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そもそも「中小企業M&A」の定義とは?
M&Aとは、株式譲渡などによって経営権や事業を第三者に移転させること。事業継承はもちろん、経営資源の最適化で競争力を高めたり、異業種・別分野に対する新規市場への進出といった成長戦略を実行するための手法です。
中小企業が、第三者企業に対して行う合併や買収のことを「中小企業M&A」と呼びます。
特に、後継者不足や経営資源の不足を解消する目的で近年は中小企業M&Aが増加しており、事業継承の重要な手段となっています。
中小企業M&Aの現状と動向!
近年、中小企業M&Aが活性化している傾向にあります。それを証明するように、市場規模や件数が年々増加しており、M&Aは中小企業における経営戦略の有効な手段のひとつとして認識されているのが現状です。
●市場規模と件数の推移を見ると……
独立行政法人中小企業基盤整備機構によれば、中小企業のM&Aマッチング支援を行う「事業継承・引継ぎ支援センター」が関与したM&Aの成約件数が設立依頼増加の一途を辿り、2023年には2000件を突破し、10年で10倍近くになっています。
一方、取引額は10〜20兆円の幅で横ばいとなっており、2023年では300万円以下の取引が全体の1/3を占めるなど、1件あたりの取引規模が小型化している傾向にあります。
●増加の背景は?
中小企業M&Aを後押ししている要因としては、国民の5人に1人が75歳以上の後期高齢者となる、いわゆる2025年問題の影響が大きいでしょう。つまり、経営者の高齢化とそれに伴う後継者の不足です。
2025年までに70歳を超える中小企業経営者が約245万となり、そのうち半数の企業で後継者が決まっていないようで、特に事業継承は中小企業にとって喫緊の課題となっています。
現状を放置すると、約650万人の雇用と約22兆円のGDPが消失する可能性があるので、政府としても公的機関によるM&A支援の強化や税制上の優遇措置などを講じており、こういった政策支援を活用しようするためにM&A件数が増加していると考えられます。
参照:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hikitugigl/2019/191107hikitugigl03_1.pdf
中小企業M&Aの目的!
これまで、「事業継承」が話題の中心になってきましたが、MA&の目的はさまざまです。
便宜上、「中小企業」とひとくくりでまとめていますが、法律上では、製造業・建設業・運輸業その他の企業は「資本金・出資金が3億円以下で常勤従業員数が300人以下」、小売業なら「5千万円以下で50人以下」など、業種によっても実情が異なります。
また、売り手なのか買い手という立場によっても狙いや意図は変化します。大企業に比べると中小企業のM&Aは成立しにくいこともありますので、企業の現状やゴールを明確にする必要があるでしょう。
●譲渡企業側の目的は?
売り手側(譲渡企業)がM&Aを行うメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
・事業の存続
前述のように、中小企業における後継者不足が深刻化しています。多様化や社会情勢などにより、肉親間での事業継承が難しくなっている現在、第三者に事業を引き継ぐ手段としてM&Aが注目されています。
事業を途絶えせることなく、従業員の雇用も確保でき、経営者は譲渡による利益を得られるなど、多くのメリットがあります。
・資金調達
資金を調達する手段としてM&Aを活用するケースもあります。
会社をまるごと売り渡すのではなく、事業の一部門だけを譲渡することも可能です。その場合、譲渡することで得られる利益をもとに、既存事業の強化を行ったり、新規事業を立ち上げることができます。
あるいは、譲渡によって不採算事業を切り離すことで業績の改善や現金化による負債の返済など、事業の安定につなげる手段にもなり得るでしょう。
●譲受企業側の目的は?
買い手側にとってM&Aは、主に「企業の発展」を目指す際に行うものです。新たな経営資源を譲り受け、それを最大限に活用しながら企業価値を高めます。
・事業の強化・拡大
譲渡企業の事業を獲得することで単純にその売上などの利益が増えることはもちろん、同じ分野の事業であれば新たなノウハウや技術を自社のものにできますし、取引先や販売経路、新規顧客などを開拓できます。
別分野の事業継承であれば、新規参入にかかる経費や時間、チャレンジに対するリスクをケアすることができるので、迅速かつ安定した新規事業への取り組みを行えるでしょう。
・人材確保
事業継承によって見込めるメリットのなかでも、小さくない要因としてあるのが人材面。事業とともに従業員も引き継ぐことができるので、新卒採用や新人教育などの手間をかげずに即戦力をまとめて確保できるのは非常に魅力的です。
慢性的に人材が不足するような業種では特に効果を発揮するはずです。実際、建設業や物流・運送業では人材確保を目的にM&Aを実施する企業が増えてきているようです。
・シナジー効果
事業継承によって相乗効果を生み出せる可能性も高まります。たとえば、設備の共有や統合によって生産性や稼働率を向上させ売上に貢献したり、売り手と買い手、お互いの技術や研究成果を合わせることで新製品を開発したり、新たな技術を生み出すといったことが考えられます。
経営について両者のノウハウや経験を活かすことでより安定性や効率化につながるでしょう。ほかにも他業種の場合は固定観念、既成の常識にとらわれない自由な発想で事業を展開できる、それぞれの分野の特徴を組み合わせて新たなサービスを創出するといったことを期待できます。
中小企業M&Aで用いられる手法・スキームまとめ!
一言で「中小企業M&A」といっても、実際に行う場合にはさまざまな方法があります。ここではその一般的なスキームについて紹介していきましょう。
●主な手法の紹介
・株式譲渡
売り手企業の株式を譲渡し、対価のかわりに買い手側が経営権を取得する方法です。中小企業のM&Aではよく採用されるやり方ですが、この株式譲渡の方法にも3つのパターンがあります。
①相対取引
株の保有者から直接株式を買い取る方法です。売り手企業が上場していない場合はこの相対取引でしか株式を買い取れません。
②市場買付
上場している売り手企業の株式をマーケットから買い入れるやり方になります。ただ、市場のなかでの株式取得になるので、株価が高騰する恐れもあります。
③公開買い付け(TOB)
事前に期間や価格、取得株数を公開して、株主から株式を買い取る方法です。株価高騰のリスクを回避するやり方ですが、市場より高い値段にしないと株主が手放さないので、その加減が難しいものになります。
株式譲渡は、比較的短い期間で実行でき、資産や契約などの手続きを包括的に進められるメリットがあります。一方、負債といった企業の問題点も引き継ぐ、譲渡のために多額の現金を用意しなくてはならないといったデメリットも存在します。
・事業譲渡
売り手企業の事業をすべて、あるいは一部継承するやり方になります。会社の経営権は移転せず、ノウハウや技術、人材や資産、取引先や顧客といった事業に関するものが譲渡の対象です。
売り手企業は不採算部門の切り離しや広げすぎた事業を整理し、事業の立て直しなどを考えることができます。買い手側も自社にメリットがある事業だけを選択でき、負債引き継ぎのリスクもない、柔軟性の高い方法といえるでしょう。
その分、交渉や手続きに時間と手間がかかります。また、売り手側では税制上の優遇措置がなかったり、協業忌避義務を負う場合があります。
・会社分割
売り手側の特定の事業を一手に引き継ぐ方法です。事業譲渡のように切り分けはできず、契約や雇用などが包括的に継承されるものになっています。
会社分割には、既存の会社が引き継ぐ「吸収分割」と、新たに会社を設立して継承させる「新設分割」の2種類のやり方があります。
買い手の視点でいえば、自社株式の交付で対価を支払うことが可能なので、株式譲渡より資金がいりません。また、事業譲渡よりは手続きが簡易であることもメリットになります。
中小企業M&Aの手続きと流れは?
ここまで中小企業M&Aの目的やその効果など、外側の要因について解説してきましたが、ここでは実際にどういった手続きが必要になってくるのか、そのプロセスを順に追っていきます。売り手と買い手で内容が多少異なりますので、両者の流れを確認していきます。
●譲渡企業側の流れ!
売り手側から見た中小企業M&Aのおおまかな流れは以下のようになっています。
・事前準備
自社の状況(経営状態・資産や負債・強みや独自性など)を鑑みながら、課題の解決や会社をどうしたいのかといった経営戦略や意思確認を行い、「本当にM&Aをする必要があるのか」「M&Aが最適な方法なのか」といった根本的なことを検討する必要があります。
この部分をおろそかにして、勢いや流れでM&Aを行うと失敗や後悔につながりますので、しっかり確認しましょう。専門家と相談しながら、目的やメリットについて充分協議することでスムーズに意思決定できる可能性が高まります。
・候補先選定
M&Aを行う意思決定をしたあとは、譲渡先となる買い手企業探しに移ります。この段階では、目的にあわせた選考基準やコネクション、経験や知識などを持つ専門業者にM&Aの仲介を依頼することが一般的です。
専門家としては、銀行などの金融機関や会計士・弁護士といった士業、ファイナンシャルプランナーなどがいますが、包括的に支援してくれるM&A仲介会社を頼るケースが多いです。
専門家とは、業務の範囲や直接交渉の禁止などを盛り込んだアドバザリー契約や売り手企業の機密を守るための秘密保持義務などを取り交わしてM&Aを進めてください。
契約した専門家の助言や話し合いの元、買い手候補の選定を行います。まずは企業が特定されない範囲での情報が記載されている「ノンネームシート」により、ある程度の目安をつけ、候補先を数社に絞り込みます。
・交渉・契約締結
買い手の候補先選定が終わると、いよいよ直接的な交渉が始まります。ノンネームシートより詳細な企業の情報資料となる「企業概要書」を開示し、M&Aを進めるかどうかを判断してもらいます。
具体的に譲渡を検討する段階になると、両者の経営者が直接顔を合わせるトップ会談が行われ、交渉も最終局面に入ります。
M&Aについてお互いに納得できれば、「基本合意書」を締結し、暫定的な合意内容を決めたうえで、買い手企業によるデューデリジェンスを経て最終契約書の締結となります。
基本合意書は、譲渡の条件や価格、譲渡に関するスケジュールなどが定められますが、この時点では法的拘束力が発生しない状態なので注意してください。最終契約の締結をもってM&Aの合意に至るというイメージです。
・クロージング
最終契約書によって決定された内容に基づいてM&Aが実行されます。代金の支払いや株の引き渡し、必要書類の提出、登記や名義変更などによって経営権が買い手企業に移ります。
クロージングを行うことで手続きは完了し、M&Aの成約となります。
●譲受企業側の流れ!
一方、買い手側は売り手より準備や手続きが少ないです。とはいえ、その分、ひとつひとつが重要になってきますので、M&Aの目的や戦略の確認など、ベースの部分はしっかり固めましょう。
・ターゲット企業の選定
まず買い手企業はM&Aの相手となる企業を探すことからはじまります。条件や目的にあった企業の調査やピックアップには広いネットワークや多岐にわたるコネクションが必要となりますので、M&A仲介業者などの専門家を頼るほうが良いでしょう。
ノンネームシートなどによってターゲット企業の情報を集め、条件を照らし合わせながら、選定を行っていきます。以降のプロセスは、譲渡企業側と同じような流れになります。
・デューデリジェンス
トップ会談などを経て基本合意に達した場合は、売り手企業に対してデューデリジェンスを行います。これは売り手企業の実態を調査・分析するもので、書面では把握できない会社の状況を詳細に把握するための手続きになります。
デューデリジェンスには、税務・法務・人事・環境・ITなど、さまざまな種類の調査分析項目がありますが、特に重要なのは財務関連で、財務諸表やキャッシュ・フローなどの分析を行いながら、帳簿外に負債がないかなどの確認をします。
こういった監査では、第三者の専門家による調査が必要となり、デューデリジェンスの費用はすべて譲受企業の負担となりますが、ここでの評価が買い取り価格の基準となったり、契約のリスクを抑えることにつながったりする、不可欠なプロセスになりますので、しっかりと行う必要があります。
・条件交渉
デューデリジェンスの調査結果による内容を反映させながら、最終的な条件の交渉に入ります。取引価格の決定、表明保証、補償条項、解除条件などについて話し合います。この3つについて説明しておきましょう。
①表明保証
取引に関する内容が真実であることを表明し、それに間違いがないことを保証することです。買い手側なら買収代金がちゃんと準備されている、会社としてM&Aの了承が得られているなどになります。売り手企業の場合は財務状況が正確である、資産の保有権が完全であるといった内容になります。
②補償条項
契約違反や表明保証違反があった場合は、損害賠償や補填を求めることを確認した規定です。補償の範囲や期間、金額の上限などが内容に盛り込まれます。
③解約条件
M&A成立後に特定の条件が満たされない場合や契約違反が発生した際には契約を解除できる申し入れになります。
・契約締結・クロージング
すべての交渉で合意に発すれば最終契約の締結となり、契約に基づいたクロージングを行います。譲渡企業と同じような手続きになりますが、買い手側ではPMI準備が重要になります。
これは、PMIとは買収後の経営統合プロセスのことで、新たなマネジメント体制の構築や人事・組織の再編など、経営や業務に関する統合はもちろん、企業文化をすり合わせたり、従業員同士意識統一を目指すといった、実際の業務に関する取り組みです。
売り手企業と買い手企業での齟齬や摩擦を解消し、協力体制を築くことでM&Aによるシナジー効果を発揮させ、業績や企業価値を向上させる必要があります。
中小企業M&Aを成功させるためのポイント!
●事前準備が重要!
「中小企業M&Aの手続きや流れ」のなかでも言及しましたが、事前準備が非常に大切いなります。理由や動機はもちろんですが、根回しや社内確認が必要な場合もあります。
例えば中小企業では、株主名簿がなかったり、株主の所在がはっきりしないなど、株式譲渡に際して問題が露見するケースも多く見受けられます。株主に対して、事前の所在や意思確認などの対策が必要となることも考えられます。
また、M&Aによる影響を事前に考慮しながら、利害関係を把握・調整を検討しておくと、スムーズなM&Aの実施につながります。準備の段階で不安やリスクのケアをしましょう。
●専門家を活用しよう
M&Aでは専門家の介入が必要不可欠です。高度な専門知識や煩雑な手続きなど、ノウハウや経験がないとスムーズに行うことは難しいです。小規模な会社だからと経営者による個人交渉を行ってもうまくいかないことが少なくありません。
情報化社会の真っ只中、インターネットからM&Aに関する情報が簡単に見つかりますが、それだけでM&Aを実施できる可能性は極めて低いと言わざるを得ません。専門家を活用しないとトラブルに発展し、より困難な状況に陥ることも考えられます。
●コミュニケーションをしっかり確保
M&Aにおいては、経営者同士で満足のいく契約が結べても、実際に働く従業員にとっては必ずしもそうでない場合があります。そのうえ、望まない企業統合を一方的に告知されれば不信感を抱き、協力してもらえないでしょう。
モチベーションの低下による業績悪化や人材の流出などを招く危険がありますので、従業員の告知タイミングや伝え方は非常に重要な要素になります。
M&Aの意図や目的、会社の将来についてなどを丁寧に説明し、その存在価値を伝えながら雇用の継続を促すなど、誠心誠意の対応が必要です。
●適切なバリュエーションを
バリューエーションとは「企業価値の評価」のことです。M&Aでいえば、まずは訂正な売却価格について考慮しなければなりません。あまりに高額な価格に設定すると交渉の席についてもらうどころか、候補先として選ばれません。
同業他者の取引価格などの市場価値を参考にしたり、将来の収益予測から企業価値を算出したり、純資産を念頭にして評価を下すなど、適切に自社の価値を見定めることが重要になります。
一方、買い手企業としては、買い取り価格の範囲を設定しておくと良いでしょう。上限と下限を決め、その価格帯を判断材料にすれば、適正に効率よく対象企業を選定でき、無駄なリスクを回避できる可能性が高まります。
中小企業M&Aの注意点とリスク
M&Aにおいて、専門家にとっても対応できない部分があり、企業自身で気をつけなければならないこともあります。
ここで、代表的なリスクと注意点を見てみましょう。
・情報漏洩の防止
M&Aが失敗するリスクが高いものとして情報漏洩があります。M&Aが一般的になってきたとはいえ、まだまだ「身売り」や「業績悪化によって立ち行かなくなった」など、ネガティブなイメージを持たれるケースもあるため、情報が漏洩するとさまざまな問題が発生するリスクが増えます。
関連情報の取り扱いはもちろん、普段の言動にも細心の注意を払う必要があります。
・相手企業への対応
M&Aがうまくいかない要因として、企業間の情報共有や意思疎通の不備が考えられます。信用や信頼を確保するうえでも、正確に情報を伝えたり、極端な交渉術を持ち込まないなど、誠意ある対応をしなければなりません。
特に売り手企業は、不利な情報でも事前にきちんと開示する、根拠のある譲渡価格を算出するなどの対応を行うことでスムーズなM&Aの実施につながります。
・文化・風土の統合
M&A実施後にも注意が必要です。譲渡企業と譲渡企業の間で経営統合が行われ、実際の業務に反映されます。システムや人事など組織運営面も重要ですが、結局、人が行うことですから、文化や風土といった環境面での統合、整備が大切になってきます。
まとめ
後継者不足による事業継承を主な理由に、中小企業によるM&Aが増加しています。これからもM&Aの検討を考える中小企業の経営者が増えていくと思いますが、手法や手続きなどの概要、成功するポイントなどを本記事を参考に、重要な項目を把握してM&Aを進めてください。
また、中小企業M&Aには専門家の関与が不可欠です。豊富な知識や経験を備えたM&A仲介業者である絆コーポレーションにぜひご相談ください。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役






