ローカルM&Aマガジン

事業譲渡とは? ――スムーズな手続きを実現するための基本知識と全体フローを解説

投稿日:2025年12月1日

[著]:小川 潤也

「後継者がいない事業だけを誰かに譲りたい」「不採算部門を整理して、主力事業に集中したい」――こうした経営課題を解決する選択肢の一つに「事業譲渡」があります。事業譲渡は、会社全体ではなく、特定の事業だけを売買するM&Aの手法です。うまく活用すれば、会社の存続と成長のための強力な一手となり得ます。

本記事では、事業譲渡の基本的な仕組みから、具体的な手続き、そして成功させるための注意点まで、経営者が知っておくべきポイントを分かりやすく解説します。

◆事業譲渡とは?M&Aの他手法との違いを理解しよう

事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を、他の会社に売却するM&Aの手法です。
最大の特徴は、売却する資産や負債、契約などを契約によって柔軟に選別できる点にあります。会社そのものを売買する「株式譲渡」とは異なり、事業譲渡では会社の経営権は売り手に残ります。

◆どんなケースで「事業譲渡」が選ばれるのか

事業譲渡は、売り手・買い手双方の特定のニーズに応えることができるため、様々な場面で活用されます。
一例ですが、売り手側の活用ケースには以下のようなケースがあります。

・事業の選択と集中
不採算事業や本業との関連性が低い事業のみを売却し、得た資金や人材を主力事業に集中させたい。

・後継者問題の解決
複数の事業のうち、後継者がいない事業だけを切り出して譲渡したい。

・経営再建
会社自体は残しながら、一部事業を現金化し、財務状況の改善や新規事業の資金に充てたい。

一方、買い手側にも以下のような活用ケースがあります。

・リスクを限定した新規事業参入
必要な事業や資産だけを選んで買収し、簿外債務などの潜在的リスクを引き継ぐことを避けたい。

・低コストでの事業拡大
会社全体を買収するほどの資金はないが、特定の事業を獲得してシナジー効果を狙いたい。

◆事業譲渡の流れとスケジュール感

事業譲渡は、他のM&Aと同様、準備から最終的な引き渡しまで、計画的に進める必要があります。一般的には、以下のような流れで進みます。

1.準備・交渉段階:M&Aの専門家への相談から始まり、売却・買収の戦略を練ります。候補先を選定し、経営者同士のトップ面談を経て、基本的な条件を固める「基本合意書」を締結します。

2.デュー・ディリジェンス(DD):買い手が、売り手企業の事業内容や財務状況などを詳細に調査します。

3.最終契約・決議:DDの結果を踏まえ、最終的な条件を盛り込んだ「事業譲渡契約」を締結します。その後、原則として双方の定款に即して、取締役会や株主総会での承認決議が必要です。

4.クロージング(引き渡し):契約に基づき、資産や負債の引き渡し、譲渡代金の決済、各種名義変更などを行い、手続きが完了します。

事業譲渡は、個別の手続きが多いため、全体のスケジュールは数ヶ月から長くて6か月かかることもあります。

このあたりの実情については、下記の過去記事もぜひあわせてご参照ください。
参照:検討開始から譲渡まで2ヶ月!? 驚きのスピードM&A体験談
https://www.kizuna-corp.com/column/interview3/

◆必要な手続き・関係者との調整ポイント

事業譲渡を円滑に進めるためには、法的な手続きと関係者との丁寧な調整が不可欠です。

従業員の雇用
事業譲渡では、従業員の雇用契約は自動的には引き継がれません。買い手企業と従業員一人ひとりが個別に同意し、雇用契約を再締結する必要があります。従業員の不安を払拭するため、処遇や労働条件について事前に丁寧な説明を行うことが重要です。

取引先との契約
取引先との契約も、個別に承諾を得て、買い手企業が新たに契約を結び直す必要があります。

許認可の再取得
事業に必要な許認可は、買い手が改めて取得し直さなければなりません。許認可の種類によっては取得に時間がかかるため、事業開始が遅れるリスクも考慮しておく必要があります。

◆譲渡時の注意点とリスクとは?

事業譲渡には多くのメリットがある一方、注意すべき点やリスクも存在します。

売り手の注意点
売り手側が事業場閉じに注意するべきポイントは以下の3つが挙げられます

・手続きの煩雑さ
資産や契約の移転を個別に行うため、手間と時間がかかります。

・税金の負担
事業の売却によって得た利益(譲渡益)に対して、法人税が課せられます。

・競業避止義務
会社法により、原則として譲渡後20年間は、同一または隣接する市町村で、譲渡した事業と同じ事業を行うことができません。

買い手の注意点
一方、買い手側にも注意するべき点があります。

・人材流出のリスク
事業譲渡と経営者の変更に対し、従業員の同意が得られず、重要な人材が離職してしまう可能性があります。

・不動産は移転登記が必要
土地や建物などの不動産は事業譲渡による、所有者の移転登記が必要です。その際、登録免許税などが発生します。

◆事業譲渡に関するよくある質問Q&A

事業譲渡でよく寄せられる質問と回答をご紹介します。

Q1. 事業譲渡契約書には、どのようなことを記載すればよいですか?
A1. 法律上の決まった形式はありませんが、トラブルを避けるため、「譲渡対象となる事業の範囲」「譲渡価格と支払方法」「資産・負債・契約の移転手続き」「従業員の処遇」「競業避止義務の有無と範囲」などを明確に記載することが一般的です。

Q2. 会社の借入金などの債務はどうなりますか?
A2. 事業譲渡では、契約書で引き継ぐと定めた債務以外は、買い手に承継されません。売り手企業は、どの債務を譲渡し、どれを残すかを選択できます。

Q3. 従業員の雇用や給与は守られますか?
A3. 雇用契約は自動で引き継がれないため、買い手企業と従業員の間で新たに雇用契約を結ぶ必要があります。給与などの労働条件は、この新しい契約によって定められます。そのため、M&Aの交渉段階で、従業員の処遇について売り手と買い手がしっかりと協議し、従業員に誠実に説明することが、人材流出を防ぐ上で極めて重要です。

◆まとめ――事業譲渡を検討するなら、まず「目的とゴールの明確化」を

事業譲渡は、事業の選択と集中や後継者問題の解決に有効な経営手法ですが、手続きが複雑で、税務や法務に関する専門的な知識が不可欠です。

成功の最も重要なカギは、「なぜ事業譲渡を行うのか」という目的を明確にすることです。目的がはっきりすれば、どの事業を、どのような条件で売却すべきかという戦略もおのずと見えてきます。

「そろそろ事業の将来を考えたい」と思った時が、検討を始めるベストタイミングかもしれません。まずは一度、信頼できる専門家に相談し、自社の可能性を探ってみてはいかがでしょうか。

以下の記事もあわせてご覧ください。
参照:Q「会社売却と事業譲渡の違いを教えてください」
https://www.kizuna-corp.com/column/qanda-2/

参照:事業承継に日本政策金融公庫が使える! 支援制度を解説
https://www.kizuna-corp.com/column/seisakukinyukouko/

著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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