ローカルM&Aマガジン

M&Aにおけるシナジー効果とは? ――種類や分析手法を徹底解説

投稿日:2025年6月9日

[著]:小川 潤也

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最終更新日:2025.6.9

M&Aによって他社を買収する大きな目的のひとつが、「シナジー効果」を得ることです。

それでは、シナジー効果とは具体的にどのようなものなのでしょうか?

本記事では、シナジー効果の種類や分析方法を徹底解説します。

M&Aにおけるシナジー効果とは?

M&Aのシナジー効果とは、2社が統合することによって単独では得られなかったプラスαの効果や価値を生み出すことです。簡単に言うと、「1+1が2以上になる」ということですね。

ノウハウや技術が共有されることによって、新しい商品が生まれたり、新しい市場を創造したりといったシナジー効果が期待できます。

シナジー効果の対義語に「アナジー効果」があります。これは、「相互のマイナス効果」を意味します。

つまり、2社が単独で事業を展開していたときよりも悪い状態になること。「1+1が2未満になる」ような状況です。

たとえば、統合によって顧客が離れたり、取引先が失われたりといったことが起こるのがアナジー効果です。

シナジー効果の種類は?

販売シナジー

販売シナジーとは、生産設備や研究開発、流通経路、販売組織、倉庫などを共有することによって、単独では得られない相乗効果が生まれることを指します。

「一緒にやることで売り上げがさらに伸びる」という効果と考えればわかりやすいでしょう。

・クロスセリング

顧客が自社の商品やサービスを購入しようとしているときに、関連商品をおすすめして客単価を上げるのがクロスセリングです。たとえば、飲食店で食事の注文を受けたときに飲み物もすすめたり、プリンターを売るときにインクも一緒に販売したりといったやり方です。

・販売チャネルの拡大
たとえば、大手メーカーが、販売チャネルを持つ小売業を買収して、自社製品をより広く展開することで売り上げアップを目指すやり方です。

・ブランド効果
単独でブランドイメージを構築するには時間がかかりますが、共同する企業のブランド力を活用することで、短期間での新たな事業の展開がスムーズになります。

生産シナジー

生産シナジーとは、工場や機械、設備、情報などの生産資源を共同利用することで生まれる相乗効果のことです。たとえば、生産設備を共同利用して仕入れの量が増えれば、サプライヤーに対して価格交渉をしやすくなります。

また、物流業務を統合することで、物流コストを大幅に削減することもできます。

投資シナジー

投資シナジーとは、研究開発やノウハウなどの共有によって生まれる効果のことです。

・共同研究開発による技術革新

近年は「共創」という言葉が盛んに叫ばれるようになりました。2つの企業が共同研究開発することによって、1社でやるよりも技術革新のスピードが速まります。

・資源やノウハウの共有による投資効果の最大化

資金や時間をかけて蓄積した技術やノウハウを共有することで、より大きな投資効果が期待できます。

経営シナジー

経営シナジーは、経営者や管理者のノウハウを共有することで得られる相乗効果のことです。

・経営資源の統合による戦略策定の強化
2社の経営資源を統合することによって、より優れた戦略を策定できるようになります。

・経営ノウハウ共有による組織力の向上
2社のノウハウを共有すれば、組織力も向上します。

M&Aでシナジー効果を分析するフレームワーク

バリューチェーン分析によるシナジーの特定

バリューチェーンとは、企業が価値を生み出す一連の活動のことです。仕入れから製造、出荷物流、販売・マーケティング、アフターサービスまでのバリューチェーンに沿って、売り上げやコストのシナジー効果を分析します。

仕入れなら、購買の共同化によるコストの削減や価格交渉力の強化が実現できているのか?

物流なら、共同配送によるコストカットや物流網の最適化がどれくらい達成できるか?

こうしたことを分析してシナジー効果を特定します。

アンゾフの成長マトリクスを用いた戦略策定

戦略経営の父と呼ばれる経営学者イゴール・アンゾフが提唱したのが「アンゾフの成長マトリクス」です。

※経済産業省発表資料をもとに作成
https://mirasapo-plus.go.jp/hint/15043/

縦軸は「既存市場を狙うか、それとも新市場を狙うか」、横軸は「既存製品で攻めるか、それとも新製品で攻めるか」を表します。この組み合わせて4つの成長戦略パターンが生まれます。

・市場浸透戦略
シェアを高めるために同一市場内の同業者を買収する戦略です。

・新市場開拓戦略
エリアや顧客層などが自社とは異なる市場の同業者を買収する戦略です。

・新製品開発戦略
異なる製品群を扱っていたり、自社にはない技術を持つ企業を買収する戦略です。

・多角化戦略
新製品開発や新市場開拓、サプライチェーンの拡大などによって多角化する戦略です。

シナジー効果を最大化するためのポイント!

M&A戦略の明確化と目標設定

他社を買収すればすべての経営課題が瞬時に解決するわけではありません。M&Aによって、どのようなシナジー効果を発揮させるのか? 目標を明確化せずして、M&Aの成功はおぼつきません。

まずはM&A戦略を明確にして、目標を設定しましょう。

組織文化や価値観の統合

M&Aによって2つの組織が統合する際、多かれ少なかれ文化や社員の価値観の違いによるあつれきが生じます。この問題がM&Aの成否を左右することすらあるのです。ハレーションを起こさないように、両社の文化に配慮しながら統合していくことが重要です。

PMI(Post Merger Integration)の重要性

PMI(Post Merger lntegration)とは、買収後の経営統合プロセスのことです。M&Aを行う際に最も重要で時間のかかるのがこのPMIです。

PMIには、ハードとソフトの2つの面があります。ハード面は、人事システムや経理システムの統合です。ソフト面は、企業文化や社員同士の融合です。先ほど触れたように、ソフト面の統合はハード面の統合よりも難しいのが現実です。

M&Aに際しては、想定したシナジー効果を発揮させるために、ハード・ソフトの両面から2社を統合していくプロセスを最適化することが極めて重要なのです。

まとめ

M&Aのシナジー効果によって、1+1が2どころか3にも4にもなりえます。たとえば、自社で新しい製品や市場をつくり出さなくても、他社を買収することでこうしたものを手に入れて成長を加速させる可能性が高まります。

M&Aの成否は、実現するシナジー効果次第です。M&Aにあたっては、フレームワークを活用してシナジーを分析して、相手企業を選定しなければなりません。買収後のプロセス構築も欠かせません。

こうした難題をクリアしていくためには、M&Aに精通した専門家に相談しながら、M&Aの目的や戦略立案を明確化した上でプロジェクトを進めるといいでしょう。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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