ローカルM&Aマガジン

再生型M&Aの成功のポイントとは?――買い手企業も売り手企業も知っておくべき7つの視点

投稿日:2025年9月29日

[著]:小川 潤也

赤字企業や債務超過の会社は、「リスクが高すぎる」と敬遠されがちです。しかし、中小企業M&Aの現場では、そうした再生案件こそが、顧客基盤、ブランド、社員、そして、資産や許認可といった“見えない価値”を秘めていることもあります。

本記事では、「事業承継型」とは異なる視点が求められる「再生型M&A」の成功ポイントを紹介。売り手も買い手も知っておきたい、価値の見抜き方と再生シナリオの描き方を具体的に解説します。

「再生型M&A」はリスクか、チャンスか?

「業績が悪い会社を買うなんて、リスクが高すぎる」

――そう思われる方も多いかもしれません。しかし、中小企業M&Aの現場では、「一見ネガティブに見える案件」の中にこそ、意外なチャンスが隠れていることがあります。

そもそも、M&Aには大きく分けて「事業承継型」と「再生型」の2つがあります。

「事業承継型」は、業績が安定している企業のオーナーが引退・高齢化などの理由で後継者を探すケース。一方で「再生型」は、業績が悪化した企業に対して、新たなオーナーが経営改善や事業転換を行うことで再起を図るものです。

どちらも中小企業の存続と発展には重要な手法ですが、買い手にとっての難易度やリスク、そして見るべきポイントはまったく異なります。

しかも今後は、こうした再生型M&Aの機会が増えていくことが予想されます。コロナ融資の返済が本格化するタイミングを迎え、収支のバランスを崩す企業が増加中。加えて、私的整理のガイドライン整備や、金融庁による再生支援の推進方針など、支援型M&Aを後押しする動きも広がっています。

本記事では、売り手企業も買い手企業も抑えておくべき、「再生型M&A」を成功に導く7つの視点にフォーカスして解説していきます。

★ちなみに、「再生型M&A」について、くわしくは下記のコラムもご参照ください。
「再生型M&Aとは? メリット・デメリットからポイントを徹底解説」
参照:https://www.kizuna-corp.com/column/restructuring/

【視点1】土地・建物などの不動産価値

赤字企業でも、所有している不動産が魅力的であれば、その価値だけでも十分に買収の意味があるケースがあります。

たとえばある建設会社の場合、業績は数年赤字続きでしたが、事務所兼倉庫として使われていた土地が幹線道路沿いにあり、商業施設や物流拠点としての再活用が期待されました。結果として、不動産価値と立地を評価した買い手が現れ、土地を活かした新事業に展開していきました。

【視点2】許認可やスキームの継承性

建設業や介護業、酒造メーカーのように、特定の許認可や行政スキームの中で運営されている事業は、それ自体に価値があります。

例として、介護施設のM&Aでは、営業赤字でも、役員報酬、減価償却や支払い金利、などを加味して、期間損益がプラスとなり、金融負債がなくなれば、見え方は変わってきます。また、長年、介護事業が運営され、地域コミュニテイーとの協力体制が確立されている場合、ゼロから新設するよりも圧倒的に早く事業に乗り出すことが可能です。これらの「制度との親和性」「継続性」が、再生のキーポイントになります。また、近年、建築コストが上昇しており、新規で介護施設を建てるより、M&Aで既存事業を買収する方が圧倒的なコストダウンになるケースもあるようです。

【視点3】人的資産とローカルネットワーク

地方の中小企業では、創業者や従業員が長年築き上げた地元ネットワークに価値がある場合もあります。

たとえば製造業で長年OEMを担っていた企業は、業績低迷中でも大手取引先とのルートを保持しており、それが買い手の事業拡大につながりました。営業社員が地元に強いネットワークを持っていたことで、スムーズな取引継続が実現したのです。

【視点4】隠れた固定資産や資産評価の見直し

帳簿上は減価償却されていても、実際には使える設備や資材、車両などが残っているケースも少なくありません。

また、不動産評価も、現行の会計処理では時価を反映していないことが多く、専門家の査定によって「本当の価値」が判明することもあります。

【視点5】負債とのトレードオフ構造

当然、債務超過の会社にはリスクも伴います。もちらん、買収価格やスキーム次第では私的整理で金融機関の負債がなくなれば、譲渡対価を上回るメリットが得られる場合も。

たとえば、土地付き施設を所有する赤字介護法人では、買収後に土地を活用した新事業を立ち上げることで、負債を解消しつつ安定収益源を確保できた例もあります。

【視点6】投資家や買い手側の既存資源との親和性

「買い手側に何があるか」によっても、再生案件の見え方は大きく変わります。

たとえば、自社で介護事業や障がい者支援事業を運営している場合、借入金の返済ができずに経営破綻した、障がい者支援事業を買収したケースでは、即戦力の人材投入によって黒字化を早期に実現しました。すでにあるリソースを活かせるかどうかは、重要な判断軸になります。

【視点7】再生のシナリオを描けるかどうか

最後に問われるのは、買い手が「再生のストーリーを描けるか」です。

財務や不動産、人材、制度――そうした要素を総合的に分析し、自社にとってどう組み替えることで利益を出せるのか。仮説を立て、実行可能な道筋があれば、「業績の悪い会社」も“本当に成功する買収”になり得ます。

買い手企業は、再生案件を買うなら“覚悟”が必要!

忘れてはならないのは、再生案件は「買って終わり」ではなく、「買ってからが始まり」だということです。

再生には、現場を理解する事業責任者の派遣や、再設計にかかる時間とコスト、関係者との丁寧な関係構築など、手間とリソースをかける覚悟が必要です。資金的な余力や、時間軸に対する見通しも重要な検討要素となります。

再生案件に取り組む買い手企業は、「安く買える」ことに目を奪われすぎず、自社のリソースと向き合ったうえで、長期的な戦略とマネジメント体制を整えて臨むべきでしょう。

まとめ

中小企業M&Aにおいて、数字だけでは測れない“見えない価値”がカギを握ることは少なくありません。

とくに赤字や債務超過の再生案件では、「なぜ業績が悪化したのか」よりも「何が残っているか」を見極める目が重要です。そしてそれを活かし、再生していく力は、買い手企業のビジョンとリソース次第でもあります。

もし今、赤字案件や債務超過の会社の買収を迷っているのであれば、一度その“中に眠る価値”を専門家とともに分析してみてはいかがでしょうか。表面上の数値では見えない価値が、未来の成功のタネになるかもしれません。

著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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