廃業にかかる本当のコスト、経営者保証ガイドラインで残せる資産、M&Aという選択肢が成り立つ条件まで、最新データを交えてお伝えします。
目次
そもそも「廃業」と「M&A」は何が違うのか? 判断軸はまったく別物
廃業とM&A。言葉は知っていても、その本質的な違いを正しく理解している経営者は意外と少ないものです。判断軸が「まったく別物」だからこそ、混同したまま決断すると大きな後悔につながります。
廃業を検討する際には、最終的に「現在の資産で事業の整理費用や債務を支払いきれるか」が重要な論点になります。事業を閉じる際、銀行借入や買掛金、リース残債、退職金などの支払いを、現在の会社・個人の資産で完済できるかどうか。これが廃業を選ぶうえでの基本的なチェック項目になります。
一方、M&Aでは「第三者が引き継ぎたいと思える事業価値が残っているか」が重要になります。あなたの会社が、第三者から見て「事業として継続したい」と思える魅力――技術、顧客基盤、人材、地域でのブランドなど――を持っているかどうか。それがM&Aの成立可否を決めます。
つまり、廃業を考えるべき場面では「支払いきれるか?」を問い、M&Aを検討すべき場面では「売れる価値があるか?」を問う。この2つの軸が混在したまま「もうダメだ」と決めてしまうと、本来は会社として価値を残せたはずの選択肢を、自ら閉ざしてしまうのです。
帝国データバンクの調査によれば、2025年に休廃業・解散した企業は6万7,949件にのぼり、過去10年で2番目の高水準でした。
そのうち直近損益が「黒字」だった企業の割合は49.1%で、調査開始以降、初めて5割を切っています。裏を返せば、約半数は黒字のまま市場から退場しているということ。M&Aで残せたかもしれない価値が、毎年大量に消えている現実があります。
参照:「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2025年)」|帝国データバンク
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260109-kyuhaigyo25y/
関連記事:中小企業M&Aのリアル! ――現状から目的、具体的な手法まで徹底解説
https://www.kizuna-corp.com/column/small_ma_aim_method/
廃業を選んだら、いったいいくらかかるのか

「廃業=楽にやめられる」と思っていませんか? 実際には、想像以上に費用と手続きがかかります。会社を畳むのは、つくるのと同じくらい――いえ、それ以上にコストがかかる作業なのです。
まず、法定費用です。株式会社の解散・清算には、解散登記の登録免許税3万円、清算人登記9,000円、清算結了登記2,000円の合計4万1,000円。さらに官報公告に3〜4万円程度かかります。ここまでで合計7〜8万円ほどです。
ここに、司法書士・税理士・弁護士などの専門家報酬が加わります。通常の清算手続きで債務超過(資産より負債が多い状態)がないケースでも、専門家報酬込みで合計40万〜90万円程度が相場とされます。
しかし、本当に重い負担はその先にあります。従業員への退職金、銀行借入や買掛金の最終処理、リース残債の一括精算、設備や在庫の処分費、店舗・工場の原状回復費。事業規模によっては、これだけで数百万〜数千万円規模の出費になることも珍しくありません。
つまり、廃業には「やめるためにお金が必要」という冷酷な現実があります。手元の資産でこれらをすべて支払いきれるかどうか――それが廃業の最初のハードルなのです。
関連記事:「あのとき決断していれば……」――M&Aのタイミングを逃し、廃業に至ったある製造業の末路
https://www.kizuna-corp.com/column/ma_timing/
「経営者保証ガイドライン」で残せるもの・残せないもの
廃業もM&Aも、経営者個人にとって最大の不安は「自分と家族の生活はどうなるか」でしょう。ここで知っておくべきが「経営者保証に関するガイドライン」――誠実な経営者の再起を支えるセーフティネットの仕組みです。
経営者保証ガイドラインとは、中小企業庁・金融庁・全国銀行協会などが連携して整備した、保証債務整理のルールです。法的拘束力はないものの、金融機関が自主的に遵守することが求められています。
参照:「経営者保証」|中小企業庁
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/
このガイドラインを使うと、通常の自己破産では失う資産も、一定の範囲で経営者の手元に残せます。ポイントは3つです。
1.自由財産99万円
→破産法に基づき、原則として現預金99万円までは手元に残せます。
2.インセンティブ資産(年齢等に応じて約100万〜360万円)
→月33万円×雇用保険の給付期間で算出される生計費を上乗せできます。例えば60歳の経営者なら、自由財産と合わせて最大で約363万円まで保有可能です。早期に事業再生や保証債務整理に着手した経営者の生活再建に配慮した仕組みです。
3.華美でない自宅
→住み続けられる可能性があります。地域の実情、保証人の誠実さ、適時の情報開示などが総合的に判断されます。
ただし、自宅に住宅ローンや会社借入の担保が設定されているケースは多く、対応は複雑になります。現場では、地震で傾いて時価が大きく下がった自宅を800万円で評価し、親族が買い取る形で整理した事例もあります。柔軟な対応が可能なケースは、確かに存在するのです。
さらに、経営者保証ガイドラインによる保証債務整理は信用情報登録機関に報告・登録されません。信用情報登録機関への事故情報登録は行われないとされています。整理後の生活再建もしやすい仕組みになっています。
ただし、これらは「自動的に守られる」わけではありません。早期に専門家へ相談し、適切な手続きを踏むことが大前提です。
関連記事:「事業承継は誰に相談すべき?」と悩んだら ――中小企業が頼れる相談先と選び方のポイント
https://www.kizuna-corp.com/column/contact-information/
分岐点は「今ある財産で支払いきれるか」 そして決断のタイミング
ここまで読んでこられたあなたに、決断の核心となる問いを投げかけます。それは――「今ある会社・個人の財産で、すべての支払いを完済できるか?」。これが、廃業とM&Aを分ける最もシンプルで本質的な分岐点です。
支払いきれる場合、廃業は合理的な選択肢になります。法的な手続きを踏み、債権者へ誠実に対応し、経営者保証ガイドラインを活用して必要な生活資産を残し、新しいステージへ進む。これは「秩序ある退場」と言える形です。
一方、支払いきれない場合は話が変わります。私的整理、特定調停、あるいは破産手続きといった、より重い選択肢に踏み込まざるを得ません。そして、この局面では、スポンサー支援型M&Aが有力な選択肢になるケースもあります。会社として残せる価値(顧客、従業員、技術、許認可、不動産など)があれば、譲渡対価で債務を圧縮し、廃業よりはるかに有利な着地に持ち込めるからです。
ただし、ここで強調したいのが「タイミング」です。M&Aは、体力があるうちでなければ買い手がつきません。赤字が膨らみ、債務超過が深刻化し、債権者対応に追われている状態では、買い手は二の足を踏みます。
帝国データバンクの調査では、2025年の休廃業企業のうち、経営者の年齢が70代以上が63.7%、80代以上は24.4%(過去10年で約2倍)を占めました。
体力的にも限界を迎えた経営者が、最後の最後で「もうたたむしかない」と決断するケースが急増しているのです。早ければ早いほど、選択肢は広い――これは、廃業かM&Aかを問わず、すべての経営者に共通する鉄則です。
参照:「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2025年)」|帝国データバンク
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260109-kyuhaigyo25y/
関連記事:M&Aのベストタイミングはいつ? ――50代経営者が”成長のピーク”で売却する理由とは
https://www.kizuna-corp.com/column/best_timing/
関連記事:高値売却のために知っておきたい譲渡価格の決定法
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まとめ

会社をたたむという決断は、孤独で重いものです。しかし、その決断の前に必ず確認すべきことがあります。本記事の要点をまとめると、以下のとおりです。
廃業とM&Aは判断軸がまったく違う
→廃業は「支払い能力」、M&Aは「会社としての価値」を問う。混同したまま決めてはいけない。
経営者保証ガイドラインで守れる資産は限定的
→自由財産99万円+インセンティブ資産(年齢等に応じて約100万〜360万円)+一定の条件下では、自宅を維持できる可能性があります。早期相談が活用の前提となる。
分岐点は「支払いきれるか」、そして早期決断が選択肢を広げる
→体力消耗後のM&Aは買い手がつきにくい。今こそ、専門家に相談すべきタイミング。
「もう、たたむしかない」という結論に、もう少しだけ待ってください。判断軸を整理し、選択肢を比較してから決めても遅くはありません。あなたの会社と人生に、もう一つの道がある可能性を、最後まで諦めないでください。
廃業しか道はないと決めつける前に、まずは現状を整理するタイミングを取ってみてください。
絆コーポレーションでは、新潟を拠点に中小企業の事業承継・M&Aをサポートしています。地方の中小企業に寄り添った相談窓口として、地域の実情と経営者の心情を踏まえたご提案を心がけています。しつこい営業は一切いたしません。判断軸の整理だけでも、無料でご相談いただけます。
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小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役


