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先代から会社を継いだ後継社長が注意すべきポイント

[著]:小川 潤也

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親などの先代から事業を承継することになった後継社長。以前から先代の会社に勤務していたケースもあれば外部で会社勤めをしていたケースもありますが、別の人間が経営していたオーナー企業の社長に、ある日突然就任するというのは簡単なことではありません。

本記事では、後継社長がぶつかることになる壁について解説します。

経営者としての信頼は代替わりでリセットされる

中小企業の場合は特に、会社に対する信用イコール経営者に対する信用である場合が多いものです。金融機関にせよ取引先にせよ、会社の財務体質以上に経営者の実力と人柄を評価して取引を続けている部分が大きくなります。先代と先方の担当者・社長が数十年の付き合いである、というようなケースも珍しくありません。

先代が退いて後継社長が就任すると、この経営者個人に対する信用はリセットされてしまいます。先代の子息であれば全面的に信頼してもらえる、というほど甘いものではありません。

もちろん、承継前後の一定期間は先代と一緒に仕事したり、幹部との会義に一緒に参加したりなどのサポートを得ることができれば、信用の承継はスムーズになります。しかし、いつまでも先代に頼りたくないプライドがなければ、真の後継者にはなりえません。まして、金融機関や取引先からはだだでさえ、苦労知らずの息子が社長になってと見られがちなので、期待以上の頑張りと結果が求められます。

従業員がついてこないケースが多い

また、難しいのは実は、社外よりも従業員です。金融機関や取引先は、堅実に経営を続けていれば大概は信用を勝ち取ることができますが、従業員は業績好調なら必ずついてくるとは言えません。

そもそも、中小企業の場合は他社に比べて目を見張るような待遇や勤めていることでのステータスを得られることはほとんどなく、従業員が会社自体に忠誠心を強く持っているケースはあまりありません。他でもない、経営者の人望に従業員がついていることが多いのです。先代が創業社長で会社を一から築き上げたような場合であれば尚更です。

そんな状態の会社を引き継ぐと、従業員が理屈なしに「自分は先代だからついてきたのだ」と反発することがしばしば起こります。実力ではなく親の七光りで社長になった人間だ、というように斜に構えて見られてしまうのです。事業を長年支えてきた番頭格の幹部がいる場合、「実質的なトップは自分だ」と苦々しく思われることもあるでしょう。

言うまでもなく、社員が経営者の言うことを聞かなければ会社は成り立ちませんし、表面的には指示に従っていても心にしこりがあればパフォーマンスは落ちてしまいます。

全力で事業にコミットする姿勢を見せる

しかし、当社が様々な事業承継を見てきた中でいうと、金融機関や取引先、従業員から信頼を勝ち取れない後継社長には、その人自身の姿勢に問題がある場合が少なくないのです。

姿勢というのは、一言でいうと情熱です。中小企業の後継社長は「親にせがまれて仕方なく継いだ」「親が後継者不在で困っていたから継いであげた」という経緯で事業を承継した方に中にはいらっしゃいます。後継者は最初から経営に情熱を持って社長に就任したわけではないことがままあります。幼少期からぼっちゃん育ちで大企業の社長と勘違いしていて、借金などの財務状況を知って、「こんなはずではなかった」と心がふわふわしているケースが見られるのです。

しかし、他者、特に従業員は社長の取り組み姿勢をよく見ています。何としても事業を成功させようという姿勢がトップから感じられなければ、ついていく気がしないのは当然のことでしょう。

後継社長は、もし踏ん切りのつかない気持ちを抱えていたとしても、経営者を継いだ以上は気持ちを切り替えるか、あるいは「お金のため」と割り切るとしても全力投球しなければいけません。中途半端にフラフラしていては、業績は間違いなく悪化していきます。

もしどうしてもやる気になれないのならば、業績がいいうちにM&Aで会社を売却するのも一つの手でしょう。時期を逸さなければ経営者がキャッシュを得ながらやる気のある新社長に事業を引き継ぐことができ、結果的に関係者や従業員にとって幸せになるかもしれません。

実際、当社のもとにも「先代から会社を引き継いで後悔しているのでM&Aしたい」という相談はよくやって来ます。

まとめ

永年続いてきた会社の社長を引き継ぐのは、決して簡単なことではありません。就任後に「先代に聞いていた話と違う」と裏切られた気持ちになることもあるでしょう。

大事なのは、自分がゼロから会社を始めるというぐらいの意気で事業にコミットすることです。そこまでの意欲は持てないと判断するのであれば、割り切ってM&Aなどで永続できる会社に引き継いでもらうことも早期に検討した方がいいでしょう。そして、自分は後継者としての十字架を手放し、新しい人生をスタートさせるのも魅力的なはずです。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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