ローカルM&Aマガジン

ベンチャー企業のM&A、徹底解説! ――成功のポイントと注意点とは?

投稿日:2025年9月8日

[著]:小川 潤也

急成長を目指すベンチャー企業にとって、M&A(企業の合併・買収)は単なる資金調達手段ではなく、事業を次のステージへ進めるための戦略的な選択肢です。特に近年は、IPOに代わる現実的なEXIT戦略として注目が高まっており、売り手・買い手双方にとって大きなチャンスとなっています。

本記事では、ベンチャーM&Aの基本的な仕組みから、成功に導くためのポイント、注意すべきリスク、そしてM&Aを支える専門家の役割までをわかりやすく解説します。

「ベンチャーM&A」とは?

──スタートアップとの違いとIPOとの比較から理解しよう

ベンチャー企業とは、「新しい技術やビジネスモデルをもとに急成長を目指す企業」のことを指します。単に「創業初期の企業」という意味で使われる「スタートアップ企業」とは異なり、ある程度の成長段階に達しており、自己資金に加えて外部からの出資や融資など、積極的な資金調達を行っている点が特徴です。

こうしたベンチャー企業が次なる成長ステージへ進む手段のひとつが「ベンチャーM&A」です。他社に買収されることで、単独では難しい市場拡大や経営資源の活用が可能となり、事業を加速させる道が開かれます。

また、M&Aは「EXIT戦略(事業の出口戦略)」としても注目されており、代表的な選択肢にはM&AとIPO(新規株式公開)があります。

【M&A】
・比較的短期間での実現が可能で、買収先の企業との相性によっては事業のスピードアップや安定的な成長が期待できます。

【IPO】
・社会的な信用や知名度が高まる一方で、厳格な審査をクリアする必要があり、上場までに数年かかるケースも少なくありません。

このように、近年では「柔軟で現実的な選択肢」として、ベンチャーM&Aが再評価されているのです。

ベンチャー企業がM&Aを選ぶ理由とその利点、課題

ベンチャーM&Aには以下のようなメリットとデメリットがあります。

【メリット】
・創業者が事業売却によって早期にキャピタルゲインを得ることができる
・買収企業の販路やブランド力を活用することで、自社単独では難しい市場拡大や成長加速が可能になる

【デメリット】
・買収により株式が分散し、創業者の持株比率が下がることで、経営の自由度が損なわれる可能性がある
・買収後のPMI(統合プロセス)がうまくいかない場合、企業文化や経営方針の違いから摩擦が生じ、従業員の離職や事業の失速といったリスクもある

買収側がベンチャー企業を選ぶ目的とは?

買い手企業がベンチャー企業を買収する背景には、次のような戦略的な意図があります。

① 新規事業・DXの加速
革新的な技術やアイデアを持つベンチャーを取り込むことで、新規事業やDXを推進できます。また、優秀な起業家や技術者など、内部育成が難しい人材の獲得も大きな目的です。

② シナジー創出による時間とコストの削減
自社とベンチャーの技術・サービスを組み合わせることで、事業間のシナジーが生まれ、ゼロから新規事業を立ち上げるよりも効率よく成果を出すことができます。

③ ポートフォリオの拡大と投資リターンの獲得
将来性のあるベンチャーに出資・買収することで、キャピタルゲインを狙うだけでなく、リスク分散につながる事業ポートフォリオの多様化を図れます。

ベンチャーM&Aの主要スキームとバリュエーションの考え方!

ベンチャーM&Aには、主に以下の3つのスキームがあります。いずれの手法でも、バリュエーション(企業価値評価)が重要となります。

● 株式譲渡
創業者や株主が保有する株式を買収企業に売却し、経営権を移転します。最も一般的なM&A手法です。

● 第三者割当増資
ベンチャー企業が新たに株式を発行し、それを買収企業が引き受けます。資金調達と資本提携を同時に行うことができ、成長資金の確保にもつながります。

● 事業譲渡
会社全体ではなく、特定の事業のみを売却する方式です。不採算事業や負債などを切り離すことができ、柔軟な取引が可能です。

ベンチャーM&Aを成功させる3つのポイント!

M&Aを成功に導くためには、単に良い相手を見つけるだけでは不十分です。タイミングや戦略、統合後の対応までを見据えた準備が欠かせません。

ここでは、成功のために特に重要な3つのポイントをご紹介します。

① 売却タイミングと成長フェーズの見極め
企業が成長軌道に乗り、市場での競争力や収益性が高まってきた段階での売却は、より高い評価を得やすくなります。一方で、早すぎる売却は価値を過小評価されるリスクがあります。

② 適切な買い手の選定
単なる資金力ではなく、事業ビジョンや企業文化が合致し、長期的にシナジーが見込める企業を選ぶことが成功への近道です。

③ PMI(統合プロセス)の戦略設計
買収後の混乱を避けるため、キーパーソンの流出防止や企業文化の融合を図ることが大切です。モチベーション管理や明確な報酬設計などの準備が求められます。

買い手企業が注意すべきM&Aリスクとは?

買収は大きなチャンスをもたらす一方で、思わぬ落とし穴もあります。ここでは、買い手企業が特に注意すべき代表的なリスクを紹介します。

① 技術や人材の流出リスク
キーパーソンが離脱すれば、期待された成長やシナジーが失われる可能性があります。リテンション(定着)策が不可欠です。

② バリュエーションの不確実性
実績が少ないベンチャーでは、将来性の評価に依存するため、過大な期待に基づいた高値買収のリスクがあります。

③ コンプライアンスや内部管理体制の不備
法務・労務・税務などの基盤が不十分な企業も多く、買収後にリスクが顕在化する可能性があります。事前のデューデリジェンスが重要です。

ベンチャーM&Aを支える専門家の役割とは?

ベンチャーM&Aは専門性の高い取引であり、売り手・買い手の双方にとって複雑な判断が求められます。そのため、各分野の専門家によるサポートが成功の鍵を握ります。ここでは、M&Aを円滑に進めるうえで欠かせない主な専門家の役割をご紹介しましょう。

① M&A仲介会社もしくはFA(ファイナンシャルアドバイザー)
売り手と買い手の間に入り、中立的な立場で条件交渉やマッチング、スケジュール管理を担います。
依頼企業側の立場で戦略的アドバイスや企業価値の評価、交渉支援を行います。

もしくは売り手として、FAを専任するという手段もあります。譲渡対価が5億円を超えるようであればFAが望ましいですし、5億円未満であれば、M&A仲介会社にお願いして、買い手を探してもらう方が成立する可能性が高まります。

③ 弁護士
契約書作成や法的リスクの精査を担当します。知的財産や労務問題にも対応可能です。

④ 会計士
財務デューデリジェンスを通じて、収益性や隠れた負債の有無を判断します。

まとめ――ベンチャーM&A成功の鍵は「戦略」と「準備」!

ベンチャーM&Aは、創業者にとって早期の利益確定や成長加速を実現する手段であり、買い手にとっては新規事業・DX・人材確保の近道です。

成功のためには、適切な売却時期の見極め、買収後の統合戦略、そして信頼できる専門家による支援が不可欠です。

「M&A」は単なるゴールではなく、次の成長へのスタートです。売り手・買い手双方にとって、価値ある未来を描くための選択として捉えることが重要です。

著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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