ローカルM&Aマガジン

「事業承継は誰に相談すべき?」と悩んだら ――中小企業が頼れる相談先と選び方のポイント

投稿日:2025年10月27日

[著]:小川 潤也

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「会社の将来を考え始めたが、このデリケートな問題をいったい誰に相談すればいいのか」――これは、事業承継を考え始めた多くの経営者が最初に直面する、深く、そして重い問いです。

会社の未来を左右する重要な決断だからこそ、最初の相談相手を間違えるわけにはいきません。

本記事では、事業承継の相談先として考えられる選択肢を整理し、自社の状況に合った最適なパートナーを見つけるためのポイントを詳しく解説します。

◆「誰に相談すればいいのか分からない」――中小企業が直面する最初の壁

事業承継は、すべての経営者がいつか向き合うことになる重要な経営課題です。しかし、その第一歩をどこに踏み出せばよいのか、多くの方が悩まれています。

中小企業庁の調査によれば、事業承継について経営者が過去に相談した相手として最も多いのは「顧問の公認会計士・税理士」です。日頃から会社の財務状況をよく理解し、信頼関係が築けているため、最初に声をかけやすいのは自然なことでしょう。

しかし、顧問税理士が必ずしも事業承継の専門家とは限りません。相続税対策には詳しくても、後継者不在時のM&A(第三者承継)に関する知見やネットワークを持っているとは限らないのです。最初の相談相手の専門領域によって、その後の選択肢が狭まってしまう可能性も否定できません。

だからこそ、顧問税理士への相談を第一歩としつつも、セカンドオピニオン、サードオピニオンを求める視点が不可欠になります。

会社分割については、下記の記事もあわせてご参照ください。
参照:M&Aの相談相手、どこがいい?――大手仲介会社の落とし穴
https://www.kizuna-corp.com/column/soudan_ma/

◆親族?銀行?専門家?――事業承継の相談先として考えられる主な選択肢

事業承継の相談先には、さまざまな選択肢があります。それぞれの特徴を理解しておくことが、最適なパートナー選びの第一歩です。

・顧問の公認会計士・税理士
・取引金融機関(銀行、信用金庫など)
・弁護士、司法書士
・事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)
・商工会・商工会議所
・M&A仲介会社・マッチングサイト
・経営コンサルティング会社

これらの相談先は、それぞれ得意とする分野や役割が異なります。重要なのは、「誰に相談するか」と同時に「何を相談したいか」を明確にすることです。

参照:「納得できるM&A」のためには、信頼できるパートナーが重要! ――ある食品製造会社の事例に学ぶ
https://www.kizuna-corp.com/column/partners/

◆相談先によって“進む方向”が変わる?――それぞれのメリットと注意点

事業承継には、親族に継がせる「親族内承継」、従業員に任せる「従業員承継」、そして第三者に会社を譲渡する「M&A」という、大きく3つの方向性があります。どの道を選ぶかによって、頼るべき専門家は変わってきます。

下記の記事もあわせてご参照ください。
参照:経営者は万が一に備えよう
https://www.kizuna-corp.com/column/syoukei/

「親族内承継」を考えている場合
主な課題は、相続税や贈与税の対策、そして親族間のトラブル(遺留分など)の回避です。
この場合、相続に詳しい「税理士」や、法的な手続きをサポートする「弁護士」が相談の中心となるでしょう。遺言書の作成や株式の生前贈与など、専門的な手続きを円滑に進めてくれます。

「従業員承継」や「M&A」を視野に入れている場合
後継者となる従業員や買い手企業を見つけること、そして株式の売買や資金調達が大きなテーマになります。
幅広いネットワークを持つ「取引金融機関」は、後継者候補となる企業を紹介してくれる可能性があります。また、国が設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」は、中立的な立場で相談に乗ってくれる心強い存在です。
特にM&Aを具体的に進めるのであれば、専門的なノウハウと買い手候補の広範なネットワークを持つ「M&A仲介会社」が最も頼りになるパートナーと言えるでしょう。

◆安心して話せる相手をどう選ぶ?――見極めの3つのチェックポイント

数ある相談先の中から、本当に信頼できるパートナーを選ぶためには、次の3つのポイントを確認することが重要です。

事業承継に関する専門性と実績
まず大前提として、相談相手が事業承継という特殊な分野において、十分な知識と実績を持っているかを確認しましょう。会社のウェブサイトで過去の実績を確認したり、面談で具体的な事例について質問したりすることが有効です。

専門家との連携体制
事業承継は、税務、法務、労務など、さまざまな専門知識が求められる複合的なプロジェクトです。弁護士や税理士、司法書士といった各分野の専門家と連携し、ワンストップで対応してくれる体制があるかは非常に重要なポイントです。自ら複数の専門家を探す手間が省け、情報共有もスムーズに進みます。

担当者との相性とコミュニケーション
事業承継は、準備から完了まで数年単位の長い付き合いになることも少なくありません。自社の文化や経営者の想いを深く理解し、真摯に寄り添ってくれる担当者でなければ、安心して会社の未来を託すことはできません。
知識や実績だけでなく、「この人になら本音で話せる」と思えるかどうか、その人柄も見極めることが大切です。

◆「相談してよかった」と言えるために――初回面談で準備しておきたいこと

相談先との面談をより有意義なものにするためには、事前の準備が欠かせません。漠然とした不安を話すだけでなく、自社の状況を客観的に示す資料を用意し、考えを整理しておくことで、より具体的で的確なアドバイスを得ることができます。

・準備しておきたい資料
事業計画書(3年から5年の中期計画があればベスト、なければ1年)、部門ごとの損益がわかる資料(部門別PL)、商品、サービス別の売上、粗利一覧、過去3〜5年分の決算書、株主名簿、会社の組織図など。

・整理しておきたい情報
後継者候補の有無、希望する承継の時期、自社の強みや経営課題、経営者個人の引退後のライフプランなど。

初回相談は、専門家が信頼に足る相手かを見極める場であると同時に、専門家に自社を正しく理解してもらうための重要な機会です。しっかりと準備して臨みましょう。

◆まとめ―――最適な相談相手を見つけることが、成功への第一歩

事業承継は、経営者人生の集大成とも言える重要な決断です。そしてその成功は、最初に「誰に相談するか」で大きく左右されると言っても過言ではありません。
自社が目指す承継の形を見据え、それぞれの分野の専門家をうまく活用していく視点が求められます。

多くの相談先では、初回の相談を無料で受け付けています。「そろそろかな」と感じた今が、未来の選択肢を広げるためのベストタイミングかもしれません。
まずは信頼できる専門家の扉を叩き、最初の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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