な作業な感じがします。資料を用意するだけでも一苦労ですね。 やはり、自分だけでなく、事業をうまく説明して、経理などの責任者にも協力してもらう方がよさそうな気がしてきました。会社を売るにのは難しいのが、これだけでわかりました。

(小川)
そうですね、社長だけだと大変なので、協力者がいた方がなにかと進めやすいです。その際は守秘義務の約束は絶対ですが。

(質問者様)
それはそうと、肝心のいくらで売れるか、誰にお金が入るかはどの段階で提案を受けるのでしょうか?

(小川)
失礼しました。それは2のスキーム選定と企業価値評価の段階です。

M&Aにおいてのスキームとは、手法と一連の手続きのことです。代表的なM&Aの手法は株式譲渡と事業譲渡です。M&Aには様々な手法があり混乱しますが、「会社分割と事業譲渡の違いとは? 知っておきたい5つの特徴」も参考にしていただければと思います。

また、企業価値評価は、売り手側がオファーする価格の妥当性や投資の判断をする重要な評価指標となります。M&A成功のためには、この工程はとても大切です。

(質問者様)
かなり難易度が高そうなので、プロのM&Aアドバイザリーの存在が必要不可欠になりそうですね。

(小川)
はい、いかにM&Aを検討する企業の負担を減らせるかはプロの腕の見せ所です。M&Aは取引金額も大きく、数回のやり取りで簡単には決まりません。売り手と買い手それぞれのことを知るプロセスがとても重要なので、基本合意書の締結まで早くて3〜4ヶ月はかかると思っておいてください。基本合意した後はデューデリジェンス(DD)に進みます。

(質問者様)
デューデリジェンスが重要だというのは聞いたことがあります。気を付けるべきポイントはどのような点でしょうか?

(小川)
DDは、最終交渉の前段階として買い手候補企業が売り手企業を徹底的に調べ上げることです。「M&Aの注意点は?――ネガティブな情報こそ、隠してはならない!」でも解説しているのですが、どんな小さな隠し事でもいずれバレます。売り手企業としてネガティブな情報であっても、必ず正直に伝えましょう。クロージング後に発覚すれば、損害賠償に発展することもあります。

(質問者様)
会社を売却することが目的なのに、損害賠償ともなれば元も子もないですね。

(小川)
DDが完了して、売り手と買い手両方の意思確認ができたら、最終交渉です。M&Aにおける前提条件や解除条件、損害賠償、費用の負担など、詳細な意思確認を経て、最終契約書の締結です。契約締結後は、株式譲渡や事業譲渡の引き渡し、譲渡代金の支払いがなされることで、経営権が移転して取引完了となります。

最終契約を締結したら、従業員さんはとくに立場や今後について不安を抱えているでしょうから、速やかにM&Aに至った背景や譲渡する企業を選んだ理由などを丁寧に伝えるといいと思います。

(質問者様)
M&Aを成立させるのは、非常に大変なことが理解できました。事前準備をしっかり行ったうえで、M&Aを進めてみようと思います。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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