個人商店や農業、飲食店などの個人事業で事業主が高齢になった場合、事業承継は可能なのでしょうか?
今回の記事では、個人事業の事業承継について解説します。
個人事業は事業承継できるのか?
まず、個人事業の承継について基礎的な知識を紹介しましょう。
そもそも、「個人事業」とは?
「個人事業」とは、税務署に開業の届けを出して事業を営む、法人化していない事業を指します。
いわゆるフリーランスから個人商店、サロン関係、医療法人化していないクリニックなど、業態は多岐にわたります。漫画家や作家といったクリエイターや芸能人も、法人化していなければ個人事業主とみなされます。
個人事業は引き継ぎ可能!
個人事業の事業承継ですが、結論からいえば承継は可能です。
方法は簡単で、先代が廃業届を税務署に提出し、跡継ぎが同じ屋号で開業届を提出するだけ。
青色申告についても、取り止め届けと新規承認申請を提出する必要がありますが、手続きは税務署に1回行くだけで済みます。
個人事業は法人と違い、株式移転や代表者登記の変更など面倒な手続きは不要で、費用もかかりません。
個人事業の事業承継で注意すべきポイント
個人事業の引き継ぎ自体は簡単な手続きで可能ですが、注意点もあります。
事業用資産の承継がやっかい!
個人事業の承継で最も問題になるのが、事業用資産の引き継ぎです。
たとえば、店舗の不動産などを自分で保有していた場合、後継者に不動産を引き継ぐ必要があります。
ただし、事業用資産の移転には税金がかかります。その税額は、資産の譲渡が有償なのか無償なのかによって変わってきます。
有償で譲渡した場合、譲渡金額が資産の価値よりも高い場合は、資産を継いだ跡継ぎが差額にかかる所得税を払う必要があります。
一方、無償で資産を譲渡した場合は、資産の評価額に応じた贈与税を後継者が支払わなければなりません。
このような事業用資産の承継は、個人事業の承継で問題となりやすいポイントのひとつ。
個人事業では継がせる側が資金を持っていない場合が多いので、「税金が支払えなくて承継できない!」という事態に陥りやすいのです。
取引先の承継も課題になりやすい
個人事業の承継においては、顧客や仕入れ先といった取引先の引き継ぎが課題になる場合もあります。
組織で動いている法人とは違い、個人事業の場合、事業主個人に取引先が紐づいているパターンが大半だからです。
長い間にわたって事業を営むなかで、「○○さんだから長年発注している」「○○さんだから安く納入している」という付き合いが多く、引き継ぎが困難となります。
「社長が変わるなら、いい機会だから取り引きはやめる」とならないよう、前任者と後継者で一緒に挨拶まわりをするなど、丁寧に引き継ぎを進める必要があります。
他人への承継は現実的に難しい?
以上のように、個人事業の引き継ぎには「人付き合いの承継」という課題がつきまといます。
その点を比較的解決しやすいのは、やはり親子間の承継でしょう。
「先代の息子」という名目があれば、承継によって事業主が変わってしまっても、取引先の納得は得やすいと考えられます。後継者が先代を手伝って一緒に動いていた期間があるとすれば、なおさら承継はスムーズになるでしょう。
個人事業もM&Aできる!
法人だけでなく、個人事業についてもM&Aは可能です。
通常のM&Aの場合は、企業の株式を売買する形をとりますが、個人事業の場合は事業譲渡の代金として先代の事業主に直接代金を支払う形をとります。
事業用資産と営業権(顧客の引継ぎ)を事業譲渡案件としてM&Aをするスキームです。
この場合は顧客の契約がある場合は承継した方が再度、契約をする必要があります。また、店舗などの不特定多数のビジネスの場合、顧客名簿なども重要な営業用資産となります。
注意が必要なのは事業譲渡契約には引継ぐ営業用資産と営業権(のれん代)となるものを明記することです。その際は後々のトラブル防止のために弁護士にチェックが必須です。
そして、不動産の価格については時価を勘案し、値付けする必要があります。相場よりも低すぎすると贈与となる可能性があります。
フリーランスのM&Aは例がありませんが、飲食店やサービス業などの店舗やクリニックのM&Aなどは近年、事例が増えてきているようです。
まとめ
個人事業主は、引退近くなっても事業承継をまったく意識せず、「自分の代で終わり」と決めつけている人が少なくありません。
しかし、M&Aをはじめ、個人事業主でも事業譲渡でM&Aを実現することは可能です。あきらめずに承継方法を考えてみましょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役