ローカルM&Aマガジン

スモールM&Aとは?――言葉の意味からメリットやデメリットまで徹底解説!

投稿日:2025年1月7日

[著]:小川 潤也

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事業承継が困難な企業が増加するなかで、「スモールM&A」という言葉が広まっています。

本記事では、スモールM&Aの特徴や流れを解説しましょう。

スモールM&Aとは?

スモールM&Aとは、簡単にいえば「小規模な事業・会社による買収・売却」のこと。実は、法律上で明確に規定された用語ではありません。

そのため企業によって定義は異なり、「事業譲渡の対価が1,000万円以下」と定義する場合もあれば、「売り手や買い手の年間売上が1億円以下、または譲渡価格が1億円以下のM&A」と定義する場合もあります。

いずれにせよ、従業員の数が数人から30人程度の個人経営の店舗などの場合は、小規模事業の承継には有効な方法となりえるでしょう。

金額規模が比較的小さいため、企業ではなく個人が譲渡したり譲受したりする場合もあります。

実際、会社員が店舗や事業を買収してオーナーになるケースも少しずつ増えています。起業志向が高まるにつれて、会社をゼロから起業するよりも手間がかからず、資金もさほどかからないというのは、起業したいビジネスパーソンにとって大きなメリットとなります。

なぜ、スモールM&Aが注目されているのか?

これまでは、既存のM&A仲介会社やM&Aコンサルタントは、小規模のM&A案件を扱いたがらない傾向がありました。

しかし、後継者不在問題が深刻になるにつれ、零細企業や中小企業のM&Aが増加するなかで、小規模なM&Aに関しても取り扱う仲介会社が増えています。M&A仲介会社のほか、会計事務所や税理士事務所が扱うケースも見られます。

同時に、M&Aの相手先企業とオンラインでマッチングできるサービスも生まれたことも、スモールM&Aが増えてきた背景としてあります。

スモールM&Aと普通のM&Aの違い

ここで、スモールM&Aと一般的なM&Aの違いを紹介しましょう。

一般的なM&Aの特徴

従来のM&Aは、大企業や上場企業による戦略的な買収・譲渡がほとんどでした。この場合、売上高50億円以上の大企業・上場企業およびその子会社が行ない、大きな金額が動くM&Aで、アドバイザーはフィナンシャルアドバイザリー(FA)業務契約を行ない、M&Aが進められます。

ただし近年では、大手でなくとも中小企業のM&Aも増えています。大手企業ほど大きな金額は動きませんが、M&Aアドバイザリー業務契約として仲介業務を行うことが一般的です。

スモールM&Aの特徴

中小・零細企業や小規模事業者、個人事業者や会社員によるスモールM&Aの場合、コンサルティング会社やコンサルタント、税理士事務所がアドバイザーとなることが多いのですが、ネットマッチングサービスを利用する場合は、そうしたアドバイザーがつかないこともあります。

スモールM&Aのアドバイザリー業務契約は、仲介業務のほか多様な業務を行なうことになります。

また、スモールM&Aは買収金額がそれほど高くないため、投資に対する意思決定をスピーディーに下すことができ、成約までの期間がさほどかからないことも特徴です。

スモールM&Aの流れは?


スモールM&Aの手続きや流れは、一般的なM&Aと基本的に同じです。ここでは買い手視点で、どのようなプロセスとなるのかをざっくりと見てみましょう。

①目的の明確化
M&Aは事業規模の拡大や多角化といった目的を達成する手段であり、この目的を明確化することが不可欠です。まずはスモールM&Aを行う目的を明確に整理しましょう。

自社の経営戦略や各部門の事業戦略に基づき、それを達成するうえで本当にM&Aが役に立つかを検討する必要があります。

そのうえで、どんな企業を買収したいのか、スケジュールや希望価格、M&A後の事業展開なども整理しておきましょう。

そしてサポートを依頼するM&Aアドバイザー、またはプラットフォームを選びます。インターネットのM&Aマッチングサイトでは、アドバイザーがつかないことが多いのですが、これはあまりおすすめできません。

M&Aでは、会計や税務などの専門知識を要する業務が多いため、経営者だけで実施するのとトラブルになるリスクがあります。M&Aの業務に精通しているM&Aアドバイザーに依頼したほうが安全です。

M&Aアドバイザーを選ぶときには、報酬体系や業務の範囲を確認したうえで選ぶようにしましょう。

②交渉相手の選定
M&Aアドバイザーの協力を得ながら、交渉相手を選定します。仲介会社などのアドバイザーが選定しますが、買い手企業は売り手企業の情報をまとめた「ノンネームシート」を確認して判断します。

ノンネームシートには、事業内容や売上高、従業員数、所在地などの情報が書かれていますが、企業名が特定されない範囲の情報のみで、この時点で具体的な企業が特定されないようになっています。

ノンネームシートを見て、その売り手候補に興味を抱いたら、「秘密保持契約」を結んで売り手企業の詳細な情報を確認することができます。

③交渉の実施
交渉相手の選定が終わったら、トップ面談を行ない、譲渡側・譲受側双方の経営者が顔を合わせて話し合います。
あくまで「経営者同士の顔合わせ」であるため、一般的には譲渡金額などの交渉は行ないません。

トップ面談後に、売買金額や従業員の処遇、M&Aの手法(スキーム)やスケジュールなどを決めていきます。

条件面について合意できたら、「基本合意書」を締結します。

④デューデリジェンスの実施
基本合意書を締結後はデューデリジェンスを行ない、買い手企業が売り手企業を詳細に分析します。

スモールM&Aの場合、調査を行う範囲は買収のリスクがどこにあるのかに焦点を当てて、デューデリジェンスを実施した方が効率的です。財務面や法務面、不動産、などと調査しようと思えばきりがありません。

その対象分野をそれぞれ、弁護士や公認会計士などの専門家に依頼するのですが、その費用が安くはありません。財務、法務でそれぞれ安くて50万円、通常で100万から200万程度が相場です。費用とリスクを見極めた上でデューデリジェンスを実施することをお勧めします。

⑤契約締結とクロージング
デューデリジェンスの結果を考慮して最終契約に向けて交渉を行ない、すべての交渉を終えたらM&Aの契約を正式に締結します。

そのうえで、契約書の内容にしたがって経営権や各種の権利を移転する「クロージング」を行ないます。たとえば株式譲渡の場合、売り手から株式の譲渡、買い手から対価の支払いが行なわれます。

スモールM&Aの注意点

ここで、スモールM&Aの注意点を見てみましょう。

①情報が不足しやすい
一般的なM&Aでは、ある程度規模が大きい企業が売り手となるため、規則に沿って作られた財務諸表や経営計画書があり、情報が比較的豊富です。

しかしスモールM&Aの場合、個人事業主や零細中小企業、特定の事業単体など、比較的小規模な売り手が対象となるため、就業規則、雇用契約書、取引先との契約書、経営計画書などが作られていなかったりするケースは少なくありません。

それで、今まで商売されてきたので、そのことに関してどうこう言っても始まりません。
どのように引き継いでいくのかを社長と面談を通じて、譲受け後のアウトラインを描いていくのが重要です。

②仲介手数料の負担が大きい
多くの仲介会社では、成功報酬の算定に「レーマン方式」が採用されますが、譲渡対価が少額の場合、最低手数料が適用されるケースが多いです。

つまり、売買金額が小さいスモールM&Aでは必然的に負担が大きくなることにも注意が必要です。

まとめ

本記事ではスモールM&Aの特徴をご紹介しましたが、売り手側も買い手側も、スモールM&Aのメリットやデメリットをしっかり理解して臨むことが、成功につながります。

さらに、M&Aに必要な一連の手順は、事業規模の大小にかかわりませんから、一つひとつの手続きを慎重かつていねいに進めることが重要です。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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