ローカルM&Aマガジン
代わりに多くの企業が検討しているのが、従業員への事業承継です。ただ、従業員承継は簡単ではなく、いくつかのハードルを乗り越えなければいけません。
後継者不足に悩む経営者に向けて、従業員への代替わり承継について解説します。
後継者不在の場合は従業員承継を
経営者本人の親族や会社の関係者に経営権を引き継ぐ「内部承継」の一つであるのが、「従業員承継」です。事業承継の方法にはほかに、M&Aなどによって外部に経営を引き継ぐ「外部承継」があります。
長年会社を存続・成長させてきた先代経営者からすると、会社のことを熟知している従業員に継いでもらえる従業員承継は、安心できる引き継ぎ手段の一つでしょう。
親族内承継の減少を背景として、従業員承継は2000年以降の約20年間で20%以上増加しており、中小企業でも取り入れられるメジャーな承継手法となってきています。
従業員に会社を代替わりするメリットとは
従業員承継が選ばれるのは、次のようなメリットが考えられることが理由です。
メリット①幅広い選択肢から後継社長を選べる
親族内承継の場合は、子や兄弟などの親族といった限られた選択肢しかありません。血縁関係のある親族ということで信頼はできるでしょうが、彼ら彼女たちが経営に必ず向いているとは限らないのです。
対する従業員承継の大きなメリットの一つとして、広い範囲から後継者を選べる点があります。従業員は長く会社に勤めてきた信頼がありますし、素質のある役員や従業員であれば次代の経営者候補としての資格は十分でしょう。
メリット②会社のことを熟知している人に引き継げる
役員や従業員は、当然その会社で働いてきた人たちであるため、企業内部のことを熟知しています。業務内容に限らず、社内慣習や業界の知識も会得しているため、経営者としての教育もゼロからの出発ではありません。
メリット③取引先に新社長として受け入れられやすい
事業承継で外部人材に経営を引き継いだ際に難しいのが、取引先とのリレーションです。経営の引き継ぎによって、もし取引先の不信を買うことになれば、最悪の場合は取引停止となり、会社の損失につながりかねません。
一方、元々自社で働いていた人であれば、人間関係の引き継ぎはスムーズでしょう。会社内で承継を行なうことは自然な流れのため、周囲に受け入れられやすいのはメリットの一つです。
従業員承継で注意すべきハードル
従業員承継はスムーズな代替わりが実現できる一方で、乗り越えるべきハードルもあります。考えられるハードルは、次の通りです。
ハードル①後継者の資金力不足で株式と借金が引き継げない
中小企業は、経営者自身が株式の大半を所有するオーナー企業である場合が多いです。したがって、会社を引き継ぐ際は次の経営者に株式を売却するのが一般的になります。
ただ、従業員承継では株式譲渡における対価の支払いができない可能性が考えられます。単純に資金力不足だからです。
さらに、中小企業では会社の借入金に対して経営者自身が保証人になったり、個人資産から担保を差し入れていたりすることが多いです。社長を引き継げば借り入れの個人保証も引き継ぐことになるので、従業員承継を行なう場合、後継者が債務保証できる金額まで会社の借入金を減らすなどの対策を講じる必要があるでしょう。
ハードル②承継後の経営方針が保守的になりやすい
従業員承継は会社のことを熟知した従業員にスムーズに経営権を引き継げるメリットがある一方で、会社が今後大きな発展を遂げられるかはかなり不明瞭です。
たとえば、M&Aなどによる外部招へいの場合は、新経営者が抜本的な改革を行なうことが考えられるので、会社が想像を超えた成長を遂げるケースもあるでしょう。ただ、従業員承継では企業文化や社風をそのまま引き継ぎ、新しいことにチャレンジしないなど、新たな改革が巻き起こらない承継になってしまうパターンも多いのです。
事業承継をきっかけに自社がさらに発展してほしいと望むなら、従業員のなかでも一風変わった革新的な視点を持つ人材に任せてみるのが良いでしょう。
まとめ
経営者にとって命の次に大切な会社だからこそ、信頼できる相手に引き継ぎたいと考えるのは自然です。従業員承継には乗り越えるべきハードルもありますが、信頼できる後継者にスムーズに経営を引き継げるのは大きなメリット。自分の理念が共有でき、今後も経営を任せられると信頼できる人材に事業を継承しましょう。
なお、以前のコラムで、後継社長の目線で事業承継を解説しています。後継者目線で事業承継を考えれば、解決策も見えるかもしれません。合わせてご覧ください。
・先代から会社を継いだ後継社長が注意すべきポイント

小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役
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