ローカルM&Aマガジン

M&A・事業承継で使える補助金とは?――公募時期・対象要件・活用の注意点を解説

投稿日:2026年1月20日

[著]:小川 潤也

「M&Aでも補助金が使えるんですか?」

事業承継を検討する企業から、実際によく聞かれる質問です。

中小企業向けの代表的な補助制度に「事業承継・引継ぎ補助金(JSH補助金)」がありますが、その中身や申請のコツまで理解している方は少ない印象です。

この記事では、補助金の概要や対象要件、活用時の注意点にくわえ、現場でよくある“見落とし”や“失敗パターン”についても解説します。

●「補助金が使えるなら使いたい!」――でも、準備はできていますか?

中小企業がM&Aや事業承継を進める際、「補助金が出るらしい」と耳にして調べ始める方も多いのですが、実務の現場では、「使いたくても使えなかった」というケースも少なくありません。

その代表格が、経済産業省・中小企業庁が所管する「事業承継・引継ぎ補助金」です。

この制度は、

・専門家活用(仲介・FA・弁護士など)
・PMIに伴うシステム導入や研修
・M&A後の設備投資や広告費

といったM&A・事業承継に関わるさまざまな費用を対象とし、最大で1500万円の補助が受けられる可能性があります。

ただし、補助率は1/2〜2/3、申請には細かな要件やタイミングの制約があり、後述するような注意点も多く存在します。

参照:「事業承継・引継ぎ補助金」公式HP
https://jsh.go.jp/

M&Aの現場では、「誰が補助金申請をするのか?」「費用の線引きはどうなるのか?」など、アドバイザリー契約や仲介会社の役割との関係性にも注意が必要です。これらについて、詳しくは下記の記事もご参照ください。

「M&Aアドバイザリー契約とは? ――その形態からメリット・注意点まで徹底解説!」
https://www.kizuna-corp.com/column/fa_ma/

「M&A仲介会社の役割とは? ――具体的なサポート内容を徹底解説!」
https://www.kizuna-corp.com/column/ma-intermediary-2/

●対象となる経費・要件は?――「やった後」では間に合わない!

補助対象となるのは、以下のような経費です。

・専門家報酬(仲介会社・FA・士業など)
・システム導入・研修費(PMI推進関連)
・広告宣伝・設備投資(事業承継後の展開)
・廃業に伴う経費(譲渡と再チャレンジ時)

また、申請要件には「交付決定日前に契約・着手しないこと」が含まれるため、すでにM&A契約を結んでしまっていると対象外になる点にも注意が必要です。

この“タイミング”の落とし穴は、実際の現場でも非常に多く、「相談が遅かったことで補助金が使えなかった」という企業も見てきましたから、くれぐれも注意してください。

●2025年度の動きと、申請に向けた準備ポイント!

2025年度はすでに11次〜13次公募が終了しており、次回の公募を待つ段階です。
例年、年に数回(5〜6月、8〜9月、10〜11月)程度の公募が行われる流れですが、詳細は公募時期ごとに変動します。

申請準備においては、次の4点がポイントです。

・gBizID・jGrantsの取得(オンライン申請に必須)
国の補助金申請に必要なアカウントで、取得までに時間がかかる場合もあるため、早めの登録を。

・事業計画・実施スケジュールの整理
「何にいくら使うか」「どの時期に実施するか」など、補助対象の経費とスケジュールを明確にしておく。

・専門家(行政書士など)との連携体制づくり
この補助金は行政書士等の申請代行が義務づけられているため、経験豊富な専門家との協力体制が不可欠。

・証憑類の準備(見積書・委任契約書・銀行通帳など)
申請には裏付けとなる資料の提出が必要。揃っていない場合は採択の可能性が下がるため、抜け漏れに注意。

また、補助金申請には「行政書士による申請代行」が義務づけられているため、補助金に明るい専門家を早めに見つけておくことが、採択の成否を分けるポイントになります。

●申請現場で実際にあった「失敗あるある」!

実際に私が見聞きしているなかで、“もったいない失敗”も多々みられます。

たとえば、ある製造業の経営者のケースです。M&A仲介業者から案件を紹介され、税理士に相談する前に「専門家の手数料は補助金もあると聞いているし、M&Aを考えてみようか」と買収の話を進め始めました。

ところが、株式譲渡契約を締結した後、そのタイミングではもう補助金を申し込んでも間に合わないことがわかりました。次回の募集は半年以上先。そもそも、M&A業者と仲介契約を結ぶ前に見積もりをもらい、その見積もりを元に補助金を申請する必要があるのです。最終的には補助金を使えないままM&Aを実行することになったのです。

補助金をうまく活用すれば、設備投資や専門家費用の一部がカバーできたはずで、事前準備の重要性が浮き彫りになったといえます。

また別のケースでは、あるサービス業の企業が、事業承継の譲渡契約に「基本合意書」を早々に交わしてしまっていました。

その後、補助金の存在を知り申請を検討したものの、すでに契約日が「交付決定日より前」だったため、対象外に。

補助金制度では、「契約や事業着手は交付決定のあと」が原則です。タイミングのミスが命取りになるということが、現場で改めて実感されました。

ほか、補助対象外の経費を誤って申請してしまったケースや、事業計画書が曖昧で、「何をしたいのか」が伝わらなかったケースも散見されます。補助金は「もらえるならラッキー」くらいの認識で、本来の目的――すなわち、よいM&Aを実現することを忘れないことが大切なのです。

●まとめ――重要なのは、「補助金を使えるか」より「補助金を活かせるか」

事業承継やM&Aは、単なる制度活用の問題ではなく、企業の未来に関わる戦略的な選択です。補助金も、その手段のひとつに過ぎません。

「この補助金をどう活かせるか?」
「自社に本当に必要な支援は何か?」

こうした視点を持ちつつ、早めの準備と、信頼できる専門家とのタッグを組むことが、結果的に企業にとってプラスになります。

制度の変更や公募タイミングも年々流動的になっています。常に最新情報もチェックしながら、備えておきましょう。

補助金制度に加えて、「中小企業事業再編投資損失準備金制度」など、税制面の支援策も存在します。くわしくは、下記の記事もご参照ください。

「M&Aの準備金が積み立てできる!――中小企業事業再編投資損失準備金」制度改革を徹底解説
https://www.kizuna-corp.com/column/shigensyuyaku_zeisei/

著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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