紙のDMや手紙、最近では問い合わせフォームへのメールやSNSのメッセージなどで上記の内容が送られてくるケースもあるようですが、実はこうしたアプローチのDMには注意が必要です。
今回は、M&A業者から突然送られてくるメッセージの正体について解説しましょう。
M&A業者が乱立する業界の最新動向
DMの正体に話を進める前に、まずはその背景となるM&A業界の裏事情をご説明しましょう。
M&A件数は増加傾向!
株式会社レコフデータの調べによると、2000年に1635件だったM&Aの成立件数は2019年に4088件まで増加し、過去最高となりました。事業引継ぎ支援センターへの相談件数も増え続けています。
かつてM&Aというと、「没落した企業が身売りする」といった偏ったイメージを持っていた人も多かったようですが、近年ではイメージが大きく変わり、多くの会社が前向きな姿勢でM&Aを実行しているのです。
某大手を辞めて独立する人が多数!
このような市場背景に伴い、M &Aの仲介会社もまた激増しています。
特に多いのは、日本M&AセンターやM&Aキャピタルパートナーズなど、急成長した大手仲介会社の従業員が独立するケースです。
M&Aの仲介の仕事というのは、つまるところ従業員がテレアポなどの力技でアポイントを取り付けて契約に繋げるケースが多く、独立しても比較的再現しやすいビジネスなのです。
こうしたM&A業者自体の増加が、ここ最近になって多くのDMが届くようになった背景の大きな要因となっています。
大量にやってくるDMのカラクリは?
M&A業者の営業戦略!
M&A業者の基本戦略は、端的にいえば「数打ちゃ当たる」です。
M&Aのニーズを持っている企業が非常に限られるうえ、取引は単発で一回限りということから、業者はデータベースから売上や業種などでターゲットとなる企業を区切り、DMや手紙など大量送付できる媒体を無作為に送りつけるのです。
M&A業者が狙っているのは、ストックビジネスで安定した売上と収益がある、ビジネスモデルの業種や業界で、プロパンガス業、電気工事会社、ビルメンテナンス業、賃貸不動産の管理会社、人材派遣会社,介護事業、スーパーマーケットなど複数店舗を抱える企業などは要注意です。
M&A業者が狙うターゲットは、上記のような一定の業種に固まるため、狙われやすい業種や売上の会社には何通、何十通ものDMが届くという実情があります。
「御社指名」は真っ赤な嘘?
こうした背景から、M&A業者としては少しでもDMを読む人の気を惹こうとしています。
「御社指名の企業があります」という言い回しは、早い話が営業文句であり、信憑性はあまりありません。
現に、M&A業者である筆者の会社にも、同内容のDMが毎週のように届いています。大量に送りつけるDMで、一社一社に指名がかかっているわけはありません。
実際のところ、その会社に「この業種で、これくらいの売上の会社が欲しい」という相談くらいは来ているのかもしれませんが、あくまでそのレベルの相談内容でしょう。
DMに書かれている買い手企業候補は、ざっくりと希望を伝えているにすぎないと考えたほうが賢明です。
問い合わせをしたらどうなる?
それでは、そんなDMを真に受けて問い合わせをしたらどうなるのでしょうか。
契約を結ばされる!
M&A業者に問い合わせをすると、まずは担当者との面談がセットされます。
すると相手の担当者は、「まずはご状況を伺って……」といった言葉を並べてきますが、とにかく「秘密保持契約」と「仲介契約」を急いで結ぼうとしてくるはずです。
「M&Aを具体的に検討していなくてもかまいません」「先方と会って話を聞いてみるために、便宜上必要な契約なんです」などと迫ってくると思いますが、そう言われても焦ってはいけません。
特に仲介契約は、専任契約になっている場合が多く、ここで十分に検討せず契約を結んだ場合は、のちにM&Aを検討するときに、その会社にしか相談できなくなったり着手金が必要であったりという恐れもあります。
もちろん、専任契約が悪いといっているわけではなく、専任であれば、売りたいという秘密情報がいくつもの業社に共有されるというリスクを回避できるメリットもあります。その話は別の機会でお話ししましょう。
不動産の売り物件のように公開される!
業者の口車に乗って契約を結ぶと、そのM&A会社から「買いたいニーズをざっくりと聞いている複数の会社」へと、情報が秘密裏に流されます。
「こんな会社がありますが、買いますか?」と確認し、「興味アリ」と答えた会社のことを、売り手側に「実はこの会社が、御社を買いたいと言ってますよ!」と伝えたところで、売り手サイドでは確認しようがありません。
これが「御社ご指名で」という手紙の内情であり、M&A会社の「ご指名」という文言に踊らされてはいけないのです。
まとめ
DMを送ってくる会社にはいろいろなM&A会社があり、良質なところも悪質なところも混じっています。
もしもM&Aに興味があり、こうしたDMに興味を抱いた場合でも、内容の精査が必要です。
今回の記事で述べたような嘘が潜んでいないか、気を惹くために極端な文言を並べていないかなど、その会社の企業姿勢までよく見ながら判断しましょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役