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●自動車業界の構造的変化が経営に影響
――御社は地元で長年経営されてきた自動車販売・整備の会社とのことですね。
父が20代前半で起業し、私が40代の頃に2代目として引き継ぎました。創業からは約70年ほどになります。この業界は法人の方、個人の方を含めあらゆる層がお客様になるので、世の中の景気の良し悪しと連動します。特に、私どもの地元は中小企業の工場が非常に多く、地域経済の浮沈によって、売り上げが変わってくるという事情があります。
――近年、自動車業界そのものをとりまく事情も大きく変化していると聞きます。
ここしばらく自動車の生産台数は減少していて、車種によっては供給が不安定なので、お客様との話に出てくる車の半分程度しか商談ができません。これは厳しいですね。
加えて整備のほうも、ここ数年で新しい法律がいろいろできています。各メーカーが自動ブレーキを装備するようになってから、工場はその整備に対応するための設備を整えて資格をとらなければなりません。設備投資が難しい小さな工場にとっては打撃です。さらに、車検証が電子化されたりして、デジタル化が進んでいます。まさに、変革の時期を迎えている業界であり、個人経営では支え切れない時代に突入しているわけです。
★こうした業界構造の変化は、自動車業界に限った話ではありません。近年は「まだ続けられるが、この先を考えると不安がある」という段階で、事業承継やM&Aを検討し始める中小企業オーナーが増えています。後継者不在の現状や解決策については、下記の記事でも詳しく解説しています。
参照:「後継者不足の現状と解決策、企業存続のための戦略とは?」
●リストアップから入札、相手先決定へ
――そういった変革の時代を迎え、先行きを考えた時にM&Aという選択肢が浮かび上がったのはどのような経緯ですか?
息子たちには折々に商売を継ぐ意思を尋ねてきましたが、結局その気はなさそうで、一般企業に就職してしまいました。かといって親族や従業員にも、会社を仕切ってくれそうな人は見当たらず、これはもうM&Aのプロの方に委ねるしかないと決めたのが、50代の終わり頃ですね。勤め人の友人たちは定年でリタイアし始め、自分もそういう年齢になってきた。ですからこのタイミングで承継の方法を模索し始めて、65歳ぐらいでなんとかある程度の形にしたいと考えました。もしM&Aの相手先様から引き継ぎの役割を果たせと言われれば70歳までは継続してもいい、そして退職するというプランを描いて、相手先を探しはじめました。地元金融機関に相談したところ、紹介されたのが絆コーポレーションさんです。
――絆コーポレーションによる実際のM&Aは具体的にどのように進められたのですか?
まず、資産価値を算定するために不動産鑑定士の方に土地建物の評価を依頼し、売上や景況などうちの企業内容について小川社長に客観的に整理していただきました。それから、こういう内容であればここがいいだろうと、いわゆるロングリストという相手先候補の一覧を作っていただきました。その後、リストに挙がった会社の中から数社に話をもちかけて、入札をお願いしたわけです。その結果、他社より少し高い金額をご提示いただいた会社が、今回のお相手先に決まりました。小川社長のお話ですと、非常にスムーズにうまくいったほうだとのことです。
実際、後継者が見つからない会社にとって、M&Aは「売却」ではなく「会社を次につなぐ手段」になり得ます。後継者不在の会社にどんな選択肢があるのかを整理した記事もありますので、あわせてご覧ください。
参照:「後継者がいない会社、どうすればいい?――4つの解決策とは」
●従来の顧客と従業員を大切にしてくれる譲渡先を希望
――M&Aにあたって譲れない条件はどんなことでしたか?
一つは、法人のお客様を多く抱えている少々特異な地域ですので、そのお客様への今までのサービスを継続してくれるところ。もう一つは、私どもの従業員は十数名ほどなのですが、その全員の雇用を継続してくれるところ、労働条件は最低でも今まで通りか、可能なら少しでも上がればありがたいと、そういうことでお願いしていました。絆さんのロングリストでは、まずその条件に見合うところを出してくれました。
――M&Aを進める中で苦労した点や印象に残っていることはありましたか?
このところ結構、M&Aビジネスが盛んになっているようで、そのM&Aの業者さんからのメールや電話はかなり来ましたね。ただ、地域の他の企業さんでは、都合よく話を持っていかれていいようにやられてしまったとか、首都圏や中京、関西の業者さんに買われて、あっという間にすべて取り上げられてしまったという話も聞きました。うちはその点、地元に強い絆コーポレーションさんですから。リストの相手先はすべて県内の業者さんでした。当初は、よその県の自動車屋さんや全国チェーンの大きな会社とか、そういうような話が出てくるんだろうと思っていたんですが、うちの要望の、従来のお客様のサービスと従業員の雇用を継続して、という話だとやはり県内の業者さんがいと思っていましたので、それはもうありがたかったですね。
M&Aの現場では、このように候補企業を幅広く整理したうえで、相手先を絞り込んでいくのが一般的です。「ロングリスト」という考え方そのものを詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考になります。
参照:「ロングリストとは? M&Aの買い手候補を見つけるプロセス」
●「あと何年続けるか」より「次へどうつないでいくか」
――今後、ご自身は完全に引退されるのですか? あるいは会社と関わりを続けるのでしょうか?
私はしばらくは相談役で残ることになっています。引き継がれた会社は同じ県内を商圏にしていたとはいえ、やはりこの地域には独特の空気感があって、いろいろ分からない部分もあると思いますので。ある程度の期間、元々のうちのお客様と新しい会社のスタッフとの橋渡しが必要だろうと思います。私のいる必要がなくなれば、その時は去るのがいいでしょうね。
――近い将来、M&Aを考えている経営者の方に、経験者としてメッセージがありましたらお願いいたします。
中小企業では、70代、80代の社長さんはざらにいらっしゃいます。ただ、後継ぎがいればこそ、その年齢でもできるということだと思います。うちの場合は70、80になって体でも壊したら、じっくり見定めてM&Aというわけにはいかないでしょう。廃業せざるを得ないかもしれません。周りでは実際にM&Aに舵を切る前に倒産したという話も聞きます。そう考えると、こういうことは少し早め、まだ余力があるうちがいいタイミングなのでしょうね。今回、引き継ぎのご挨拶に回っていても「ちょっと引退には若いんじゃない?」と、私より年配の社長さんに言われますが、私からすれば潮時だったと思っています。
親から継いだ会社ということで、一部には「気持ちがドライすぎるのでは」と思う方もあるようですが、周りのほとんどの社長さんは、「いいお相手が見つかってよかったですね」とか、「うちもM&Aを考えることがあるんですよ」と肯定的に捉えてくださっています。
「あと何年続けるか」よりも「次へどうつないでいくか」という思考転換が、結局は会社を守ることになるのではないでしょうか。
――計画性を持った早めの決断で、譲れない条件は守りながら納得のいく形でM&Aを成功させたH・O様。今後も地域の皆様の「足」を支える信頼の企業として、ますますのご発展をお祈りしております。
M&Aでは価格だけでなく、「誰に引き継ぐか」「何を守りたいか」が同じくらい重要です。とはいえ、譲渡価格がどう決まるのかは多くの経営者にとって気になるポイントでしょう。価格の決まり方については、下記の記事でわかりやすく解説しています。
参照:「M&Aの『値段』はどう決まる? ――会社売却価格のしくみと高く売るためのコツ」
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役




