ローカルM&Aマガジン

M&Aにおけるファンドの役割は? ――資金の仕組みから最新動向まで!

投稿日:2025年7月28日

[著]:小川 潤也

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企業の成長や再編、事業承継の手段として注目される「M&Aファンド」。近年では、米系大手ファンドのベインキャピタルが日本企業を次々と買収するなど、ファンド主導のM&Aが活発化しています。
本記事では、M&Aにおけるファンドの基本的な仕組みや役割、そして注目される投資動向についてわかりやすく解説します。

ファンドとは何か?――M&Aとの関係

ファンドとは、複数の投資家から集めた資金を専門の運用会社がまとめて管理・投資し、運用益を分配する仕組みです。投資対象は株式や不動産、債券など多岐にわたりますが、M&Aの場面では「企業買収のための資金を提供する主体」として注目されています。

特に存在感を増しているのが、プライベート・エクイティ(PE)ファンドと呼ばれる種類のファンドです。PEファンドは、主に未上場の企業や事業部門に対して出資・買収を行い、経営改善や成長支援を通じて企業価値を高めたうえで、数年後に株式売却やIPO(新規上場)によってリターンを得ることを目的としています。

このようなファンドは、資本だけでなく経営ノウハウや人材も提供しながら企業の再成長を後押しすることから、単なる「出資者」ではなく、戦略的パートナーとしての役割も果たしているのが大きな特徴です。

ファンドの種類と役割は?

M&A市場には多様な種類のファンドが関与しており、それぞれ異なる目的や投資手法を持っています。以下では、代表的な3種類のファンドとその役割について紹介します。

PEファンド(プライベート・エクイティファンド)

PEファンドは、企業の株式を取得し、経営に深く関与しながら企業価値の向上を図るファンドです。対象は主に未上場企業で、収益改善・コスト削減・ガバナンス強化などの施策を実施することで再成長を促し、一定期間保有後に売却して利益を得る「バイアウト型」の投資を行います。近年では、大企業のノンコア事業の買収や中堅企業の事業承継案件においても積極的に動いており、日本でもその存在感が高まっています。

ベンチャーキャピタル(VC)

VCは、将来の成長が期待されるスタートアップ企業に対してリスクマネーを提供するファンドです。出資と同時に、経営陣へのメンタリングやネットワークの提供、資本政策の支援などを行い、企業の成長を後押しします。M&Aとの関係では、投資先企業の「出口戦略(エグジット)」として、大企業への売却やM&Aによる事業統合が活用されるケースが多く、VCとM&Aは密接な関係にあります。

事業承継ファンド

中小企業の後継者不在という社会課題を背景に、近年注目を集めているのが事業承継ファンドです。ファンドが中小企業の株式を取得し、経営支援や人材派遣を通じて企業の存続と成長を図る仕組みです。地域密着型の地方銀行や信用金庫と連携して設立されるファンドも多く、地域金融機関がハブとなってM&Aを促進しています。特に「地域創生ファンド」などと重なる領域も多く、地方経済の活性化にも貢献しています。

代表的なファンドの例!

ここで、M&Aに積極的な国内外の代表的なファンドをまとめてみましょう。

ベインキャピタル(Bain Capital)

米国ボストンに本拠を構える大手PEファンドで、日本ではすかいらーくや大江戸温泉物語、最近ではアート引越センター(アートコーポレーション)の買収でも話題になりました。大規模な買収・再編に強みを持ち、グローバル規模で投資を展開しています。
参照:https://www.baincapital.co.jp/

カーライル・グループ(Carlyle Group)

世界有数のPEファンドで、日本では日立グループの子会社買収などを手がけてきました。官民連携や戦略的再編を得意とし、安定成長が見込まれる企業への投資にも注力しています。
参照:https://www.carlyle.com/ja

ユニゾン・キャピタル(Unison Capital)

日本発の独立系PEファンドで、飲食・小売・医療など幅広い業種への投資実績があります。中堅企業のバイアウトを中心に、日本企業の特性に合わせた支援体制を整えています。
参照:https://www.unisoncap.com/jp/

日本産業パートナーズ(JIP)

事業再編や企業再生に特化した日本のPEファンドで、大企業のノンコア事業のカーブアウト(切り離し)案件に多数関与。最近では東芝の買収案件で注目されました。
参照:https://jipinc.com/

地域創生ソーシャルインパクト投資ファンド

地域経済の活性化や社会課題の解決を目的に、地方自治体や地域金融機関が連携して立ち上げたファンドです。中小企業の事業承継や新規創業の支援に特化しています。
参照:https://www.startupandglobalfinancialcity.metro.tokyo.lg.jp/gfct/initiatives/contributing-solving-socialissues/impact-fund

ベインキャピタルの積極買収から読み取る、ファンドの最新動向!

PEファンドの代表格である「ベインキャピタル」は、日本国内でも積極的なM&Aを展開しています。2024年には、大手外食チェーンや化粧品メーカー、医療機器企業への出資を通じて、日本市場におけるプレゼンスを強化しました。

特に注目されたのは、2023年末に行われた「すかいらーくホールディングス」への再出資案件。経営再建と成長戦略の両輪で企業価値を高め、数年内の再上場を視野に入れた動きとされています。

ベインキャピタルをはじめとする外資系ファンドは、単なる資金提供にとどまらず、経営陣の刷新やサプライチェーン改革、人材育成などの経営支援にも深く関与するのが特徴です。

中小企業にとってのメリットと課題は?

ファンドによるM&Aは、後継者問題を抱える中小企業にとって有力な選択肢の一つ。事業承継ファンドであれば、経営資源を引き継ぎながら、成長戦略を加速できる体制を構築できることが期待されます。

ただし、ファンドの目的はリターンを得ることであるため、企業価値向上の余地が小さい事業や業績不振が深刻な場合、投資対象として敬遠されるケースもあります。

事前の財務整理や経営改善が求められる場面も多いため、M&A仲介会社やFA(フィナンシャルアドバイザー)のサポートが重要となります。

地域活性化との接点――地域創生ファンドも選択肢に


M&AにおけるファンドというとPEファンドが主流ですが、近年注目されているのが「地域創生ファンド」です。

これは、地方銀行や自治体、官民ファンドが共同で設立したもので、地域企業の成長や事業承継を支援することを目的としています。

たとえば、観光・製造・農業など地域の基幹産業に資金を投下し、経営支援を行うことで、地域経済の持続的発展を後押ししています。

地域創生ファンドの仕組みや活用メリットについては、こちらの記事「地域創生ファンドとは?――資金提供も経営支援も受けられる新たな地方支援スキームの基礎知識から活用例まで!」をご覧ください。
参考:https://www.kizuna-corp.com/column/local_fund/

まとめ

ファンドは、M&Aにおいて資金調達の主軸となるだけでなく、経営支援や企業価値向上のパートナーとしても機能します。

近年では、PEファンドによる買収だけでなく、地域創生ファンドなど多様なタイプのファンドが中小企業の課題解決に貢献しています。

特にベインキャピタルのような世界的ファンドの動向を把握することで、日本市場におけるM&Aの潮流をつかむ手がかりにもなります。

自社に合った支援先を見極めるためにも、最新動向やファンドの特徴を日頃からキャッチアップしておくことが大切です。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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