しかし、多くのオーナー経営者にとって、銀行はM&Aにおける救世主となってくれないのが実態です。
M&Aを検討する経営者が知っておきたい、銀行の建前と本音について明かします。
組織に差し止められる銀行の実態
私(絆コーポレーション・小川)は元々、富士銀行(現・みずほ銀行)で働いていました。
入行後、初めての赴任先である長野県・松本市でのことです。融資先である光学系機器部品メーカーの社長から、私のもとに相談が舞い込みました。会社の売却を検討しており、銀行の取引先で買ってくれるところはないか、というのです。
当時はM&A案件を扱うのは、都市銀行でも地方支店では年に1件程度です。私はこの時がM&Aに関わった最初の経験。若かった私は「これがM&Aか」と有頂天で上司に報告しました。
しかし、結果、銀行の判断は「この案件を扱わない」というものでした。
M&Aの担当者がその光学系機器部品メーカーを訪問することすら一回もなく、案件は立ち消えになってしまったのです。銀行員時代の非常に悔しい経験でした。
銀行は中小M&A案件を扱いたがらない
このときに銀行がそのM&A案件を扱わなかった理由は、一言でいえば規模が小さい、ということでした。
都市銀行では一般的に、M&A案件は支店ではなく本部で一括して扱います。支店の担当者がどんなに優良企業だと本部に訴えても、上層部がNOといえば銀行がM&A案件として取り扱うことはありません。
8月末現在、放送中のTBSドラマ『半沢直樹』でも、主人公の所属するメガバンクが扱うM&A案件は数百億円クラスのものでした。ドラマとはいえ、メガバンクが取り組むM&A案件のスケール感はそれぐらい大きいのが普通です。
巨大組織の本部が扱うからにはフィーもそれなりに大きくなければならず、小さな規模の案件というだけで門前払いにされてしまうことがほとんどなのです。
現在では、地方銀行で中小規模のM&A案件に積極的になっているところもありますが、多くの銀行が大型案件を狙う状況はさほど変わっていません。
業績不調なら破綻で処理したいのが本音
規模以外にも、売り手企業が債務超過に陥っている場合、銀行が積極的にM&Aに乗り出すのはより厳しくなります。
債務超過の場合は特に、銀行からすれば、貸したお金がいくら返ってくるスキームなのか。法的破綻での回収額<事業売却での回収額になるか、という一点において判断せざるを得ないからです。
銀行がM&Aに関わる場合は買い手探しや財務評価などでかなりの手間がかかりますし、ディールの進行中は融資の返済をリスケする必要があります。
そもそも債務超過の企業をM&Aする場合は債務の減免は避けられず、銀行としては相応のうまみがなければ取り扱うメリットを感じにくいのです。
債務超過の企業であれば、銀行からはM&Aでリターンを狙うよりも、破綻による処理を勧められることが多いかもしれません。うまくいくかどうかもわからないM&Aのディール期間、売り手企業の延命に協力するのよりも、法的破綻という裁判所の認定をもらえれば、自動的に債務をバランスシートから損切りできるからです。
また、もし銀行がM&A案件として取り扱ってくれたとしても、大組織が間に入りますから時間がかかることは必至です。
以上の理由から、M&A案件を最初に銀行に相談するのはあまり賢明とは言えません。
下手をすると銀行に相談したことがやぶ蛇になり、他の相談先にM&A案件を持っていくのが難しい状況に追い込まれてしまうこともあります。
まとめ
当社は、このような中小企業のM&A案件を適切にサポートできるプロが少ない現状を憂いて立ち上げられました。
新潟県という地方都市でM&Aの相談を受けていると、M&Aによって多くの経営者が幸せになれるのにもかかわらず、成約まで導いてくれるサポーターが少ないことを実感します。
M&Aの優良案件になりうる売り手企業であるのにもかかわらず、M&Aという選択肢すら浮かんでいないケースが多いのです。
銀行も税理士も、あなたにM&Aを提案してくれることはあまり期待できません。だからといって「うちがM&Aなんてとても無理」と最初から諦めず、ぜひ地元の中小規模案件の経験が豊富なアドバイザリー会社に相談してみてください。

小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役
