KIZUNA ローカルM&Aの
絆コーポレーション

ローカルM&Aマガジン

Q「会社を売る方法を教えてください」

[著]:小川 潤也

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(ご相談者様)
創業して40年になるガソリンスタンドの経営者です。70歳も近くなってそろそろ引退しようと思っており、会社売却を検討しています。

ただ、顧問税理士に相談したら、大手M&A会社を紹介されて、営業担当者とお会いしてみたら、手数料が最低でも2千万と言われてびっくりしてしまい、「他も紹介してほしい」とお願いしたら、「他はわからない」と言われてしまって。かといって金融機関には打ち明けたくないし、ネットでM&A仲介会社のWebサイトを調べても「まずはご相談ください」とうたっているばかりで、参考になる情報がなくて困っています。

小川さん、会社ってどうやって売ればいいんでしょうか?

(小川)
焦らないでください。まずは、M&Aありきで進めるのではなく、自社の状況を客観的に見極めることが大事です。

私のもとには今回のような相談が多くきますが、会社の状況についてヒアリングした結果、あえてM&Aをお勧めしないこともあるんですよ。

現状、ご事業としてはどんな状態でしょうか?

(ご相談者様)
営業利益はずっと出ていて、問題ないです。店舗拡大のために借り入れたお金の返済がちょっと重いくらいですね。

実は、私には東京で銀行員をやっている35歳の息子がいて、本当だったら継いでほしい気持ちもあるんですが……。自分の代で借入金の返済を終えられないことが気がかりです。融資の連帯保証人まで、息子に継いでもらうのは忍びないと考えています。

私は自分で創業したから、「会社が潰れれば人生も潰れるのは仕方なし」と腹をくくれましたが、息子にそんな重圧は背負わせることはできません。それに、これから電気自動車の時代が来るなかで、ガソリンスタンドというのも先行きが不安です。

(小川)
そのような背景で、M&Aというお考えを持たれたわけですね。

まずポイントになるのは、もし売却を具体的に検討されるならば、今の売上を維持できている間がいいということです。

(ご相談者様)
どういうことでしょうか?

(小川)
M&Aにおける買い手からの調査で売上が下降基調だと判断される材料があると、かなりデメリットになるからです。売れたとしても、株式譲渡の価格は当然、相場より低くなります。

売上が下降し始めてからM&Aを検討される経営者の方は多いのですが、正直なところ、そうした方から相談されても難しい面があります。もう少し早く来てくれれば……というパターンも多いのです。

(ご相談者様)
そうなんですね。業績が良くなければ企業としての評価が低くなり、買収先とマッチングできる可能性は低くなる。もしM&Aを成約できるとしても、売却金額を高くするような交渉は難しくなるということですね。

具体的に、「こんなことがあったらM&Aを考えるべき」というタイミングはありますか?

(小川)
先ほどの話の裏返しになりますが、ベストな判断タイミングは業績が右肩上がりのときです。少なくとも、ピークアウトして下降線をたどる前に判断するほうがいいでしょう。

絶対に避けたいのは、売上が下がり、損益分岐点がスレスレとなり、銀行の借入金が約定どおりに返済ができなくなって初めてM&Aを考え始めることです。そうなると「再生型M&A」となり、単なるM&A ではなく、スポンサーを探して、支援してもらい、その上で借入の返済をどうするのか、株式を譲渡するのか、事業を譲渡するのかをいうスキームを債権者を交えて、検討することになり、これは成功させるのに企業再生に詳しい弁護士と公認会計士の協力とテクニックを要します。売却も極めて難航するでしょう。

さらに、M&Aを試みるにあたって金融機関にリスケをお願いして猶予期間だけはできたとしても、それ以降は多くの場合で負のスパイラルに陥ります。日々の資金繰りに汲々とし、返済期限の到来におびえるという状態では、とても未来のことなんて考えられませんよね。適切な判断は難しくなるはずです。

(ご相談者様)
M&Aを考えるなら早いほうが良い、ということですね。

(小川)
ただし、私としては、なにもM&Aを急かしたいわけではありません。検討が手遅れの段階になってしまうケースが厳然と存在する、という危険性を、しっかりご認識いただければと思います。

最も大事なのは、事業承継が近いというフェーズになって、改めて自社がどんな経営状況にあるのか、今後どうなりそうなのか、立ち返って見直してみることだと思います。そうすることで、子どもへの承継やM&Aという「手法ありき」の発想でなく、本当に取るべき方策が見えてくるからです。

(ご相談者様)
深く納得しました。わかりやすい解説をありがとうございます。

あらためてうちの会社がどんな状態なのか、自社の収益構造と財務内容をよく見て、どうやって借金を返していけるか、借入金を減らせていない状況を自分の力でなんとかできないか、本気で考えてみることにします。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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