そこで悩むのが、社長引き継ぎのタイミング。ある程度の年齢を過ぎた経営者は事業承継を意識するようになるものの、具体的に何歳の段階で承継を実施するのかの判断に困ってしまう方は多いでしょう。
今回は、事業承継の準備を始めてから、実際に社長交代に至る最適なタイミングについて解説します。
社長の平均年齢は上がる一方
経営者の高齢化が叫ばれて久しい昨今。
最新の状況について、データから分析してみましょう。
とうとう社長の平均年齢は60歳以上に
帝国データバンクの「全国社長年齢分析」によると、全国の社長の平均年齢は60.1歳。前年比はプラス0.2歳で、調査開始から初めて60歳を超えました。
60代社長は全体の27.3%を占め、最多の割合となっています。70歳を過ぎた社長も珍しくはなく、多くの高齢社長が現役で経営にあたっています。
一方、企業の後継者不在率は65.1%で、相変わらずの高止まりです。経営者の高齢化に歯止めがきかない状況にもかかわらず、事業承継の準備が進んでいない現状が見てとれます。
後継者不在のまま「もしも」の時が訪れたら
いくら元気な高齢経営者が多いといっても、人間の寿命には限りがあります。60代後半、70代と、社長が歳を重ねれば重ねるほど、突然体調を崩すリスクは高まるのです。
後継者が決まっていないまま先代が突然亡くなったり、寝たきりになって業務を続けられなくなってしまったりしたら、会社は大変な混乱に陥ります。
慌てて親族や従業員の誰かを後任社長に立てたとしても、いきなり社長になった人物が健全に会社を運営できる可能性は、かなり低いでしょう。
最悪の場合は、取引先から次々に契約を打ち切られたり、金融機関から融資の返済を求められたりして、すぐに会社が潰れてしまうかもしれません。
それどころか、社長交代の混乱で従業員の大量離職が起こり、事業が継続できなくなる恐れもあるのです。
承継準備にはどれくらい時間をかけるべきか
突然の事業承継によって会社にダメージを与えないためには、承継の準備にどのくらいの期間が必要なのでしょうか。
事業承継に最適なタイミングを判断するうえでは、次の3つの観点で考えます。
観点①経営の引き継ぎ
経営者は、会社のすべてを深く理解している必要があります。事業承継にあたっては、通りいっぺんの業務引き継ぎだけではなく、前経営者の頭の中にある知識や感覚をも受け継がなければなりません。
こういった深い意味での経営の引き継ぎは、どんなに前社長が引き継ぎ上手で後継社長の飲み込みが良かったとしても、最低半年はかかるでしょう。
そのため、一般的には1〜2年の承継期間を設けます。
観点②後継者の育成
後継社長は、企業の経営を初めて経験するパターンが多くなります。
誰であっても、初めて取り組む領域の仕事はうまくいかないもの。前社長がすべき社長業の引き継ぎ項目の中には、後継者を社長予備軍として鍛える育成業務も含まれると考えてください。
育成についても、短くても半年、できれば1〜2年ぐらいは、経営者としてのノウハウを叩き込む期間が必要です。
ただ、M&Aなどによって経営経験のある人材を後継者に据える場合、後継者の育成は不要になる可能性もあります。
観点③株価対策
事業承継と切っても切れない関係にあるのが、持株の承継です。
特に中小企業は、オーナー企業である場合が多く、多額の持株の移転に伴う税金が非常に高額になるケースがあるからです。税金の問題をクリアできなければ、承継自体が実行できません。
したがって、事業承継の準備の一つとして、株式移転にかかる税金を軽減するための株価対策が必要になります。
問題は、株価を下げようとして慌てて対策を行なうと、税務署から租税回避行為とみなされる可能性がある点。安全に株価対策を実施するためには、5年程度の期間をかける場合もあるようです。
事業承継に伴う株式移転については、「事業承継税制」を活用して税金を軽減できる可能性もあります。事業承継税制は適用条件が複雑なので、自分でしっかり調べたうえで顧問税理士に相談してみてください。
まとめ
事業承継の準備不足が招く悲劇と、承継の準備にかけるべき期間について解説しました。
まとめると、社長の引き継ぎには少なくても1〜2年、準備の期間を設けるべきでしょう。株価対策を徹底的に行なう場合は、さらに準備期間が延びます。
突然事業承継をしなければならなくなって、会社を混乱に陥れないよう、「自分は生涯現役だ」などといわず、計画的な社長交代に取り組むことが必要です。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役