それぞれ似たところもあり、よく混同されますが実は大きく異なります。
事業の継承を検討する経営者は分割と譲渡の違いを明確に理解しておく必要があるでしょう。
今回の記事では、会社分割と事業譲渡の違いを解説します。
「会社分割」とは
会社分割とはM&Aの手法のひとつで、企業が運営する特定事業について、全部または一部を切り離して別会社に移転する方法です。
会社分割には、新規で設立した会社に事業を承継する「新設分割」と、既存の会社に事業を承継する「吸収分割」の2種類があります。
※会社分割については「会社分割という選択肢——メリットとデメリットを解説」で詳しく解説しているので、こちらも参照ください。
「事業譲渡」とは
事業譲渡とはM&Aの手法のひとつで、会社の一部または全部の事業を第三者に譲渡することです。
売り手側は事業を譲渡して失う対価として売却益を得ることができます。一方、買い手側は現金を支払うことで新しい事業を得ることができるのです。
M&Aの手法としては、株式譲渡に次いでメジャーな方法です。
「会社分割」と「事業譲渡」の特徴の違い5つ
上記のとおり、会社分割と事業譲渡は似て非なるもので、それぞれの違いを明確に理解することで大きなメリットを享受できます。
会社分割と事業譲渡の違いについて、5つのポイントに絞って解説しましょう。
ポイントその1:対価が「株式」か「現金」で異なる
会社分割は組織再編を目的に実行されることが多く、その対価としてほとんどが「株式」で支払われます。会社分割後にその株式を売却する際はもちろん、対価は現金です。
一方、事業譲渡の場合は、資産や事業の売買じたいが目的となるため、対価は「現金」で支払われます。
会社分割について、買い手側としては資金調達などで現金を用意する必要がなく、株式の移転で譲渡ができるため、売り手側としてもスムーズに取引を成立させることができます。
ポイントその2:税金メリットが異なる
会社分割は適格分割の場合、消費税が非課税となります。非適格の場合はもちろん、課税されます。
不動産取得税については課税対象となりますが、地方税及び地方税法施行令に定められる会社分割により不動産を取得した場合は非課税となるなど、税金面で有利になる制度が充実しています。買い手側のメリットにはなりますが、登録免許税や不動産取得税の軽減措置も受けられます。
一方、事業譲渡の場合は消費税、不動産取得税ともに課税対象になり、登録免許税や不動産取得税の軽減措置は受けられません。
ポイントその3:契約や許認可の引き継がれ方が異なる
会社分割では、契約は労働契約も含め包括的に引き継がれます。そのため、契約の手続き上の手間が大きく軽減できるのがポイントです。
許認可は承継会社の場合、新規で申請し直しが必要なケースがほとんどです。ただし、行政庁によって異なるので、承継可能かどうかは事前に確認しておきましょう。
事業譲渡の場合は、契約と許認可が個別継承となり、たとえば社員の雇用契約について個別に同意を得て労働契約を締結し直す必要があります。
ポイントその4:財産と負債の引き継がれ方が異なる
会社分割では、売り手側が売却したい事業の権利や義務を包括的に承継します。つまり、売掛金や未払い給与のような負債を、買い手側に引き継ぐことが可能になります。
有価証券のような金融資産や不動産だけを残して財産管理会社にして、事業だけ売却するという方法もとることができます。
事業譲渡は、譲渡対象の資産や負債を個別に指定ができるため、売り手側は借金は引き継がれませんが、事業譲渡代金での返済というケースが多いです。
ポイントその5:株主総会特別決議の有無が異なる
会社分割では、どのようなケースであっても株主総会による特別決議が必要です。つまり、どうしても手続きなどに時間がかかってしまうことは、デメリットになるでしょう。
しかし事業譲渡では、売り手側に関しては「事業の全てを譲渡する場合」と「総資産額の5分の1を超える資産を譲渡する場合」は特別決議が必要になりますが、条件に合致しなければ特別決議の必要がありません。
まとめ
会社分割は条件しだいでは売り手側が有利に譲渡を進められるM&A手法です。
M&Aや会社売却を考えている人は、会社分割も資産を残すための選択肢のひとつとして検討してみてもいいかもしれません。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役