ローカルM&Aマガジン

M&Aの相談相手、どこがいい?――大手仲介会社の落とし穴

投稿日:2025年5月27日

[著]:小川 潤也

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あなたが経営者なら、M&A仲介会社の営業DMが次々と舞い込んでいるのではないでしょうか?

M&Aをしようか悩んでいるなら、このような「DM営業攻撃」を受けて、どこに相談しようか悩んでいる方も少なくないと思います。

本記事では、M&Aを検討している経営者の多くが陥る失敗パターンを踏まえたうえでベストな相談先の選び方を解説します。

M&Aを検討する経営者の心理!


転職先を探そうとする人がまずは大手転職サイトや大手人材紹介会社に登録するのと同じように、経営者がM&Aを検討する際、まず思い浮かべる相談先は大手のM&A仲介会社でしょう。

名も知らぬ中小のM&A仲介会社よりも、知名度が高かったり、実績が多かったり、上場していたりする大手のほうが信頼できるというイメージがあるはずです。

大手M&A仲介会社の多くは、電話やDMなどによる営業活動に積極的。会社はもちろん、社長の自宅にまで大手M&A仲介会社のDMが届くこともあるはずです。

たとえば、DMを開くと、次のような文言が踊っているものです。

「貴社のような企業様をグループにお迎えできなという具体的な相談を受けています」

――この決め台詞の裏に隠された真実については以下のコラムで解説しているので、ぜひご覧になってください。
「「御社指名」は本当!? M&A業者から届くDMの正体とは?」
https://www.kizuna-corp.com/column/direct_mails/

「大手なら安心」と思っている経営者が大半だと思いますが、大手だからといって、必ずしも誠実な対応を取ってもらえるとは限らないのです。

大手M&A仲介会社に頼んだときの「あるある」失敗パターン!

大手M&A仲介会社といえば、かつては「着手金がある」「手数料が高い」「年次ごとの契約更新で更新料を支払い続けなければならない」といったケースが一般的でした。この大手M&A仲介会社の手数料・更新料の実態については、過去のM&A体験談記事をご覧ください。

「【介護事業者】M&A体験談①」
https://www.kizuna-corp.com/column/ma_interview1/#%E2%80%95%E2%80%95%E5%9C%B0%E5%85%83%E3%81%AE%E6%A5%AD%E8%80%85%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E7%B5%86%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%9D%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%A8%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E3%81%AE%E6%A5%AD%E8%80%85%E3%81%AF%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%8B%EF%BC%9F

ところが近年、着手金を取らない大手M&A仲介会社が増えてきました。実は、ここに落とし穴があります。

大手M&A仲介会社の営業担当者は、最終的にかかる総額を詳しく説明せずに、秘密保持契約書と仲介契約書を持ってきて契約させてしまうことがあります。

たとえば、最低手数料が2000万円や2500万円であったとしても、最初の面談時にはそんな話はでてきません。仲介契約を結ぶときに説明がなされ、「高いし、払えないよ」というと「会社を売ったときの譲渡対価から払えますよ」と言われると、売り手の社長は「それもそっか」と納得してしまうのです。その結果、見込よりも低い譲渡対価となり、譲渡対価の5%の基準よりも最低手数料の基準が適用され、割高の手数料を払うことになってしまうことになりかねません。

近年は、さらに悪質なケースが散見されるようになりました。買い手企業が売り手企業の資金を抜き取ることだけを目的とした買収であることを把握しているにもかかわらず、M&Aを仲介したことが疑われる事例があり、メディアでも取り上げらえるようになってきました。

悪質な営業担当者によるM&Aをめぐるトラブルが急増していることから、金融庁が『中小M&Aガイドライン』の改訂を繰り返して注意を喚起しています。たとえば、M&A仲介会社の業務内容・質や手数料など、中小企業が確認すべき事項を明示しています。

大手M&A仲介会社に頼んだときに不満を覚えるケースとは?

大手M&A仲介会社に依頼する際には、ほかにも3つの落とし穴があります。

1つ目は、大手M&A仲介会社では細やかにサポートしてもらえないケースがあること。特に地方都市ですと相談したいと思っても、そんなに頻繁には来てもらえないです。先方も移動には時間も交通費がかかるので、なるべく、まとめて相談したいと考えるのが普通ですし、電話やZOOMなどのWEB会議も多くなります。数多くの案件を抱えているできるM&Aコンサルタントは、一つひとつクライアントにそれほど多くの時間を割けません。だから、そのアシスタント的な新人が窓口になったりしますが、不満を抱く、経営者の方は多いようです。

2つ目は、中小企業のM&A案件は営業担当者にとって優先順位が低いこと。営業担当者は、営業成績につながる大型案件に力を入れます。そのため、中小企業の案件は後回しにされる恐れがあるのです。実際、大手M&A仲介会社に依頼したまま休眠状態になっているM&A案件が想像以上に多いようです。

3つ目は、会社自体の実績は豊富でも、経験の浅い、営業担当者がいること。大手M&A仲介会社の場合、新人営業担当者はまずは電話や手紙などで売りたいお客さんを発掘することから始まります。自分で営業して、アポイントを獲得し、面談して、本格的に着手できそうな案件だと上司が同席して、仲介契約を締結させます。だから、実際にあった担当者が営業トークは上手でもM&Aのスキームなどの検討や提案よりもゴリゴリと契約をせっつく感じを受けた社長は多いと思います。大手M&A仲介会社から営業を受けたときには「M&A実績は何件くらいやったのか?」といった営業担当者個人の実績を必ず確認しましょう。

まとめ

「大手で知名度があるから」「DMを受け取ったから」「広告やCMをよく見るから」といった理由で安易に大手M&A仲介会社に決めるのは危険です。

M&Aを検討しているなら、自社の規模や立地エリアを得意としている実績のある仲介会社を選んだほうがいいでしょう。

また、大手M&A仲介会社に頼んでうまくいかなかったため、無料で相談できる公的機関に駆け込む企業も多いのですが、これについては「「事業承継・引継ぎ支援センター」は、M&Aの相談相手としてアリ?――基礎知識とメリット・デメリットを解説!」で解説しているのでチェックしてみてください。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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