ローカルM&Aマガジン

Q「最近は“スモールM&A”という言葉をよく聞きますが、どんなM&Aなのでしょうか?」

投稿日:2023年8月22日

[著]:小川 潤也

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(質問者様)
美容室の経営者です。店舗のM&Aでの買収を検討していて、最近“スモールM&A”という言葉をあちこちで耳にして気になっています。スモールM&AとはどんなM&Aなんでしょうか?

(小川)
近年広まったスモールM&Aとは、会社によって、定義がいろいろあるようです。例えば、売り手か買い手のどちらかあるいは両方が年商1億円以下のM&A、または譲渡金額が1億円以下というところもあれば、譲渡金額1千万円以下の案件というところもあります。

譲渡対価が数千万円で売上も個人事業レベルのM&Aのことを意味している場合が多いです。

(質問者様)
なぜ、スモールM&Aが注目を集めているのでしょう?

(小川)
ひとことで言うと、事業承継の新しい手段という面と引退ではなく、事業や会社を売却して、別のことに投資したいという、経営者の事業の出口と面があります。
60代以上の年齢の経営者のうち6割以上が後継者不在という時代になり、従来のように小規模企業を親族間で受け継いでいくケースが減っています。

そんな中でM&A会社が増えてきたこと、国や自治体が事業承継が喫緊の課題で推進していること、メディアでもM&Aが取り上げられ、一般化してきたいことなどから、小さな会社でもM&Aによって事業承継やバイアウトという選択肢があることが認知されてきたのです。以前は小規模企業の経営者がM&Aを考えるケースなどまずなかったのですが、トレンドが変わってきたんですね。

(質問者様)
スモールM&Aと普通のM&Aに違いはありますか?

(小川)
M&Aであることは一緒で、取引額が小さいという点が違いで他のプロセスは同じです。マッチングサイトを通じてM&Aされるパターンが多い、プロが介在しないケースが多いというのが、スモールM&Aの特徴です。

まず前者については、実際にM&Aのマッチングサイトを見てみると、譲渡金額1億円以下の案件がかなり多いです。マッチングサイトは、買い手が売り手企業を気軽に探して選べる点、売り手側と買い手側がすぐに直接やり取りを始められる点などのメリットがありますが、デメリットやリスクもあるので注意が必要です。

以前のコラムでもマッチングサイトについて分析しているので、よろしければ下記をご覧ください。

参考:M&Aのマッチングサイトは使えるのか?メリットとデメリット、注意点を解説!

M&Aのマッチングサイトは使えるのか?メリットとデメリット、注意点を解説!

(質問者様)
もう一つの「プロが介在しないケースが多い」というのはどういう意味でしょう?

(小川)
ある程度以上の規模の案件では基本的に、M&A仲介会社やアドバイザリーといった専門家が間に入りますが、スモールM&Aでは売り手と買い手が当事者同士で完結させようとする傾向にあるんです。

理由としては、譲渡金額に対して専門業者に払う手数料が重い、ということでしょう。たしかに、3000万円とか4000万円くらいの規模のM&Aであれば専門業者に払う手数料は節約したい、と考えるのも無理はないかもしれません。

(質問者様)
専門の会社に頼まずにM&Aを成立させるのは、可能なのでしょうか?

(小川)
プロを入れなければいけないと法律で決まっているわけではないので、可能は可能です。

ただし、専門業者を入れないのであれば、買い手と売り手が直に交渉して、金額、条件などを合意していき、契約書に落とし込んでいくので、精神的なタフさと時間と手間をかける、覚悟が必要です。

基本合意やデューデリジェンスといったM&Aの基本的な流れや手続きをはじめ、企業価値の算定や譲渡契約書の作成など、M&Aには専門的な知識が求められる部分が相当にあります。
弁護士や会計士、税理士など士業に依頼しないといけない内容も多く、当事者の経営者がそうしたネットワークを一から構築しながら、案件全体を仕切っていくのはかなり大変でしょう。交渉のコツも、初めてではわからないはずです。

もし専門会社なしでM&Aの成約までこぎつけたとしても、売り手であればだいぶ買い叩かれてしまったことを譲渡後に知ったり、買い手であれば想定していなかった買収先の問題点を見つけても賠償を求められなくなったりと、リスクは山積みです。

また、プロがいれば「株式譲渡にするか事業譲渡にするか」といったスキーム構築をはじめ、依頼企業のニーズに合ったサポートを受けられるため、色々と安全ではあると思います。

(質問者様)
なるほど、単独でM&Aを成功させるのは簡単ではなさそうですね……。
では、小さな会社があまり費用をかけずにスモールM&Aを成功させるには、どうすればいいでしょう?

(小川)
費用をかけずにと思ったら、自分で交渉の矢面に立つことになるのですが、それが大変なのです。

小さな案件でもやってくれるM&A仲介会社もしくはアドバイザーを探すことです。弊社のような、地方都市で独立系のM&A会社です。大手の仲介会社は手数料が割に合わないので、まず受けてもれえません。もしくはM&Aの経験がある、税理士や企業法務に詳しい弁護士を探して、企業評価や契約書のチェックをそれぞれお願いすることになります。

しかし、案件の取引金額が少なくても大きくてもアドバイザーのやることは同じなので、M&Aの専門家に依頼するとその会社の最低手数料は必要になると思った方がいいです。その方が、のちのちのリスクや忙しい社長の時間を考えたら、高いものではないはずです。

また、売却する側であれば、各都道府県に設置された事業引き継ぎ支援センターに相談するのもおすすめです。事業引き継ぎ支援センターは国の機関で、事業承継やM&Aについて無料で相談できます。

本当に一人でM&Aを進めるのか、安全を見て専門家に入ってもらうのか、ご自身で情報を集めて判断されると良いと思います。費用をかけずにと思ったら、自分で交渉の矢面に立つことになるのですが、それが大変なのです。

(質問者様)
ありがとうございます。

スモールM&Aなら簡単にできるのかと期待していましたが、あまり軽く考えないほうが良さそうですね。どういう方法がいいか、あらためて検討してみます。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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