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家族経営の中小・零細企業のM&Aを成功させるポイント!

[著]:小川 潤也

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日本国内の中小企業のM&A件数は増加傾向にありますが、そのうち大多数を占めるのが同族経営の企業です。

今回の記事では、家族経営の中小・零細企業における事業承継で課題になりやすい点を解説したうえで、近年注目の承継手法であるM&Aを成功させるポイントを解説します。

日本の企業は、家族経営の中小・零細企業が大半!

2018年度の国税庁の会社標本調査によると、日本国内で活動する単体法人のうち、実に96%が同族企業。その数は256万1133社にのぼります

企業規模ごとの割合を資本金別に見てみると、資本金1億円未満の会社は約255万社ありますが、そのうち96.7%が同族経営。

資本金1億円超~5億円未満の会社は約2万8000社ですが、そのうち同族経営は84.3%

資本金5億円超の会社は約9000社で、同族経営は64.6%です。
(参考:中小企業庁事業環境部財務課「我が国の中小企業の実態」

こうした実情からも、家族経営の中小・零細企業が実に多いことがわかりますが、そうした企業にとって大きな懸念のひとつが、事業承継です。

規模の小さい家族経営企業の事業承継に係る問題は?

ここで、家族経営の中小企業が事業承継を行なうにあたって、どのような点が問題となるのかを具体的に見ていきましょう。

問題点①:後継者不在と育成不足

事業承継で苦戦する企業のほとんどは、後継者不在や育成不足に悩まされています。

後継者不足について、帝国データバンクが2021年に全国・全業種約26万6000社に行なった後継者動向調査によると、後継者が「いない」または「未定」とした企業が約16万社あり、全国の後継者不在率は61.5%にのぼりました。
(参考:全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)

後継者がいなければ、会社を存続させるには外部から人を呼ぶか、人を育てるしかありません。

ただし、一般的に後継者の育成には5~10年程度を要するといわれ、外部から人を呼ぶにせよ育てるにせよ、よほど計画的に承継の準備を進めないと円滑な事業承継は難しいといえます。

問題点②:不安定な経営状態や財務内容

事業承継は当然ながら、後継者がその会社の経営を引き継いでもよいと思わなければ実現しません。

そこで後継社長が決断する障壁となりうるのが、引き継ぐ会社の経営状態や財務内容です

単純に赤字経営が続いている会社であれば、経営の引き継ぎにあたって不安を感じさせますし、売上だけでなく、細かい財務内容も重要視されるポイントです。

金融機関からの借入が多ければ、負債も後継者に引き継がれるのも承継を避けられる要因となります。

規模の小さい家族経営企業のM&Aを成功させる3つのポイント

このような問題を抱える中小企業で注目されているのが、M&Aによる事業承継。後継者不在でも事業を引き継げますし、財務的に不安でも買い手さえつけば売却できるからです。

規模の小さい家族経営の中小企業がM&Aを成功させるためのポイントを、実例を交えて解説しましょう。

ポイント①:絶対に譲れない条件を明確にする

M&A成功のためには、売り手側と買い手側がそれぞれの事情をきちんと理解し合うことが重要です。

まず、売り手は会社を売却するにあたり、これだけは譲れないという絶対条件を明確にしておきましょう

たとえば、当社がかつてお手伝いした事例で、代表的なものは「売却した後も従業員は今まで通り雇用してほしい」、「できれば会社名はそのまま残して欲しい」、「役員からの借入金は返済してほしい」などです。そして、一番大事なのは「譲渡対価としていくら以上ほしいという」、お金の条件です。

このように、妥協できないポイントはどこなのか明確にして交渉にあたるのがスムーズでしょう。

ポイント②:身の丈に合った同規模程度の買い手企業を探す

地方の中小・零細企業は従業員の高齢化や金融機関からの借入はないが、代表者や役員がお金を貸していたり、不良資産があり、実質債務超過といった経営上の問題を抱えている場合もあり、一般的に大手企業への売却を想定してのM&Aではうまくいかない例も珍しくありません。

しかし、売り手側と近しい家族経営の中小企業が買い手になるケースであれば、事情の理解が早いというメリットがあります。

たとえば、過去のM&A事例を紹介すると、買い手企業は自動車整備工場を1店舗だけで経営している同族経営企業でしたが、安定した収益を上げていました。

ただ、将来性を鑑みて小規模でもシナジー効果のある、事業が欲しいと考えていました。そこで財務内容は悪いのですが、近隣エリアで既存顧客への自社サービスの提供などの相乗効果が狙えるとの判断で、売上は同程度のM&A案件に手を挙げたのです。

M&Aでは一般的に、買い手が売り手の10倍以上の売上規模であるべきという目安がありますが、中小・零細企業の場合は買い手と売り手の規模感が同様でも実現するケースは多いのです。

ポイント③:自宅兼事務所の扱い方を明確に

中小・零細企業では、自宅と事務所が一緒になっているケースが多いです。

特に当社のある新潟でいえば、家族経営の中小・零細企業のほとんどが自宅兼事務所になっていますが、地方都市ではこうしたケースはごく一般的です。

しかし、自宅兼事務所の会社を売却すれば、売り手側の経営者の住む自宅がなくなってしまいます。仮に売却後も売り手企業の経営者が住み続けるとしても、新オーナーに払う家賃をいくらにするかといった賃貸契約の設定で双方が納得するケースは少なく、揉めるもとにもなります。

自宅兼事務所の実例として、事務所にくわえて200坪の広い自宅がついていたケースがありました。売り手の経営者は自宅の不動産ごと売却することがM&Aの条件で、買い手としては自宅の不動産は必要なくて会社だけが欲しい。そんなすれ違いが生じており、交渉はとても難航しました。

最終的にこのケースでは買い手側が折れ、安価であればという条件で自宅件事務所の土地もまとめて買い取るということで合意しました。

売り手としては会社を売却することが最優先事項で、自宅部分の売値はある程度、妥協する基準金額を決めていたことが功を奏しました。

まとめ

M&Aには、100社あれば100通りのM&Aスキームが起こりえます。

特に家族経営の中小企業のM&Aは、一般的なパターンに当てはめるのはなかなか難しいものです。

そんな会社がM&Aを検討する場合、その地域ならではの事情に精通したM&A会社に相談してみるとよいでしょう。

地元のM&A会社は同族企業案件を数多く取り扱っている場合が多く、オーダーメイドの解決策を提案してくれるかもしれません。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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