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承継後のつまずきを阻止せよ! M&Aで買い手側が気をつけるべきポイント

[著]:小川 潤也

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会社のすべては経営者で決まるといっても過言ではありませんが、M&Aを実行すると経営者が変わるわけですから、その影響は極めて甚大です。

はじめてM&Aで買収を行なう会社にとっては想定していないような事態も発生することもあります。

今回の記事では、買収後の誤算を避けるため、M&Aで買い手が気をつけるべきポイントを解説します。

関係者の反応に注意!

M&Aで経営者が変わると、会社の関係者に最も大きな影響が及びます。

代表的な注意点を紹介しましょう。

従業員に不安が広がる

M&Aで最も大きく環境が変わるのは、従業員です。

トップが変わることで自分たちの仕事にどんな影響があるのか、彼らはその不安を表に出さなくとも、会社の動きを注視しています。これはM&Aでなくとも直属の上司が異動で変わる時、部下は上司に注目するのと同様です。

なかでも特に警戒心を抱くのは、前経営者に「目をかけてもらっていた」という従業員です。

たとえば、創業メンバーであるために能力がなくても高いポジションにいたり、過去の成果を盾にしてワガママを言ったりしていた従業員は、M&Aで経営者が変わるとそれまでの立ち位置をキープできなくなるでしょう。

彼ら自身、こうした処遇の悪化を危惧しているため、M&Aが公表された途端に退職してしまうケースもあります。

こうした全経営者が自由な動きを容認していた人物が突然抜けることになると、後継社長として最初は戸惑うのですが、案外、会社はうまく回っていきます。

譲渡完了までに、可能なかぎりそうしたリスクのある従業員がいないか、前経営者からヒアリングすることをおすすめします。また、リスクある従業員がいた場合、その方の役割はどんなものか、代わりの方で補えるのか、もしくは他の方へ仕事を引き継ぐことができるのか、確認は必須です。

もし、その方が辞めたら会社が立ち行かなくなってしまっては困ります。しかし、万が一、退職されたとしても、大体の場合、他の社員でカバーできたり、アウトソーシングできたりして、新しい体制になることが多いようです。

取引先をすべて維持するのは無理?

次にM&Aの影響を受けるのは、取引先です。基本的には、M&Aで経営者が変わっても取引先との関係性が大きく変わることはあまりありませんが、一部に問題が生じる場合もあります。

たとえば、「前社長時代は我慢して付き合っていた取引条件について、この機会に見直してほしい」といった要望が出るケースがあるのです。

なかには、「前社長への義理で赤字でも付き合っていたが、社長が変わるなら取引はやめたい」と言われるパターンもあるようです。

こうした要望にすべて応えるとキリがありませんので、「取引先が100社いたとしてすべて継続するのは無理」というくらいに割り切ったほうがよいかもしれません。

経営変革はいつ進めるべきか

M&Aで新社長が就任した直後は、「必ず改革してこの会社を成長させてやる!」と強い意志を抱いていることと思います。

ただし、焦って過激な改革を進めようとするのは非常に危険です。M&A後の経営改善の進め方のポイントを説明しましょう。

社員は様子見をしていることと心得る

M&Aされた側の会社の従業員にとって、極端にいえば、新社長は自分たちの会社に入ってきた「異物」です。

今後どのような経営をしていくのか、慎重に新社長を観察しています。

従業員の本音としては、「社長が変わっただけで、自分たちの現状は維持したい」と、大きな改革を望まないものです。

したがって、就任したばかりの新社長が焦って改革を推し進めようとすると、従業員との衝突が相次いだり離職が多発したりする恐れがあります。

衝突を覚悟して強引に進めるのもひとつの選択肢ですが、犠牲が出るとリスクも大きくなりますから、慎重にことを進めるほうがよいでしょう。

アイドリングタイムを設けよう

とはいえ、新社長がいつまでも様子見を続けていては、M&Aを行なった意味がありません。

そこで、譲渡完了後の3〜6ヶ月くらいは「アイドリングタイム」として、新社長が会社や従業員のことを理解して今後の打ち手を考える作業に徹する時期とすることをおすすめします。この期間で、徐々に新社長のやり方の浸透を図っていくのです。

M&Aの実施を決断したのは、ただ個人的なお金儲けだけの理由ではないはずです。

「買収によって会社を長期的に発展させる」という当初の目的に繰り返し立ち返り、長期的かつ計画的な視野で、経営の引き継ぎに取り組んでいきましょう。

また、社員には一緒になって、将来はこんなことをしたい、こんな会社を目指そうと夢を語り、同じベクトルを目指せるといいですね。

まとめ

M&Aは、成約した案件はシナジー効果で親会社とともに成長する場合もあれば、シナジーどころか、売上が減少してしまう場合もあります。

M&Aの交渉を成立させるだけでも大変ですが、承継後の引き継ぎもそれほどまでに大変なことなのです。

成功させるポイントとしては、承継した経営者が自ら乗り込み、陣頭指揮することです。
M&Aを数多く実践した日本電産の永守会長は、買収した会社は例外なく、自らがその会社へ行き、現場を見て、指揮したそうです。

そして、M&Aの交渉中から、引き継ぎ後の経営について成長パターン、現状維持パターン、減少パターンの3つを想定して、それぞれの打ち手を用意しておくことをお勧めします。

売り手企業から渡される資料だけでは、どうしても通りいっぺんの情報しか得られないので、買収企業の内部を知り尽くす気持ちで、社長自ら現場を歩くことがM&Aを成功させる近道のようです。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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