子どもたちは会社を継がず、従業員承継もとん挫
――今回、工務店のM&Aを実行された理由は何でしょうか?
私が60代半ばを過ぎたころ、従業員から「うちの会社はどうなってしまうんですか?」という声が出てきました。
そこで会社の引き継ぎを考え始めたんですが、まず息子と娘に継がせる選択肢はなかった。本人たちに継ぐ気がなかったし、私としても彼らには自分の好きに生きてほしかったので、会社を継いでくれと言うつもりもありませんでした。
ただ、実は当初、会社の行く末を心配する従業員のなかで「自分が継ぐ」と手を挙げた人物がいたんですよね。
――従業員承継ができそうだったんですか。それはラッキーなはずでは?
そう思って、まずはその従業員に3年間、専務に就いてもらったんです。3年後には社長をやってもらうからね、と言って。私の報酬を落として給与を上げてやりましたよ(笑)
で、3年後にその専務を社長に就任させたんです。そうしたらなんと、たった1年で本人が「やめたい」と言い出した。
――えっ。理由はなんですか?
経営者をやることで家族との団らんの時間が奪われるからやめたい、と言ってきたんです。要は、社長をやる覚悟がない人物だったんですね。
実はその前から、その従業員の親類縁者をとんでもない高給で副社長に引き入れようとしたり、おかしいなと思うところがありました。それで結局、家族との時間を優先したいから辞めるという話になったんで、ああこれはダメだなと。
会社を継ぐ相手のあてがなくなったところで、売却することに決めました。
約2ヶ月の「スピード婚」M&A
――絆コーポレーションさんにM&Aサポートを依頼された理由は?
絆コーポレーションの小川さんは元々知り合いだったんです。家族ぐるみの付き合いがありまして。
私は会社の創業以来、ずっと地域の皆さんに支えられてここまでやってきました。工務店以外に介護ビジネスをやっているのも、実はなにも社会貢献的な志があったわけじゃなく、地域の皆さんや従業員からの要望があったから結果的にやっていただけなんです。
ですから、M&Aという会社の一大事に関しても、地域の人に支えてほしかった。ですから、地元の会社である絆コーポレーションさんに決めました。
――実際にM&Aを進めるなかで苦労したエピソードはありましたか?
全くないです。確かその年の7月くらいにM&Aをすると決めて、10月に入るころには買い手さんがプレスリリースする日程も決まってしまっていたぐらいで、すごく早くM&Aが決まったので。
買い手の候補は確か2社、手を挙げてくれていましたが、そのうちの1社が私も社長さんを知っている会社で、その会社と交渉に入りました。その後は結局、M&Aに関して先方さんに会うのは正味2回とかでとんとん拍子に譲渡まで進みましたね。
絆コーポレーションさんも、こんなにスムーズに進むのは逆になかなかないケースだと驚いていました。
――それはすごい。では、今はリタイア生活ですか?
いや。今は障害者向けのグループホーム事業を準備しています。これも地域からの希望があってね、私がやるしかないだろうと。
もう私も70歳を過ぎていますからこれが最後の事業と思って、気合を入れて取り組んでいるところです。
今回のグループホーム事業を走り出させて、道ができたところで若い志ある人に事業を受け継いでいってもらうのが、最後の目標ですね。
――M&Aに成功して悠々自適のリタイア生活かと思いきや、次の事業へ挑戦し続けるH.Uさん。生涯現役の経営者として、今後のご活躍も楽しみにしています。

小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役
