ローカルM&Aマガジン

大手仲介会社にM&Aを依頼して失敗する理由

投稿日:2020年9月24日

[著]:小川 潤也

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大手のM&A仲介会社は積極的に広告を出しており、M&Aを検討して相談相手を探す経営者にとって非常に引っかかりやすいです。

知名度がありますから安心して依頼する経営者が多いですが、ここに思わぬ落とし穴があるのです。

大手M&A仲介会社に依頼すると失敗する理由を解説します。

まず支払わされる高額の着手金

T社長は60代前半。とある地方都市で飲食店を立ち上げ、複数を構えるまでに成長させました。

寄る年波には勝てずに引退を考え始めたところで、たまたま見ていた経営関係のウェブサイトで、大手M&A仲介会社が開く東京でのセミナー広告を目にします。

T社長としては、売れるなら売りたい、というのが本音でした。

東京のセミナーならば地元の知り合いや関係者にM&Aの意向を悟られる心配がないし、大手の会社なら安心だろうということで、東京のセミナーに参加することにしました。

当日、T社長は驚きました。セミナーの参加人数が思った以上に多かったのです。セミナーではM&Aのメリットや基礎知識をざっと習い、M&A仲介会社の担当者と名刺交換をしました。

数ヶ月後、T社長は悩んだ末に、他に相談相手もいないし……というので、その大手仲介会社にM&Aの仲介を依頼することにしたのです。

契約を結んだ後に、まず高額な着手金を支払わされることになりました。T社長はまあ仕方ないだろうと着手金を払い、どんな買い手候補が紹介されるのかをワクワクしながら待っていました。

マッチングする相手は紹介されない

しばらくして仲介会社の担当者から、買い手候補の企業の名前が知らされました。その中から、誰もが知る大手企業と近県の同業他社という2社交渉相手を絞ることにし、T社長はトップ面談のテーブルにつくことにしました。

しかし実際に会ってみると、大手企業の条件は従業員の雇用を1年間しか保証しないという厳しいもので、譲渡価格も希望より大幅に安い試算を出されました。

もう一社は、買収意欲はあるもののT社長の会社まで片道3時間以上もかかる遠方で、交渉相手としてやってきた先方の社長自身もT社長と同年代でした。

これでは、売却はできてもT社長が安心してリタイアできる状況はつくれません。仕方なく、T社長はいずれの買い手候補にも断りを入れ、次の相手が紹介されるのを待つことにしました。

ところが、待てど暮らせど次の相手は紹介されません。

T社長は県の事業引き継ぎ支援センターに相談するなど事態を打開しようとしましたが、M&Aの話が具体的に進展していくことはありませんでした。

結局、大手M&A仲介会社との付き合いは着手金の払い損に終わり、T社長は当社に相談に訪れ、1年後にM&Aを成立させるに至りました。

大手仲介会社に細やかなサポートは期待できない

T社長のように、知名度で信用して大手M&A仲介会社に依頼し、結局結果が出ないというケースは頻繁に生じています。

大きな原因として、大手仲介会社は一つひとつの契約先にそれほど時間を割けないことが挙げられます。新たな依頼はどんどんやってくるので、顧客の要望や条件を丁寧にヒアリングしたりはせずにとりあえず買い手候補を紹介して、マッチングすればそれでよし、という考え方の担当者は少なくありません。

T社長の場合、最初の交渉で断りを入れた後、仲介会社から「難しい案件だ」と判断されてしまったのかもしれません。結果、T社長のところではなく新たな依頼先に買い手候補をどんどん回されてしまったのでしょう。

着手金を払っているとはいえ、仲介会社のほうに責任感を持って積極的に動いてもらうことは、残念ながらあまり期待できないのが実態です。

こうして、大手仲介会社に依頼したまま休眠状態になっているM&A案件は、予想以上に多いのです。

まとめ

中小企業のM&A案件は、大手からすると単価が低く、やっても儲からない仕事と見なされがちです。

特に地方の小規模企業をM&Aしようという場合には、大手の武器であるネットワークが東京中心であることもあり、売り手側の要望とミスマッチになる可能性が高くなります。

中小企業のM&Aを考える場合、地域に精通した地元のM&Aコンサルティング会社に依頼するのが上策でしょう。

一件一件を大切に懇切丁寧に対応してもらい、支払う費用も適正になることが期待できます。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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