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後継者不足の現状と解決策、企業存続のための戦略とは?

投稿日:2025年6月23日

[著]:小川 潤也

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日本の中小企業は、後継者不足という深刻な問題に直面しています。少子高齢化に伴い、後継者が見つからない企業が増え、事業継承の重要性がますます高まるばかりですが、後継者不足は企業の存続や地域経済に大きな影響を及ぼすため、早急な対策が求められます。

本記事では、後継者問題の現状と、その解決策として注目されるM&Aや専門機関の活用方法について詳しく解説します。

後継者不足の現状は?

日本は未曾有の少子高齢社会を迎え、多くの場面で人口問題に端を発するさまざまな懸念が表出しています。

2025年には団塊の世代が後期高齢者となり、中小企業の多くの経営が引退を考えるなか、後継者のなり手が見つからない現状となっています。

中小企業における後継者不在の実態

中小企業庁の発表によれば、中小企業における後継者不在率は2018年から減少傾向にあるものの、改善幅としては停滞が見受けられ、直近でも半数以上の企業で後継者がいない状況となっています。

事業継承に対して、官民関係なくその重要性を広く呼びかけ、相談窓口も全国的に普及したことから問題意識が高まってきていますが、いまだに予断を許さない状況ではあります。

2023年の調査では、後継者が決まっている企業はわずか1割程度、反対に後継者が決まっておらず廃業を予定している企業が60%に迫るものと、厳しい現状を数字が表しています。

参照:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings230323_1.pdf

業種別・地域別の後継者不足の傾向は?

業種別に不在者不足の傾向をみていくと、建設業・小売業・サービス業で不在率が高い数値で推移してることが確認できます。
 
特に建設業では、専門技術の習得に時間がかかるなど、短いスパンで改善することが難しい面が要因としてあるでしょう。細かく業種を確認すると、住宅建築などの「職別工事業」や病院・診療所といった「医療業」がワースト上位に入るなど、やはり特殊な技術を要する業種で高い不在率が見られました。

また、都道府県別では、秋田県と鳥取県が70%を超える率を示すなど、全国平均を大幅に上回る結果となりました。秋田県は65歳以上と75歳以上の人口比率でトップクラスの「高齢県」。他の東北県では50%台、山形は40%台以下となっていることから、不在率高さの背景がうかがえます。

山陰や四国など地域経済に課題を抱える、若年層の都市部への流出が懸念されるような地域では後継者不在率が目立つようです。

全国的にみると、後継者不在率が60%を下回った都道府県は減少し、後継者問題に一定の効果が認められるものの、大きく改善されたような状況とはいえないようです。

ちなみに、都道府県でもっとも不在率が低かったのが三重県で、4年連続全国低水準。ただ、18年では69.3%を記録していたので、後継者問題にきちんと取り組めば効果を期待できることがわかります。

参照:帝国データバンク
https://www.tdb.co.jp/report/economic/succession2024/

後継者不足を招く主な原因は?

生活様式の変化や時代の流れとして、さまざまな業種業態で人材確保が困難になっていることもありますが、後継者不足の主要な原因としては以下の要素が挙げられます。

少子高齢化による後継者候補の減少

少子化により、そもそも人口減少傾向です。2020年の出生数が過去最低を記録し、2030年にはあらゆる業界で深刻な影響が生じることが懸念されています。いわゆる2030年問題です。

少子化による労働人口の減少が顕在化し、人材不足が深刻な状況に陥る可能性が指摘されています。人材獲得に向けた競争の激化、人を呼ぶための人件費高騰などが懸念され、後継者候補どころか、普通の働き手にも事欠く事態となりかねません。

さらに地方都市では若年層による都市部への転出が頻繁に起こるため、地域人口における若者比率は低下する一方です。
 
親族内での継承の場合、後継者や後継候補者は「30〜39歳」がボリュームゾーンとなっています。また、候補者としては「29歳以下」が2番目に高い割合で、の若い人材を求める傾向にあります。

少子化や東京への人口一極集中によって適齢年齢の人材が少なくなることから、後継者不足を招くのです。

経営環境の変化に対する先行き不安

グローバル化が当たり前の時代、競争相手が商圏内の同業他社だけでなく、世界規模での競争にさらされるような状況も珍しくはありません。

また、ITやデジタルといったテクノロジーの進化による急激な社会の変化に対応することも難しいでしょう。いま世の中を席巻しているAIなど、今後どういった影響を及ぼすかわかりません。

さらに、新型コロナウイルスによる世界的流行を筆頭に、戦争、地震、異常気象といった不測の事態が頻繁に起こる可能性も少ない状況で、将来に対する将来の不透明さが、事業継承という責任の重さを考えたときに躊躇してしまう要素となり得ます。

事業承継の準備不足

中小企業庁が公表する「事業継承ガイドライン」には、事業継承に必要な準備期間を5〜10年としています。
 
しかし、中小企業の経営者は日常の業務が忙しく、なかなか事業継承の準備まで手が回らない現状があります。また、そんな時間と予算があるなら、いま会社を成長させるために使ったほうがマシだと考える経営者も少なくないでしょう。

中小企業の経営者を年齢別でみると、60代が約30%、70代が約20%と、この二世代だけで半分を占めます。また、70代の割合が年々増加しており、経営者の高齢化をデータが示しています。

平均健康寿命は70代前半なので早めに着手しないと何が起こるかわかりません。経営者の平均年齢は62.2歳なので、そのあたり、還暦くらいには経営継承に着手しないと準備不足となってしまいます。

親族内での事業承継意欲の低下

 日本の中小企業では、同族経営の割合が非常に高く、多くの場合で事業を継承する際は子どもや親族を後継者にしていました。国税庁の統計によれば、平成23年度における同族企業は日本の法人企業全体の96.9%です。

 しかし、市場環境の変化から将来性の不安を感じたり、社会の多様化によりさまざまなキャリアを選択するなど、経営者の子どもが親の事業を継ぐ機会が減少してきています。

 後継者の属性をみると、もっとも多いのが非同族で約4割を占めています。非同族の割合が増えている傾向が続いています。一方で、子どもや配偶者は低下傾向となっています。


 
また、経営者自身も継承することを考えていないケースが目立ち、廃業を予定している企業においてもっとも高い割合を占めた廃業理由が「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない」となっています。

保守的な土地柄だったり、古い考えが支配的な地域では、第三者への事業継承に対する拒否反応が根強く残る経営者も少なくありません。

事業に関する懸念

前項「親族内での事業継承意欲の低下」に関係する部分もありますが、企業として多額の負債を抱えているような状況では、後継者にその責任がわたるので、事業の継承を躊躇してしまい、その結果として後継者が不在という状況になるケースもあります。

特に中小企業では「経営者保証」、つまり個人として会社の債務を保証することになりますので、後継者の負担が増大することで、事業継承が困難になります。

後継者不足による影響は?

中小企業庁では、中小企業および小規模企業者廃業の急増が影響して20兆円規模のGDPが失われる可能性に言及しています。

日本の企業全体における中小企業の割合は99.7%と、法律で定義された区分ではほとんどが中小企業になります。中小企業の後継者不足は、考えている以上に大きな影響を及ぼします。

現状でも、後継者不在により事業継続が困難になった、いわゆる「後継者難倒産」の増加ペースが加速しています。2年連続で500件を超える予測で、高水準での推移となるようです。

ほかにも、以下のような影響が考えられます。後継者というと一企業の個人的な問題といったふうに映ってしまいがちですが、日本全体にとっての大きな問題なのです。

企業の廃業リスクの増加

後継者がいないことで、黒字経営であっても廃業しなければならないケースも増加するでしょう。

2025年には70歳以上の経営者が約245万人となりますが、約半分の127万人で後継者が未定となっており、このうちのさらに半数で黒字廃業の可能性があります。

廃業を予定している企業における廃業理由として「子どもがいない」「子どもに継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者難による廃業が約3割を占めます。 

また、後継者未定の企業では、「売却してまで事業を継続させたいとは思わない」と考える割合が60%近くを占めるなど、後継者不足によって廃業にいたるという可能性が高いことが示さています。

地域経済への影響

日本の産業を支えている中小企業ですが、特に地域に密着する地方では、地域経済の基盤を支えているので、後継者不足がネガティブな結果をもたらすことにつながるでしょう。

後継者不足により廃業する企業が増えれば、地域の経済活動が減少し、地域全体の競争力も低下します。そうなると、外部から企業を招致することも難しくなり、地方の衰退に発展します。

雇用が減るので仕事を求めるために若年層の流出が進み、商店や飲食店などのサービスも徐々に失われ、街から活気がなくなる、といった負のスパイラルに陥る可能性が増します。
 
また、後継者の問題といえば、特殊な技能を必要とする伝統工芸品などを連想しますが、こういった観光資源にもなる産業も衰退し、地方独特の技術や文化が失われるリスクも発生します。

従業員や顧客への影響

後継者がいない企業では、そのことで将来への不安が高まります。このまま事業を継続するのかどうか、生活がかかる従業員にとっては重要な問題であり、廃業する前に転職を考える従業員も出てくるでしょう。
 
あるいは、いずれなくなるかもしれない会社では、働くモチベーションを保てなくなり、生産性が低下するなど、業務や業績に悪影響を及ぼすことも考えられます。

一方、取引先でも、先行きが不透明な企業として契約を見直したり、そこまで付き合いを深くしないなど、関係性に変化が生じるケースも。
顧客としては、商品やサービスの低下による満足度の減少、なくなることを見越した新規開拓など、利用者が離れていってしまう懸念があります。

後継者不足への解決策は?

中小企業にとって、さまざまな問題やリスクを孕む「後継者不足」は、すぐに対応しなくてはならない喫緊の課題です。その解消に向けての解決策として、以下のようなものが考えられます。

従業員への承継

親族経営の多い中小企業ですが、企業内の従業員を後継者として選ぶ事例が増えています。後継者が決定している企業でも、親族以外の役員や従業員を後継者候補としている割合が約2割で、増加傾向にあります。
 
2割というとあまり多くないように感じますが、もっとと割合の高い「長男(33.7%)」についで2番目で、長男以外実子や義理の息子・娘、配偶者といった肉親より多い数値です。

また、帝国データバンクの調査によると、代表者を交代した企業では、業界経験10年以上ある後任代表者が8割を超える一方で、経営経験が3年未満の割合が多いなど、ベテラン社員や役員の登用を示唆するデータを確認できたようです。

 長年働いている従業員なら能力も人柄も知るところです。もちろん、会社の仕事も熟知しており、社内の雰囲気や他社との関係性もそれほど変わることなく円滑に事業継承を期待できます。

外部からの後継者

異なる企業や組織から後継者を招聘するケースも有効です。

従業員を昇格させる場合は、経営の経験がないことがネックとなることもあります。後継者決定企業に、事業継承の際に問題になりそうなことについてアンケートを取ったところ、「後継者の経営能力」について不安視する声がもっとも多くありました。

社外から後継者を招く場合なら、経営経験も考慮できるので、そういった不安点も解消できます。

実際に社外の第三者を後継者として迎え入れる割合も増えており、中小企業における「脱ファミリー化」の傾向が見られます。

M&Aによる事業承継

後継者が見つからない場合の対策として、M&Aを活用した事業継承があります。イメージとして「買収」のニュアンスが強く、あまり事業継承を想像できないかもしれませんが、たとえばZOZOTOWNをヤフーに売却した事例も、事業継承にあてはめることができるでしょう。

ZOZOTOWNの名前をほとんどそのままに同様のサービスを展開しています。本社の場所も同じ市内の移転であり、従業員の雇用なども継承されています。
 
このように、M&Aによって第三者に事業を受け継ぐことが可能であり、現在は中小企業によるこの方法が注目されています。

当事者である後継者未定企業でも、「事業を継続させるためなら売却してもよい」と回答した企業が約4割にのぼります。また、3/4の企業が何らかの経営資源を誰かに引き継知恵もらいたいと考えるいるようです。

引き継いでもらいたい経営資源のうち、割合がもっとも高い対象が「事業全体」、次いで「従業員」とまさにM&A要件にマッチした内容となっています。

M&Aによる事業継承では、M&A仲介会社などの専門業者に相談、依頼する必要があります。専門家のサポート受けながら、専門家ならではの豊富な経験と広いネットワークを駆使し、安心確実な事業継承を期待できます。

事業承継計画の早期策定

事業継承、つまり後継者を育てるには時間がかかります。

後継者を決定してから事業継承が完了するまでの移行期間は3年以上が5割を占め、10年以上を見込む可能性も少なくありません。もっとも多い期間で5〜10年と、ある程度のスパンを見越して早めに事業継承計画を立てる必要があります。

先にも述べたように、経営者の高齢化が進むなかで、限られた時間を有効に活用しなければなりません。事業を続けていきたい意思があるのであれば、まずは準備や対策です。そこで頼りになるのが専門家や専門の組織です。

専門組織の活用

後継者問題を解決するために、公的による専門組織に相談するもの解決策のひとつです。公的機関としては「中小企業庁」や「中小企業基盤整備機構(中小機構)」などが存在します。

中小企業庁では、「事業継承ガイドライン」「中小M&Aガイドライン」などを公表し、中小企業庁における事業継承やM&Aをサポートしています。

また、事業継承・M&Aの補助金制度を設けたり、M&A支援機関登録制度を開始するといった支援も行っています。

中小機構では、「事業継承・引き継ぎセンター」を設置したり、「事業継承フォーラム」を行うなど、中小企業事業継承円滑化支援事業を広く展開しています。

中小企業の後継者を育成する方法

事業継承計画を考えるうえで、大きなポイントとなるのが後継者の育成です。親族による継承でも社内従業員による昇格でも、後継者を決めるだけでは充分ではありません。経営者として事業を任さられるように育てる必要があります。

後継者が決まっていても、事業継承の際に問題になりそうなことを抱えていると考えている企業は7割に迫る割合で存在します。特に「後継者の経営能力」を問題視する企業が全体の1/4以上となる28%となっています。

このことからも「後継者の育成」の重要性を理解していただけるはずです。

社内の主要部門で業務経験を積ませる

親族経営の企業ではよく見受けられる手法ですが、社会の核となる事業で、それなりのポジションに就かせながら経験を積ませることで、ビジネスマンとして成長を促すパターンです。

会社の強みを把握するのはもちろん、部門間の連携を学びながらその重要性を認識したり、上下左右さまざまな立場の従業員とのコミュニケーションを図ることで信頼関係を構築できるなど、効果的に育成できます。

現場からスタートさせ、管理部門で経営に必要な知識を習得し、プロジェクトリーダーなど責任ある立場で業務を行ってもらうといった育成プランが考えられます。

経営幹部として意思決定などを任せる

責任ある立場を担当させ、実践的なリーダーシップや判断力、リスク管理能力などを養わせる方法です。経営者のスキルアップに直結する重要なアプローチといえるでしょう。

その際は、後継者の意思決定について結果のデータ分析やプロセスなどのチェックを行い、成功ポイントや改善点などフィードバックさせるとより効果的です。

ただ、いきなり役職待遇などにせず、段階的に大きな意思決定へ関与させるような手順にするのが望ましいでしょう。

経営者が直接指導する

秘書や助手、補佐役といった立場で経営者の日々の業務に同行させ、実践的な経験を積ませながら指導していくスタイルの育成方法もあります。

直接伝えることで理解度が深まり、ビジョンや経営理念を確実に継承させることにつながります。また、直接やり方を見ることでノウハウや知識の習得をスムーズに行えるとともに、その経験がケーススタディとして今後に活かされることを期待できます。

さらに、取引先周りや業界関係者などと接する機会が多くなり、人脈形成の場となる役割も果たします。関係性も継承できれば、引き継いだ後の経営が安定する可能性が高くなります。

セミナーを受講させる

事業後継者育成のためのセミナーが多く開催されています。経営スキルの習得など、後継者にとっては良い機会となるでしょう。

中小機構では、中小企業経営者・後継者のための「事業継承セミナー」を開催するほか、全国九か所に「中小企業大学校」という人材育成期間を設け、実践的なカリキュラムを提供しています。

また、東京都中小企業振興公社では「戦略的事業継承セミナー」や「事業継承塾」などが開催され、必要な知識やスキルを獲得できるなど、後継者の育成を支援しています。

まとめ

日本の中小企業は、少子高齢化や経営環境の変化が及ぼす影響により、深刻な後継者不足に直面しています。

後継者不足を招く主な要因としては、親族内での事業継承意欲の低下や準備不足がありますが、いずれも廃業リスクを高めるなど、経済や雇用に深刻なダメージを与える可能性があります。

解決策として、後継者の育成や事業継承計画の早期策定も有効ですが、いまM&Aによる事業継承が注目されています。「事業継承・引き継ぎ支援センター」などの専門組織や、専門家のいるM&A仲介企業を有効に活用することが、企業の存続に向けた重要な戦略となります。

特に地域に密着したM&A専門業者であれば、地域の実情を踏まえながら、豊富な経験と対応力で、的確・明確なアドバイスを受けることを期待できます。

廃業を予定している企業でも、廃業予定年齢が80歳以上24.8%、75〜79歳が28.9%と、多くの経営者が長く続ける意思を示しています。「やっぱり事業継承を考えたい」と意見が変わる可能性もあり、その際には比較的短い期間で実行できるM&Aによる事業継承が最適ではないでしょうか。

そういった場合でもぜひご相談ください。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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