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絆コーポレーション

ローカルM&Aマガジン

Q「会社売却と事業譲渡の違いを教えてください」

[著]:小川 潤也

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(質問者様)
ソフトウェア開発と人材ビジネス、WEBメディア運営の事業を営む経営者です。

会社の業績は悪くありませんが、50代に入ってM&Aでアーリーリタイアしようかと考えています。いろいろ調べているなかで、「会社売却」「株式譲渡」「事業譲渡」など、M&Aを表す言葉にも種類があることを知りました。自社の場合はどんな方法が向いているのか、悩んでいます。

(小川)
いろいろな専門用語があるから、業界関係者以外の方にはなかなかわかりにくいですよね。一つひとつ解説していきましょう。

まず、「事業売却」というM&A全体を表す概念があり、事業を売却する手段のなかに「株式譲渡」「事業譲渡」という種類がある、というのが基本です。
質問者様がおっしゃる「会社売却」というのは、株式譲渡で全ての株式を買い手企業に売ってM&Aをする手法を指している場合が多いですね。

株式譲渡と事業譲渡が、中小企業・中堅企業に多いM&Aのパターンです。


(質問者様)
それぞれ、どういった方式なんでしょうか?

(小川)
「株式譲渡」は、その言葉どおり会社の株式を新オーナーに譲り渡す方式です。基本的には、株主の売り手は買い手から対価を現金で受け取ります。
注意点としては、売り手企業の社長が株式を100%所有している場合はとてもシンプルに譲渡できますが、株式が分散している場合には株主全員と株式譲渡契約を結んでもらうか、事前に社長が買い取っておく必要があります。売却金額も含めて承諾を得ないといけないので、調整がハードルになる場合が多いですね。

質問者様の会社の株主構成は、どうなっていますか?

(質問者様)
私が70%で、親族何人かに散っていますね。あとは、独立前に勤めていた会社から最初は出資を受けていて、今も10%くらいは古巣の会社が株を持っています。

(小川)
そうすると、調整が少し大変そうですね。M&Aを本格的に進めるときは、株主の同意を取り付ける期間を長めに考えておいたほうがいいかもしれません。

続いて、「事業譲渡」についてです。
「事業譲渡」とは、会社の全部ではなく一部を譲渡する形式のM&Aです。

譲渡の対価は株主個人ではなく、事業を譲渡した会社に入ります。土地や建物などの不動産など会社が事業をやるのに必要な資産は営業用資産といい、基本的に事業と同時に売ることになります。何を売り渡すかを契約によって移転範囲を決めることになります。
注意しないといけないのは事業譲渡の場合、株主総会の特別決議で2/3以上の株主の同意が必要となります。

質問者様の会社は複数の事業を展開されていますが、どのような構造になっていますか?

(質問者様)
ソフトウェア開発と人材ビジネス、WEBメディア事業ですが、ソフトウェア開発の受託のほうが会社としてはメインですね。私はもともとエンジニアで、祖業ですし。人材ビジネスのほうは、開発受託のお客さんからの「人だけ貸してほしい」という要望が多かったので始めたエンジニア派遣業なんですが、近年伸びてきています。

WEBメディアは、私の趣味みたいなものですね。アフィリエイトや広告代理店からの紹介案件で、細々と広告収入は入っていますが。

(小川)
なるほど。では、何かの事業を残して一部を売却するとしたら、どの事業を売りたいですか?

(質問者様)
ソフトウェア開発を残して人材ビジネスとWEBメディアを売りたいですね。人材ビジネスのほうは売上が上り調子で、買ってくれるところもあるかなと。最近はとにかくエンジニア不足なので、うちみたいにエンジニア人材のプールを抱える会社は価値があるらしくて。実際、売ってくれないかって話が来たこともあるんですよ。

WEBメディアのほうは、記事の企画を私がしっかり見なければページビューがどうしても稼げなくて、結構手間を取られるんですよ。好きでやっているんですが、正直、もうやめてもいいかなと。ソフトウェア開発事業はもう事業部に丸投げしていて、私は睨みだけきかせておけばいいので、この事業だけ残してまずは半分リタイアっていうのはいいかもしれません。

(小川)
具体的なイメージが湧いてきたようですね。事業が分かれているので、その二つの事業の売却は可能そうですね。ただ、事業譲渡の場合、取引先との契約や従業員との雇用契約は買い手が新しく契約をし直す必要があります。

残す事業があるのであれば会社分割という方法で、受託開発と人材BIZ,WEBと分割して、売却することも可能です。会社分割の場合は株式譲渡となるので、新しく契約をやり直す必要はありません。ただ、会社分割する煩雑な手続きがありますが。

(質問者様)
そんな方法もあるのですね。ちなみに、今話したように、いったんふたつの事業を先に売却し、時間をかけて持ち株を集約してから株式譲渡で会社を手放す、ということも可能なのでしょうか?

(小川)
方法としては可能です。しかし、残ったソフトウェア開発事業を売ろうとしたタイミングで買い手がつく状態になっているか、という判断になるのでなんとも言えませんが……。質問者様としては、自社の開発事業の強みはどのあたりにあると思いますか?

(質問者様)
顧客基盤ですかね。もう新規営業はほとんど必要なくて、既存のお客様からの保守業務だけで会社が回る状態にはなっているので。金融関係の特殊なシステムが得意でして、セキュリティなどの問題もあって、うちでなければ手を入れられない状態のシステムをもつクライアントが結構いるんです。

(小川)
それは大きな強みですね。

やはり、その時になってみないとわからないところではあるのですが、財務状況を良好に維持しておけば質問者様がおっしゃるような二段構えのM&Aも可能かもしれません。現在の業績がいいなら株式譲渡ですべて売却してしまったほうが、質問者様に確実にお金が入るという意味ではメリットがありますが。しかし、少数株主の同意を得るのに時間がかかるのであれば、二段構えも選択肢の一つですが、最初の二つの事業を売却するときは先ほども言いましたが、株主総会の決議が必要なので、他の株主の方には売却するということは知られせることになります。

M&Aはやり方によって、売り手企業のさまざまなニーズに応えられる手法です。大株主のご意向が第一ですし、事業の業績、社員さんの動向も重要です。総合的に検討して、ぜひまた具体的な相談にいらしてください。

(質問者様)
ありがとうございます、大変勉強になりました。今日のお話も参考に、M&Aという選択肢をもう少し考えてみます。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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