ローカルM&Aマガジン

出版業界のM&Aが熱い!――最新動向を徹底解説

[著]:小川 潤也

Pocket

日本のM&A件数は、2011年ごろから右肩上がりで増えてきました。

コロナ禍で一時的に減少したものの、再び増加に転じています。中小企業白書によると、2022年は過去最多の4304件に達しました。

業界・業種を問わずM&Aが増えていますが、中でも近年、M&Aが相次いでいる業界の1つが出版です。出版業界のM&Aの最新動向を解説します。

出版業界関連のM&Aニュース・9選!

まずは最近の出版業界のM&A状況を見ていきましょう。

1.学研プラスがダイヤモンド・ビッグ社『地球の歩き方』出版事業を取得

2020年、参考書などを手がける学研プラスは、ダイヤモンド・ビッグ社の出版事業とインバウンド事業を取得しました。ダイヤモンド・ビッグ社といえば旅行ガイドブック『地球の歩き方』が有名です。一方、学研プラスはアニメ関連出版事業をWEB系企業のイードに譲渡しています。

2.ビーグリーがぶんか社グループ5社を子会社化

2020年、コミック配信サービス『まんが王国』などを手がけるビーグリー(東証スタンダード上場)は、ぶんか社とそのグループ計5社の全株式を取得して完全子会社化しました。

3.フォーサイドが角川春樹事務所『Popteen』事業を取得

2021年、フォーサイド(東証スタンダード上場)は角川春樹事務所と資本提携するとともに、女子中高生向けファッション誌『Popteen』事業を取得しました。フォーサイドは、クレーンゲームの景品や不動産、電子書籍などを手がける企業グループの持株会社です。

4.インプレスホールディングスがイカロス出版を完全子会社化

2021年、インプレスホールディングス(東証スタンダード上場)がイカロス出版の全株式を取得して完全子会社化しました。インプレスホールディングスはITや山岳などのコンテンツ事業を手がけるグループ。一方、イカロス出版は鉄道や航空などを得意とする出版社です。

5.数研出版が学校図書を完全子会社化

2021年、『チャート式』シリーズで有名な数研出版が学校図書の全株式を取得し、完全子会社化しました。

6.Donutが主婦の友社の『Ray』事業を取得

2021年、動画やライブ配信サービスなどのIT事業を手がけるDonutsが主婦の友社の雑誌『Ray』事業を取得しました。

これに先立ち、主婦の友社は2014年に大日本印刷の傘下に入りました。2017年にはTSUTAYAを運営するカルチュア・エンタテインメントに親会社が移っています。

7.メディアドゥが日本文芸社を完全子会社化

2021年3月、電子書籍の取次大手メディアドゥ(東証プライム上場)が日本文芸社の全株式を取得して完全子会社化しました。日本文芸社はRIZAPグループの出版社でした。

同年12月には、メディアドゥは、小説やコミックの投稿サイトを運営するエブリスタの株式の70%を取得して子会社化しました。

8.ドリームインキュベータがエイ出版社の一部事業などを取得

2021年、ベンチャー投資を手がけるドリームインキュベータ(東証プライム上場)は、アウトドアなどの趣味の雑誌や書籍を得意とするエイ出版社の出版事業などを取得しました。エイ出版社はその後、実業之日本社にオートバイ雑誌を譲渡しました。

9.“面白法人”カヤックが英治出版を買収

2024年には、ゲームアプリやWEB制作を手がけるカヤック(東証グロース上場)が英治出版を買収しました。英治出版は『ティール組織』など話題作で知られる出版社です。

出版業界のM&A動向は?

「出版不況」という葉を目にしたことがあるでしょうか?

出版業界の不況は今に始まったことではありません。1990年代後半から四半世紀以上にわたって出版不況といわれ続けてきました。いわば筋金入りの斜陽産業なのです。

実際に、1996年をピークに、出版の市場規模は縮小が続いています。この間、多くの中小出版社が経営破綻しました。

紙の本から電子書籍やWEBへという情報伝達媒体のパラダイムチェンジが出版業界に大きな打撃を与えました。

本が売れずに経営に苦しむ出版社が少なくありませんが、特定分野の知見や情報網、魅力的なコンテンツなどを持っているという強みがあります。SNSにあふれる真偽不明の情報とは一線を画すような、編集者らの厳しいチェックを受けた確かな情報を発信するノウハウも持っています。台頭してきたWEB系企業などがこうしたコンテンツやノウハウを取り込もうと買収するケースが見られます。

代表例がカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)です。CCCは2012年、趣味系雑誌を抱えるネコ・パブリッシングを、2014年には阪急コミュニケーションズから出版事業を、2015年には美術出版社を、2017年には徳間書店と主婦の友社を買収しました。出版社を次々と傘下に入れたのは、コンテンツを取り込むのが狙いの1つだといわれています。

出版不況の中、紙媒体の市場縮小が続いている一方で、電子書籍や漫画は伸びています。とりわけ漫画は日本が世界に誇るコンテンツ。児童書も好調です。今後も、業界再編の動きが起きる可能性があるでしょう。

まとめ

「どんな事業を取り込んだらいいのか?」
「自社の事業とシナジー効果を生む事業は何か?」
「最適な事業ポートフォリオは?」

こうしたことを精査しているからこそ、30年近く不況の嵐が吹き荒れる出版業界の業績不振会社を買収する企業があるわけです。

誰が見ても優良な企業や黒字企業は多くの買い手にとって魅力的。それだけ買収額も跳ね上がります。

しかし、自社には自社にプラスになる事業やコンテンツがあるはずです。企業買収を考えているなら、自社に欠けているピースは何かを改めて見つめ直せば、“掘り出し”企業に出会えるチャンスが広がります。

Pocket

著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
最新M&A情報を届ける 登録無料のメールマガジン 売買案件 体験談 最新コラム