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「中小企業M&A」と「大企業M&A」、実はここが違う!

[著]:小川 潤也

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かつては「M&A」といえば、大企業しかできない特別なものでしたが、状況は大きく変化して近年は中小企業のM&Aも活性化しています。

大企業と中小企業のM&Aは、「2つの企業が統合することで生じる相乗効果を狙う」という点は同じでありながら、そのアプローチには大きな違いがあるのです。

今回の記事では、大企業と中小企業のM&Aの目的から、それぞれのアドバイザーの役割の違いについて解説します。

大企業のM&Aと中小企業のM&Aは「似て非なるもの」!

大手企業のM&Aと中小企業のM&Aは、いずれも株式もしくは事業を取得し、相乗効果(=シナジー効果)を得ることを目的とします。

しかし、シナジー効果を得るための目的や手段は、まったく異なるのです。

違い・その1M&Aで配慮が必要な対象者が異なる!

大企業のM&Aは、株式価値の向上や収益拡大を目的としています。

とくに上場企業ともなれば、投資家へM&Aの意思決定理由などの説明責任を果たさなければなりませんから、買い手は「この企業を買う理由や譲渡価格の根拠」を、売り手は「なぜ、この価格で売ったのか」をしっかり説明できるだけの理論や根拠が必要で、非常に慎重に進められます。

中小企業のM&Aはといえば、買い手の「買う理由」は大手企業と同様ですが、売り手側の「売る理由」としては「後継者がいないので、第三者に引き継ぎたい」「経営者が売却によってキャッシュを得たい」といったように、経営者個人の事情が関係することが多くあります。しかし、当然のことですが、従業員や取引先以外の第三者に説明して、理解を得る必要はありません。

大手企業M&Aは、投資家など多くの人に理論的に説明し、理解を得る必要があるのに対し、中小企業M&Aは経営者の気持ちひとつに依るところが大きいのです。

違い・その2M&Aアドバイザーの立ち位置が異なる!

大手企業のM&Aの場合、買い手と売り手それぞれにファイナンシャル・アドバイザー(FA)がつきます。

FAは買い手側と売り手側それぞれの立場に立って、それぞれの利益最大化のために助言などを行ないます。

売り手のFAであれば「売り手の利益が最大化させるための理論」、買い手のFAであれば「譲受価格が合理的に説明するためのロジック」をもってディールを進めていくわけですが、それぞれのFAが自分のクライアントの利益になる条件で交渉を仕掛けることになり、自然と対立構造になります。

そんななかで、FAの大きな役割は、各企業が株主代表訴訟などのリスクを回避するためにこのディールがいかに合理的なものであるかを説明するためのロジックを作り交渉し、合意点を見出すこと。

具体的には、対象会社の将来的な収支予測、シナジー効果による、買い手の費用対効果の予測の作成、そこに売り手と買い手双方の論理をすり合わせして妥協点を見つけ、売買価額を決めていきますが、上場企業の株主への説明責任やコンプライアンスに耐えうるスキーム、価格を慎重に交渉していく必要があります。

そのようなリーガルリスクを最大限減らして、かつ経済合理性を追求して、交渉を進めるのが、大企業M&AのFAに課せられた使命なのです。

一方で中小企業M&Aのアドバイザーは、双方の間に立つ仲介会社が双方代理人としての立場で担当します。

「安く買いたい」と考える買い手と「高く売りたい」と考える売り手、それぞれの希望を最大化できるように中立的立場で仲介として、M&Aを進めていくのです。

M&A仲介は買い手、売り手双方の気持ちに寄り添ってくれる存在だといえるでしょう。

大企業M&AのFAと、中小企業M&Aのアドバイザーは、アプローチが異なる!

大企業M&AのFAの場合は、あらゆる観点から理論武装することが役割のため、提案の資料は100ページを超えることも珍しくありません。

売り手側と買い手側、それぞれの視点で企業価値や売る理由、買う理由、なぜ、その価格なのか、リスクはどこにあるのか、それらをきちんと論理的に説明し、かつ合意点を見出すことが、FAの独自性や腕の見せどころとなります。

中小企業M&Aのアドバイザーである仲介会社の場合、売り手と買い手双方を納得させることは変わりませんが、第三者への説明責任や理論武装の必要はありません。それよりも買い手、売り手のことをより理解し、数字上の話だけではなく、従業員と買い手のオーナーとの親和性、サービスやエリアのシナジーなど売り手のオーナーと買い手が納得できるか、絆をいかにつなぐか、それが大きな役割です。

それぞれのオーナーの重要視している事項を整理することが、中小企業M&Aを成立させるポイントとなります。また、論理的でない部分は人間性がより問われている気がします。

中小企業M&Aは経営者や企業の状態によってケースバイケースで、「こう進めれば正解」という「絶対解」はありません。

売り手と買い手の双方が最大限満足する「最適解」に至るためには、「ロジック」よりも、中立的な立場で双方の要望を受け止め、「取捨選択」し、お互いが納得する最適なディールを作り上げる力だと思います。

まとめ

以上のように、大企業と中小企業のM&Aは大きな違いがあります。

経済合理性とリスクの回避と説明責任が求められる大企業M&Aと異なり、中小企業M&Aは売り手と買い手双方の気持ちとお金を理解することが重要で、より人間らしい取引といえるかもしれません。

中小企業がM&Aを検討する場合には、今回解説したポイントを参考にしていただき、経営者の気持ちに寄り添って「最適解」を提案してくれるアドバイザーを探していただければと思います。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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