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「特別清算」とは?――最新事例をもとに、破産との違いやメリット・デメリットを徹底解説

投稿日:2024年7月9日

[著]:小川 潤也

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2024年2月、「元祖柿の種」で知られる旧浪花屋製菓が「特別清算」を開始した、というニュースが流れました。特別清算といっても、あまり馴染みがない方が多いのではないでしょうか。特別清算と破産との違いや特別清算のメリット・デメリットなどを徹底解説します。

「特別清算」で旧浪花屋製菓はどうなる?

国民的乾きもののおつまみ「柿の種」。その元祖として知られる旧浪花屋製菓の摂田屋管財(新潟県長岡市)が新潟地裁より「特別清算」の開始決定を受けました。旧浪花屋製菓は1923年創業と、100年を超える老舗米菓メーカーでしたが、近年は経営不振に陥っていました。

阿部幸製菓(同県小千谷市)は2023年、旧浪花屋製菓の事業を承継することを表明しました。まず、阿部幸製菓を母体とする新会社を設立しました。その後、旧浪花屋製菓を会社分割して、全事業や工場、従業員などをこの新会社に移管させるとともに、新会社の名称を従来と同じ浪花屋製菓に変更しました。

一方、経営が破綻した旧浪花屋製菓は摂田屋管財に名称変更した後、2023年10月の株主総会の決議で解散し、今回の特別清算の手続きが開始されました。

「特別清算」とは?

それでは、特別清算とはどのような制度なのでしょうか? 特別清算は、企業が解散する際の清算手続きの一つです。

通常清算は、残った資産で債務をすべて返済できる場合にのみ利用できます。これに対して特別清算は、会社に残った資産で債務を完済できない可能性があるときなどに用いられます。また、債務超過の疑いがあり、適正な清算を行うための裁判所の監督下で行わる清算手続きです。

特別清算を行う大前提は、株式会社であることと、すでに解散していることです。会社の資産を売却して債務を償還し、残った資産を株主に分配する手続きが行われます。

「特別清算」と「破産」の違いは?

「破産」という言葉も目にするでしょう。特別清算は、清算型の倒産処理でありながら、破産ほど手続きが厳格でなく、簡単に迅速に会社を清算できる点が破産との違いです。

会社財産の管理処分権が委ねられる先も異なります。特別清算では株主総会で選任された清算人に、破産では裁判所によって選任された破産管財人にそれぞれ委ねられます。つまり、特別清算なら会社が管理処分権者を決められるのです。

また、破産には否認権という制度がありますが、特別清算にはありません。否認権とは、債権者間の公平を害する行為があったとき、流出した財産の取り戻しを可能にするものです。特別清算には否認権がないため、会社の解散や清算に先立って私的に整理することと組み合わせたスキームも可能です。

特別清算のメリットとは?

1.迅速に会社をたためる
特別清算は、倒産処理でありながら、破産ほど手続きが厳格ではなく、迅速に清算できるというメリットがあります。

2.低コスト
裁判所への予納金が、破産は最低70万円、小規模管財の場合でも20万円かかりますが、特別清算なら3~10万円程度ですみます。

3.イメージがいい
特別清算も破産と同じように会社を消滅させる手続きですが、「倒産」のイメージが薄いといわれています。

特別清算のデメリットは?

特別清算の最大のデメリットは、この制度を利用できるケースが限定されていることです。

まず、特別清算を実施するには会社を解散しなければなりませんが、そのためには株主総会の特別決議、株主の2/3の賛成が必要です。同族会社でない限り、解散決議を可決させるのは容易ではありません。解散決議が通ったとしても、債権者に対する弁済計画である協定案に対してこれまた債権者の2/3以上の同意が必要となります。

特別清算はメリットがある反面、株主総会の決議も債権者の同意もいらない破産に比べて、ハードルが高いのがネックといえます。

再建型の倒産処理に活用できる

特別清算は本来は解散した企業を清算するための手続きです。しかし、旧浪花屋製菓のように、再建型の倒産処理方法として活用できます。

具体的には、以下の流れです。

▼債務を負った旧会社から、事業譲渡や会社分割によって事業の一部または全部を取り出して、新会社に移転します。

▼旧会社は特別清算によって消滅させます。

▼旧会社の債権者に対して、新会社が旧会社に支払った移転の対価で弁済するか、債務の引き受けによって弁済します。

こうすれば、旧浪花屋製菓のように事業を存続させ、従業員の雇用も守られるのです。ただ、そのためには新会社のスポンサーが必要です。スポンサー側から見れば、負債は引き継ぐ必要はなく、事業を普通のM&Aよりリーズナブルに買えるというメリットがあります。しかし、事業を再生させるという責任がともない、何もしなくても事業が回るわけではなく、収益を改善させ、投資に見合ったリターンを求めるにはそれを陣頭指揮する人材や投下資本が必要となります。

ちなみに、旧浪花屋製菓は、摂田屋管財と企業名を変えて会社を清算しました。そうすれば「浪花屋製菓が倒産した」というイメージダウンを軽減できます。このパターンは特別清算の事業譲渡の際によくある経営戦略の1つです。

今後は「特別清算」が増える?

今後、コロナ融資の返済が困難な企業がさらに増えると予想されます。コロナ禍という特殊状況がきっかけで経営難に陥ったものの、事業自体には健全性や将来性があるケースも珍しくありません。そうなると、特別清算を活用した再生型M&Aによる、事業譲渡や会社分割が増える可能性が高いでしょう。実際に、経営状況が厳しい企業からの弊社への相談は増えております。

まとめ

株主や債権者の一定の同意が必要となる特別清算を活用した事業譲渡や会社分割は、誰でもスムーズに進められるというわけではありません。この手法に精通した弁護士やM&Aの専門家に依頼するようにしましょう。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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