ローカルM&Aマガジン

M&Aを活用した事業承継とは? ――方法と流れを徹底解説!

[著]:小川 潤也

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かつてはM&Aといえば大手企業のイメージがありましたが、近年は中小企業のM&Aが増えています。

中小企業の後継者不足は今や社会問題。会社を後世に残していく有力な手段の1つとして、M&Aによる事業承継の社会的意義が年々高まっています。

それでは、M&Aを活用した事業承継にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか? 今回は、事業承継の種類やM&Aの現実を徹底解説します。

事業承継の3つの種類

そもそも、事業承継とは何でしょうか? 中小企業庁は「事業承継とは、企業の熱い想いや技術を次の世代へつなぐこと」と表現しています。

単に会社という事業体を残すだけではなく、スピリットやノウハウといった目に見えないものをも含めて後世に伝えていくという意味合いが強いのです。

事業承継には、次の3つのパターンがあります。

1.親族内承継

事業承継と聞いて、真っ先に頭に浮かぶのが子どもへの承継でしょう。社長の兄弟や甥らが継ぐケースもあります。

こうした親族に引き継ぐのが親族内承継で、同族承継ともいわれます。

かつては親族内承継が主流でしたが、年々比率が低下し、2023年は33.1%でした。
参考:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p231108.html

2.従業員承継

経営者とは血縁関係のない役員や従業員に引き継ぐのが従業員承継で、内部昇格ともいわれます。

後継者不在が深刻化する中で、従業員承継は年々増加し、2023年は初めて親族内承継を抜いて35.5%に達しました。今や従業員承継が最も多いのが現状です。
参考:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p231108.html

3.M&A

外部の企業に会社を売却するのがM&Aによる事業承継です。

M&Aも増加を続け、2023年は20.3%を占めており、5社に1社はM&Aで事業を承継しているのが現状です。

このほかにも、後継者を外部から招へいしたり、創業者が復帰したりといったケースもあります。

事業承継におけるM&Aのメリットは?

それでは、右肩上がりで増加しているM&Aのメリットはどのようなものでしょうか?

1.後継者問題の解消

会社を後世に残そうにも、子どもに継がせられないケースが少なくありません。従業員に適任者がいないケースもあるでしょう。

目を会社の外に向ければ、後継者として適している人物が見つかる可能性が広がります。

2.事業や技術を後世に残せる

自分が築き上げてきた事業を次の世代に残せるのもM&Aの大きなメリット。信頼できる買い手を見つければ、思いや理念も引き継いでもらえる可能性があります。

また、日本には特殊な技術を持つ零細企業があります。社会的な財産ともいえる高度な技術を途絶えさせることなく、後世に伝えることができます。

3.従業員の雇用を継続できる

廃業となると、従業員は再就職先を探さなければなりません。その点、M&Aによって事業が存続すれば、従業員の雇用を守れる可能性が高まります。

4.株式の売却益を得られる

オーナー社長は自社株を後継者に売却して、対価を受け取ることができます。引退後の悠々自適な生活を送るための糧となります。

事業承継におけるM&Aのデメリットは?

メリットの多いM&Aによる事業承継ですが、デメリットや注意点もあります。

1.信頼できる売却先を見つけるのが難しい

2024年に入って、悪質な投資会社によるM&A被害が多発していることが新聞各紙で報じられるようになりました。

大手M&A仲介会社が紹介した買い手にもかかわらず、買収先の資金だけ吸い上げて食い物にしているケースが相次いでいます。

中小企業庁はM&A仲介業者向けガイドラインの見直しに着手し始めたほど事態は深刻。自社の未来を託せる買い手を見つけるのは容易ではありません。

2.希望する売却益を得られるとは限らない

中小企業の企業評価には純資産+営業権(のれん代)が代表的なものであり、M&Aの場合、ほとんどがこの評価方法が採用されます。

土地や建物などの不動産を複数所有しており、それらが営業に必要な事業の場合、土地の簿価が取得時の価格であることがほとんどです。また、建物は減価償却後のものとなってます。また、取得には金融機関から借り入れをして、借金が残っているケース。この場合、土地の価格が下がっていれば、純資産がその分評価減となります。
また、節税のために営業利益を役員報酬などで社外流失していた場合、純資産がたまっていない会社もあります。

売上や利益が下降トレンドの場合、いくら将来はよくなる見通しと経営者が思っていても、エビデンスがなければ、営業権(のれん代)を高く設定することはできません。
だから、経営者が期待している譲渡価格にならない場合もあるのです。

最終的には、売り手と買い手の合意によって譲渡価格が決まります。買い手の希望もありますから、必ずしも売り手が満足する価格で売れるとは限りません。

3.取引先が大幅に変更になることも

M&Aによって株主が変わり、新しく親会社の支配をうけることになります。それにより、これまでの仕入れ先の変更があったり、お店であれば屋号が変わることもあります。

店舗や事務所を賃借しているのであれば、賃貸借契約にチェンジオブコントロール条項が定められていれば、親会社の変更を事前に承諾を取らないといけない可能性もあります。

4.うまく売り抜けたと思ったら、損害賠償請求

売主が心配していたことや隠していたことが譲渡後の判明した場合、損害賠償請求されることもあります。

例えば、譲渡前に退職することが分かっていたのにそれを買い手に伝えずに譲渡を完了した場合。買い手が経営して、しばらくしてから、退職をすることを伝え、「前の社長にはそのことは言っていた。」と判明したら、表明保証違反となることもあります。

他にも不動産に瑕疵があることを分かっていたにも関わらず、デューデリジェンスで指摘されなかったので、黙って譲渡した場合。後に譲渡前から売り手が知っていたことが判明したら、もちろん、損賠賠償の対象となります。

M&Aをするなら、隠しごとはご法度で、譲渡時にわからなければというのは通用しないのです。

まとめ

後継者不在を乗り越えて会社を次世代に残していくには、M&Aは有力な選択肢です。成功すれば、事業も技術も社員の雇用も残せる魅力は大きいといえるでしょう。

今回紹介したように、悪徳投資会社や大手M&A仲介会社の落とし穴もありますが、信頼できるM&A専門家のサポートを受ければクリアできるものばかりです。

売却先を見つける前に、信頼できるM&Aの専門家を見つけることが極めて重要だといえます。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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