ローカルM&Aマガジン

再生型M&Aとは? 普通のM&Aとの大きな違いを解説

投稿日:2022年4月19日

[著]:小川 潤也

Pocket

「再生型M&A」という種類のM&Aをご存じでしょうか?

債務超過であったり赤字決算であったりなど、業績のよくない企業をM&Aする、難しい手法です。難しいというのはステークホルダーが複数存在し、それぞれから同意を得る必要があるからです。

通常のM&Aは、売り手と買い手が同意することでM&Aが成立します。しかし再生型M&Aは、そこに債権者(金融機関)がプラスされ、ディールの成否を左右する一番の存在となるのです。

コロナ禍で債務超過に陥った企業が続出する昨今、当社にも再生型M&Aの相談が多く舞い込んできています。

今回の記事では、再生型M&Aについて普通のM&Aとの違いを中心に解説しましょう。

再生型M&Aとはなにか?

まず、再生型M&Aについて基本的な内容を説明します。

業績不振の会社をM&Aする

再生型M&Aの対象となる会社は

1.債務超過になっている
2.経常利益が赤字
3.銀行借入の返済が滞っている 
4.なんとか、事業は回っている……

こういった悪い会社が、お金を出してくれる=再生支援をしてくれるスポンサーを探すのが再生型M&Aです。

その会社に独自の魅力があったり、社員を引き継いできちんとマネジメントすれば本来儲かるはずの会社であったり、特定の商圏で高いシェアを持っていたりすれば、業績不振であってもM&Aの買い手がつく可能性はあります。

通常のM&Aに比べると買い手探しが非常に難しいのが、再生型M&Aの特徴です。

関係者が増えるのが大きな特徴

一般的なM&Aでは、登場人物は買い手企業・売り手企業・M&A会社の3者になります。

しかし、再生型M&Aの多くではそこに「債権者」が加わります。

業績不良の会社は、借り入れがかさんでいるので、金融期間をはじめとする債権者との交渉がM&Aのプロセスに加わるのです。

さらに、金融機関との交渉に弁護士や、決算の数字を精査するために公認会計士もしくは税理士なども関わり、多数の関係者を調整しながらM&Aの交渉を進めることになります。

M&Aに向けた再生支援においては、結局のところ債務のリスケや減額を債権者に納得してもらわなければいけないので、債権者との交渉は困難を極めます。

再生型M&Aはとても難しい

続いて、意外に知られていない再生型M&Aの真実をお話ししましょう。

コストがかかることは覚悟しておかなければいけない

「再生型M&Aなら、業績が赤字でも売れると聞いたんだけど」といった軽い調子でご相談に来られる経営者がしばしば見られます。

しかし、ここまで述べたとおり、再生型M&Aは非常に困難な手法です。通常のM&Aに比べて手間もかかりますし、そのプロセスをアドバイザーとして支援できるM&A仲介会社やフィナンシャルアドバイザーも限られています。

金融機関など債権者との交渉は非常に慣れた弁護士が担いますし、その専門家を取りまとめ、当事者の意見を調整し、ディールを取りまとめるのが我々フィナンシャルアドバイザーの役割です。調整力と知識と経験、FA(フィナンシャルアドバイザー)としての力量が試されます。

それだけ、まとめるのが難しいのが、再生型M&A案件です。

当社の場合、通常のM&Aについては全額成功報酬でサポートしていますが、再生型M&Aでは着手金や月額報酬をお願いすることがあります。

再生支援のプロセスは非常に手間がかかり、交渉の途上では弁護士への依頼が必要になる場合もあるので、通常の料金体系では難しいのです。

そのようなお話をすると、「お金がかかるならいいや」と去っていかれる方もおられます。

もちろん正式に依頼いただければ、全身全霊をかけてM&A実行までサポートしますが、売り手側にもリスクが大きいため、軽い気持ちで再生型M&Aに取り組むことはおすすめしません。

欲しいものすべてを残すことはできない

さらに、再生型M&Aにおいては「なにを残すのか」を決め、ある程度の犠牲を払わなければいけません。

経営不振を招いた経営責任は免れません。「会社は残したいし自分の資産も残したい、社長も続けたい」というのは、まず不可能です。

つまり、残すと決めたもの以外は捨てる覚悟が必要となるのです。

再生型M&Aでは、債権の個人保証を外して経営者を退き、自己破産しなくて済む代わりに、個人資産はすべて債務の返済に差し出すというケースも少なくありません。普通のM&Aは、社長を引退しながら多額の現金を得られる魅力的なスキームですが、再生型M&Aの条件は非常にシビアになるものと理解しておきましょう。

厳しい言い方をすると、再生型M&AをしなければM&Aできない状態に会社を持っていったのは社長自身ですから、経営者としての責任が問われる部分が大きいともいえます。

まとめ

再生型M&Aについてあらためて強調したいのは、売り手企業にとって通常のM&Aとはまったく異なるということです。

手間も時間もコストもかかるので、軽い気持ちで取り組まないことをおすすめします。

再生型M&Aを試みるのであれば、絶対やり遂げる覚悟を持って、その道のプロに相談してみましょう。

Pocket

著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
最新M&A情報を届ける 登録無料のメールマガジン 売買案件 体験談 最新コラム