ローカルM&Aマガジン

零細企業のM&Aってアリ?――零細企業を売却する方法とポイントを徹底解説

投稿日:2024年12月23日

[著]:小川 潤也

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これまでたくさんの経営者の方から相談を受けてきましたが、「うちのような零細企業にM&Aができるのか」という内容は少なくありません。

本記事では、零細企業のM&Aの実情と、M&Aを成功させる方法を解説しましょう。

零細企業の後継者不足問題は深刻!

「後継者問題」が叫ばれていますが、事業を引き継ぐ後継者がいないことは企業にとって深刻な問題です。

とくに中小企業や零細企業の多くは、後継者不足だといわれています。

とくに零細企業であれば、大きな収益を上げている企業が少なく、事業承継を希望する後継者が出にくいという実情もあります。

たとえ現社長の子どもであっても事業を引き継ぎたくないと考えるケース、あるいは親側が「子どもに自社を引き継がせたくない」と、あえて自社に入れないケースも少なくありません。

そもそも「零細企業」とは?

実は、「大企業」や「零細企業」は法律の用語ではなく、「中小企業」だけが「中小企業基本法」の第二条で決められています。

具体的には、製造業、建設業、運輸業、そのほかの4種類は資本金3億円以下、従業員数300人以下の会社や個人が中小企業者と定義されています。ほか、従業員数が20人以下(卸、小売、サービス業は5人以下)の組織は「小規模企業者」とされています。

零細企業とされるのは、小規模企業者の中でもさらに小さい会社や個人といえるでしょう。

零細企業のM&Aは増えている!?

「自社のような零細企業をM&Aで売ることができるのか?」という相談を受けることがありますが、実は近年、零細企業におけるM&Aの動向は増加傾向にあります。

理由としては、先に述べたように後継者不足問題が深刻化している背景があります。

経済産業省や中小企業庁の調査によれば、2025年に時点で、経営者約381万人のうち約245万人が70歳以上と、経営者の高齢化が加速しています。そしてそのうち、半数を占める約127万人が「後継者未定」となっています。

こうした企業がすべて廃業すれば、日本のGDPは大きく低下し、雇用も大きく失われることになります。

この現状を打開するものとして注目されているのが、M&Aです。現に、全国47都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターでの支援実績も年々増加しています。

少子高齢化という大きな流れのなかで、後継者不足は今後も続くことが予想されます。そんな状況においては、M&Aが救世主となるでしょう。

零細企業のM&Aの目的は?

では、零細企業がM&Aをすることで何を実現できるのかを見てみましょう。

①事業承継
事業を親族や従業員などの後継者に承継することで、これまで培ってきた自社独自のノウハウや技術力、設備や不動産、従業員の雇用を存続させることができます。

これまでは、零細企業の事業承継では親族内事業承継が多かったのですが、近年では親族内や車内に適切な後継者がいないケースが多く、M&Aによる事業承継が増加傾向にあります。

②事業売却
「売却」は承継のひとつの形ですが、事業譲渡などによって事業を個別に売却し、会社の株式は譲渡しないケースを指します。

事業売却は、通常、不採算事業の切り離しやメインとなる事業に集中するための資金の獲得などを目的とすることが多く、事業を複数営んでいる場合に適しています。

ただし、赤字事業だけを売却するのは現実問題として難しく、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

③会社売却
親族内にも会社内にも承継する人がいなければ、第三者へ会社を売却することになります。

自社の強みや顧客・取引先とのコネクションを存続させることができ、経営者は得られた売却益でセカンドライフを楽しめる可能性もあります。

零細企業のM&Aの方法は?

零細企業がM&Aを実施する主な方法としては、「株式譲渡」と「事業譲渡」が挙げられます。

・株式譲渡
株主が保有する株式を、対価と引き換えに買い手企業に譲渡するスキームです。

株主総会による承認や債権者保護手続きが不要で、手続きが比較的簡単です。買収後も企業を存続できるという点もメリットです。

ただし、売り手である株主が個人の場合、株式売却益に譲渡所得税や住民税、復興特別所得税が合計で約20%課されるのでご注意ください。

具体的には、株主と買い手企業が株式譲渡契約を締結し、発行済み株式の過半数を買い手企業が買い取ることで、経営権を移行します。

・事業譲渡
企業が営む事業の全部または一部を買い手企業に譲渡するスキームです。

売却したい特定の事業だけを譲渡することができ、買い手企業は必要となる資産や負債を選択して承継できるため、簿外債務を引き継ぐなどのリスクを軽減できます。

ただし、複数事業を譲渡する場合は手続きが煩雑なこと、買い手企業に消費税や不動産の登録免許税、不動産取得税などの税金が発生します。

零細企業のM&Aを成功させるポイントは?

ここで、零細企業がM&Aを成功させるポイントを解説しましょう。

①自社の強みを明確に伝える!
零細企業のM&Aにかかわらず、自社の強みを明確に伝えることが、M&Aの成功につながります。

零細企業経営者からは、「自社に強みなんてない」といった声を聞くこともありますが、これまで長い間経営してきたのですから、意識していなくとも強みは必ずあるはずです。

たとえば、築き上げてきた顧客・取引先からの信頼や、独自に磨いてきた技術力、高い技術をもった優秀な従業員、あるいは自社で取得した許認可なども、自社の強みに当たります。

買い手は企業の価値に対価を払うので、自社の強みを経営者自身がはっきり認識し、それを買い手企業に理解してもらうことが大切です。

②信頼できる仲介会社を選ぶ!
最近ではM&Aマッチングサイトが広まり、仲介会社を通さずにM&Aを行なうケースもあります。

マッチングサイトには零細企業の案件がたくさんあり、経営者が自分で案件を探して交渉することが可能ですが、これはあまりおすすめできません。

M&Aの専門知識がないまま交渉したり必要な書類を作成したりするのは非常に大変です。悪質な買い手に買い叩かれてしまうかもしれません。

手数料などの費用はかかりますが、信頼できるM&A仲介会社のサポートを得たほうが、成功確率が高まるでしょう。

ひとくちにM&A仲介会社といっても、得意分野は異なります。その仲介会社に零細企業M&Aの実績があるかも、信頼できる会社を見極めるポイントとなります。

仲介会社を選ぶうえでは、費用も重要です。手数料がいくかかかるのか、会社によって、異なりますので、注意が必要です。また、成功報酬のほかに着手金がかかる場合もありますので、契約する前に確認しましょう。

まとめ

零細企業経営者であれば、「自社を買ってくれるところなんてない」と思い込みがちですが、会社の強みをしっかり伝えればM&Aできる可能性は大いにあります。

安易に廃業を考えず、まずは専門家に相談して、事業を存続させる道はないかぜひ相談してみてください。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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