なかでも、事業承継に悩む中小企業にひときわ関連性が高いのが「中小企業の経営資源の集約化に資する税制」です。
とくに、M&Aによって取得した株式価額の70%を損金に参入できるよう制度が改められた点は、大きな注目を集めています。
この「経営資源集約化税制」について、制度の概要や活用条件を解説します。
「経営資源集約化税制」とは?
「経営資源集約化税制」は、財務省からの要望で、ウィズコロナ・ポストコロナ社会における新しい日常に適合するため、企業の大胆なビジネスモデル変革を促進する目的で、今般の税制改正に反映されました。
税制変更の目的と概要
この税制改正は、大綱を作成した自民党の発表によれば、「中小企業の経営資源の集約化による事業の再構築などにより、生産性を向上させ、足腰を強くする仕組みを構築していくことが重要」とあります。
これを達成するための手段として、「中小企業の株式取得後に簿外債務、偶発債務等が顕在化するリスクに備えるため、準備金を積み立てた時は、損金算入を認める措置を講ずる」とされています。
中小企業はどんなメリットを得られるのか
措置の適用を受けるためには、2024年3月31日までに「経営資源集約化措置(仮称)」が含まれた、中小企業等経営力強化法の経営力向上計画の認定を受けなければいけません。
認定を受けると、企業は次の3つの減税措置を受けることができます。
① M&A準備としての設備投資に対する減税措置
② M&Aに伴う雇用確保に対する減税措置
③ M&Aの準備金を積み立てる場合の減税措置
①M&A準備としての設備投資に対する減税措置
M&Aの効果を高めるための設備投資について、税金の控除を受けることができます。
具体的には、設備投資に対して10%(資本金3000万円超の中小企業等は7%)の税額控除、あるいは全額の即時償却が認められます。
たとえば、買収した企業の技術と自社の技術を組み合わせた新製品開発のための生産ライン改修、共通の生産管理システムの導入などの費用に税額控除を受けられるのです。
②M&Aに伴う雇用確保に対する減税措置
2つめは、人件費の増加に対する控除です。
M&Aに伴い、給与等の支給総額を対前年比で2.5%以上引き上げた場合は25%、1.5%以上引き上げた場合は15%、支払い給与等の増加分に対して税額控除を受けることができます。
つまり、M&Aをきっかけとして人員を追加で採用したり、買収前よりも待遇を改善したりした場合に税務メリットが受けられるわけです。
M&Aの当事者になる企業側にとっても従業員側にとっても、非常にうれしい制度だといえます。
③M&Aの準備金を積み立てる場合の減税措置
3つめは、M&Aのために準備金を積み立てた場合に得られる控除です。
今回の税制改正によって、他の法人の株式を購入する場合、取得価額の70%以下の金額を事前に積み立てれば、積立金を「中小企業事業再編投資損失準備金」として損金に算入できるようになりました。
わかりやすくいえば、会社にあるキャッシュをM&Aのための積立金として計上すれば、出費を伴わずに損金を出せることになりますので、経営上大きな税務メリットがあります。
この控除が設けられた背景には、中小企業の株式譲渡において、後から簿外債務が発生するなどして、購入時の株価がすぐに低下してしまう懸念が大きいということがあります。
株価低下に対するリスクヘッジに税務メリットを設け、M&Aの入念な事前対策を促すねらいがあるのです。
M&Aの成功パターンを増やすねらい
今回の税制改正で中小企業が得られるメリットの概要をまとめましたが、総じていえるのは、政府のねらいがただM&Aを促進するだけでなく、M&Aをきっかけにさらなる投資で飛躍を目指したり、従業員の待遇を向上させたりといった前向きな企業を増やすことにある点です。
M&Aじたいは成立したものの、その後を見るとM&Aが失敗であったといわざるをえないケースが多くある現状に対し、改善を促そうとしているのです。
M&Aを検討する企業は、税制の上手な活用を通じて、より成功確度の高いM&Aを目指しましょう。
まとめ
M&Aによる買収を考える企業にとっても売却を考える企業にとっても、税額の軽減で多くのメリットを得ることができます。
政府の発表をよく確認し、控除の適用を受けられるような計画を立て、M&Aを積極的に進めましょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役