事業承継に株式移転の悩みはつきものですが、株式移転に伴う相続税の支払いを猶予できるのが「納税猶予の特例」です。
「後継者の納税資金がなくて事業承継できない……」とあきらめている経営者には、この税制が救いの光になるかもしれません。
今回の記事では、納税猶予の特例について解説します。
非上場株式は納税猶予の特例が受けられるかも?
まずは、非上場株式の納税猶予について、その制度を詳しく説明しましょう。
株式移転にかかる税金は非常に多額になることも
事業の承継は、通常では株式の承継も伴います。
仮に先代が存命中は、株式を移転せずに後継者が社長業だけを引き継いでいた場合、先代が亡くなると相続税の支払いが発生しますが、この相続税はときとして非常に高額になります。
非上場の中小企業でも、業績が長年安定している場合、時価総額が数億円から数十億円になるケースは少なくありません。
先代が「うちみたいな中小企業の株なんてタダみたいなものだ」と思って、なにも対策していなかった場合、先代が亡くなってから多額の相続税が発生し、残された家族はパニックに……。そんな悲痛な状況は、日々全国のオーナー企業で起こっているのです。
相続税や贈与税の重い負担を軽減
政府はこのような税負担が事業承継を妨げている現状を重く見て、納税猶予の特例措置を施行しました。
この制度は簡単にいうと、「非上場企業の株式を、経営を引き継ぐ者に相続によって受け渡される場合、後継者が本来支払うべき相続税の納税が猶予される」というものです。
「特例経営承継相続人」に認定された後継者がその後亡くなった場合、猶予されていた相続税は、一部または全額免除されます。ただし、後継者が受け継いだ株式を売却するなど、納税猶予の条件に反する行ないがあった場合、猶予期間は無効化されて相続税を支払うことになるので注意しましょう。
猶予期間を与えられる税制は、ほかに「一般措置」も存在します。これは、発行済み株式の3分の2を対象とし、贈与税は100%、相続税は80%の猶予を受けられるものです。
つまり、税制上の措置をうまく使えば、基本的に株式移転にかかる税金はその多くを軽減することができるのです。そうした事実を知らずに承継をためらっているのであれば、ぜひ顧問税理士などに相談してみましょう。
非上場株式の納税猶予を使わずに株式を移転するには?
なかには、「相続を待たずに株式を贈与したいが、税制の適用を受けてもまだ贈与税負担が重い……」という場合もあるでしょう。
そのようなケースの対策を解説します。
株式移転にかかる税金を軽減する方法は?
税負担を軽減するには、次のような方法があります。
●社長が退任し、役員退職金を支払う!
先代の社長に対して会社から退職金を支払うとその分は損金になり、一時的にその分、営業利益は下がり、営業利益<退職金となる場合、差額が損金となるため、株価を下げる効果があります。
ただし、役員退職金は退職時の月額報酬×勤続年数×功績倍率2から3倍が目安です。この範囲であれば損金となるようです。詳しくは税理士へご相談ください。
●含み損を抱えた株式や不動産を売却する!
もしも会社で株式や不動産を保有しており、これらが購入時よりも値下がりしている場合、売却や時価への評価替えによって株価対策できます。
資産の含み損を実現させるか評価替えするかにより、損金が生じ、純資産が下がるからです。評価方法について会社によって異なりますので、これも税理士にご相談することをお勧めします。
●持株会社方式で事業承継する!
持株会社(ホールディングス)方式によって事業承継を行なうことによっても、株式移転にかかる税金を軽減できる可能性があります。
持株会社方式では個人から個人へ株式を贈与するのではなく、法人に売却する形がとられるので、贈与税がかからず税負担を大きく減らせる場合があるのです。
持株会社方式の事業承継については下記のコラムで詳しく解説しているので、ぜひあわせてご参照してください。
▷「持株会社方式の事業承継とは? スキームとメリットを解説!」
まとめ
事業承継に伴う株式移転については、国がさまざまな支援制度を用意しているので、それらをうまく使えば、株式移転が大きな負担になることはほとんどありません。
「株式を渡せば税金が高い」という先入観にとらわれて承継をためらうのではなく、まずは活用できる制度がないか、顧問税理士に相談するか、相続に詳しい税理士に相談すると新しい道が開ける可能性があります。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役