2021年6月8日の当社コラムでも解説した「中小企業のための経営資源集約化税制」。
別名M&A税制とも呼ばれるこの制度は、適用されれば、株式譲渡額の7割を損金に算入することが認められます。
M&Aによって生じるリスクを大幅に軽減できる可能性がある税制ですが、税制の適用を受けるためには、国の定めた認定要件をクリアしなければいけません。
今回の記事では、M&A税制の認定を受ける方法について解説します。
株式譲渡額の7割が損金に!
M&A税制のなかでとくに注目されるのは、「中小企業事業再編投資損失準備金制度」です。
この制度によって、株式譲渡額のなんと7割を損金に計上することができるのです。
具体的には、10億円以内の株式取得価額の7割までを、M&Aで生じうる損失の引当金として積み立てることが認められます。
つまり、M&Aを行なって損害が出た場合、節税分によってダメージを軽減できる可能性があるのです。
ポイントは「経営力向上計画」の認定
それでは、M&A税制の適用を受けるには、具体的にはどうすればよいのか。
最大の関門は、中小企業庁が定める「中小企業等経営強化法」に基づく「経営力向上計画」の認定を受けることです。
「経営力向上計画」とは、自社の発展のための人材育成や財務的取り組み、新たな設備投資を記載する申請書です。
M&A税制の適用を受けるためには、この申請書を提出しなければなりません。
なお、経営力向上計画の承認を得られれば、税制の適用のみならず国の制度融資なども受けられるようになります。
外部機関のサポートを受けられる!
この経営力向上計画は、設備投資に必要な資金額とその調達方法などについて、詳細に渡って記入しなければいけません。
中小企業が自社だけでこの書類を完璧に作成するのは、非常に難しいといえます。
しかし、経営力向上計画の作成にあたっては、国の認定を受けた経営革新等支援機関に相談すれば、計画策定の支援を受けることができます。
経営革新等支援機関とは?
「経営革新等支援機関」として認められているのは、商工会議所や地域金融機関、士業などのプロフェッショナルです。
いずれも企業経営を外部から見るスキルに長けたプロであり、制度を深く理解した専門家だけが認定されます。
たとえば、地域金融機関に相談すれば、設備投資のための資金調達の相談もあわせて進められるので、非常に効率的です。
相談レベルであれば基本的に費用はかからないので、まずは中小企業庁のウェブサイトからダウンロードした申請書式を持って、支援機関に相談に行ってみることをおすすめします。
M&A税制の注意点
M&A税制は、M&A後に生じた損失を軽減税率でカバーできるという可能性が魅力ですが、注意点もあります。
たとえば、損失準備金を積み立てた年度の最終日の翌日から起算して5年間が経った場合、準備金額を5年間で割った1年分の額を、当期利益に計上しなければならない点は、留意しておかなければなりません。
つまり、その事業年度には売上によるキャッシュの増加を伴わない利益が発生し、法人税が課されることになるのです。
M&A後に損失が出て準備金を取り崩した場合は、利益計上しなくても問題はありませんが、「準備金の積み立てから5年後」が具体的にいつになるのかを頭にしっかり入れたうえで、利益をコントロールする必要があります。
もうひとつの注意点として、経営力向上計画の認定取り消しなど、一定の取り崩し事由に会社が該当した場合、定められた額の準備金をその事業年度の利益に計上しなければならないということがあります。
取り崩し事由について詳しく知りたい場合は、中小企業庁「引当金・準備金制度に関する改正」もあわせてご参照ください。
まとめ
M&A税制の認定を受けるにあたって、経営力向上計画の策定には非常に手間がかかりますが、綿密な計画を作成できれば税制の適用を受けられるだけでなく、自社の発展の道筋を作ることにもつながります。
要件に当てはまれば個人事業主や組合などでも認定を受けられるので、ぜひ積極的に取り組んでみましょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役