今回は、厳しい現実に直面しながらも、紆余曲折を経て最終的にM&Aを成功させたK.Iさんにインタビュー。
M&Aの生々しい現実を伝えます。
M&Aを決心した理由とは
――今回、M&Aを決断した理由はなんでしょうか?
後継者がいなかったからです。子どもはいたんですけどね、会社の事業に対する考え方が合わなくて、後継者としてはダメだなと。継いでもらうのだったら、自分がここまで事業で培ってきた信頼をその先20年、30年と繋げていってほしいですから。
周囲からは子どもに継がせない決断を猛反対されましたが、自分でダメだと考える子どもに事業を継がせても、会社が悪くなっていくのは目に見えています。
そういうわけで、会社を売れるんだったら売ってしまおうと思ったんです。
――絆コーポレーションさんとはすぐに出会ったんですか?
M&Aを決めて、最初のうちは取引銀行やにいがた産業創造機構(NICO)に相談しました。それぞれ「自分たちのネットワークで買い手候補を探しますよ」と言ってはくれたものの、結局紹介には結びつきませんでしたね。言い方は悪いですが、彼らはどこか当事者意識に欠けているというか、なかなかうまくいきませんでした。
そこでネットで検索して、絆コーポレーションさんに出会ったんです。
絆コーポレーションさんは、熱心に何社も買い手候補を探してくれましたね。やはりプロに頼むと一生懸命動いてくれるんだなと感心しました。
事業の価値が理解されないことにヤキモキ
――M&Aを進める過程で苦労した点は?
一番大変だったのは、価格の折り合いがつかなかったことです。私が当初イメージしていた額では、なかなか買い手が見つかりませんでした。
私としては、当初の希望価格はしごく妥当だと思っていたんですよ。私の会社は先祖代々の土地から出てくる石材資源を加工して販売する事業を主軸にしていたんですが、切削機械は非常に高額です。そうした設備資産も買い値に加味してくれることを期待していたんですが、思うようにいきませんでした。
気軽な気持ちで見学に来る買い手候補はたくさんいましたが、正直言って腹が立つシーンもありましたね。
――「腹が立った」というと?
石材のビジネスを軽く考えている人が非常に多かったんですよ。私の会社は、同業の大手と違ってホンモノの材料を使い、高品質な商品を提供しています。大手の商社が来て、「すごく良い素材が出るし流通用の道路付けも素晴らしいから、数億円で売ってくれないか」って話をもらったこともあるんですよ。そのときは売る気なんてありませんでしたから、もちろん断りましたがね。
ところが、今回のM&Aで見学にやってきた会社の多くは、石材ビジネスについてロクに勉強もしていませんでした。「新規事業を探していて、天然資材系は手堅そうだからやってみようかな」くらいの興味本位だったのでしょう。たいして調査もせずに「1000万円くらいで売ってくれませんか」なんて言ってくるもんで、すぐに帰ってもらったこともありますよ。
M&Aを成功させる極意とは
――最終的には10ヶ月ほどでM&Aの成約に至ったのですね。
譲歩したというか、ある程度折り合いをつけたんです。私が希望条件をまったく譲らずに、M&Aが進まないまま1年経ちましたなんてことは避けたかったですからね。
どうやら希望どおりの額では売れなさそうだと薄々わかってきていたところに、石材の事業をしっかり理解してくれる誠実な会社が現れたので、前向きに話を進める決断をしました。私がいっこうに妥協しないんじゃ、依頼している絆コーポレーションさんも動くに動けないでしょうしね。
妥協というと言い方が悪いですが、私の手元にしっかりキャッシュを残して引退できたので、悔いはありません。良い決断だったと思っています。
――M&Aを成功させた秘訣はなんだったのでしょうか?
いろんな意味で覚悟をすることでしょうね。希望額を一定のラインまで下げても、M&Aをするという覚悟。M&A後の経営について買い手企業に注文をつけたくなるけれども、オーナーチェンジ後は口を出せる立場ではなくなるとわきまえる覚悟。
私の場合、M&A前に従業員をゼロ人にしたおかげで買い手がつきやすくなりましたから、会社を整理しておくことも必要でしょうね。借金だの従業員だのくっついていると、買い手の懸念材料が増えますから。ほかには、業績が良くないならしっかり黒字にしてから検討することも必要だと思います。
私の会社はちょっと特殊な事業ですから、業種によって事情はさまざまに違ってくるでしょう。いずれにしても経営者として幕を引く覚悟をしっかり持って、M&Aを決断するべきだと思います。
――「幕を引く者の覚悟が重要」と語ってくださったK.Iさん。リタイア生活をごゆっくりお過ごしください。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役