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ローカルM&Aマガジン

M&Aの準備は経営者にとっての最後の試練

[著]:小川 潤也

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中小企業の社長は、基本的に人生真剣勝負で経営にコミットしています。

そこでさらにM&A準備の仕事が入ってくるのは、大きな負担になるものです。

本記事では経営者が行うM&A準備の実態と、それを乗り越えてM&A成立の大団円を迎えるまでを解説しましょう。

多忙なM&A対応の実務

中小企業の経営者とは、多忙なものです。

M&Aを考えるほど創業してからの年数が経っている会社であれば、現場の実務に経営者がかかりっきりという会社はあまりないでしょうが、重要な交渉や社内の管理など、経営者が気を配らなければいけないことは山積みです。

そんな中でM&Aを検討し、準備を始めることになると、経営者はますます忙しくなります。

決算資料を始めとする社内の情報のまとめ直し、M&A業者から提案される買い手候補の精査、実際の交渉……これらは、中小企業であればすべて経営者自身が対応するのが普通です。

事業の現場はすべて従業員に任せても大丈夫になっていても、ことM&Aになるとそういうわけにはいきません。一つひとつの判断もさることながら、社内の機密保持の観点から安易に従業員に仕事を振ってしまうわけにはいかないからです。

オーナー経営者としてのいわば「最後の大仕事」となるのがM&Aなのです。

デューデリジェンス(DD)前にやるべきこと

M&Aにおける大きな山場は、デューデリジェンス(DD)と呼ばれる、買い手企業による売り手企業の詳細な調査です。

まず、デューデリジェンスの前のステップには、次のようなものがあります。


1.M&A業者との秘密保持契約を締結
2.決算書3期分などの資料の開示
3. M&A業者による、売却想定価格の提示と売却想定先の提案
4.M&A業者と仲介契約の締結
5.ノンネームシートによる買い手候補へ打診
6. 買収検討中の買い手候補とトップ面談
7.意向表明書により、買い手候補を選定 
8.基本合意の締結

売り手企業の経営者が最初に行うのは、M&A仲介会社やアドバイザリー会社といったM&A業者との仲介契約もしくはアドバイザリー契約の締結です。中小企業のM&Aであれば、多額の着手金を取られる大手M&A仲介会社よりは、小規模案件に慣れていて、親身になって対応してくれることの多い地元のM&A業者が望ましいでしょう。

M&A業者は、まず「ノンネームシート」と呼ばれる、買い手候補に見せるためにあなたの会社の情報を匿名で記載した資料を作成します。ノンネームシートで買い手を募り、関心を向けたいくつかの会社から絞り込んだ交渉相手に、売り手企業の詳細な情報を提示することになります。

M&Aで必要な資料

M&A業者がノンネームシートや詳細資料を作成するのには、売り手企業の詳細な情報が必要です。この買い手探しの段階で売り手側の経営者が最も対応しなければいけないのは、M&A業者から頼まれた資料を素早く正確に提出することです。

財務諸表、試算表、売掛金、買掛金の帳簿、製品やサービス毎の採算管理資料、顧客毎の採算管理資料、仕入れ先への支払い資料、就業規則、退職金規定、賃金規定、従業員名簿・・・などなど。中小企業では、これらの資料をすべてきちんと整頓して、いつでも出せる状態にはなっているところはも少ないかもしれません。

M&A業者に頼まれるたびにあれを探してこれを探して、とやっていれば当然、手間取ってしまいます。

さらに、M&A業者に対して、どの買い手と交渉を進めたいのか意思表示する必要があります。従業員の目を避けるため、外での打ち合わせに出向く場合もあるでしょう。

そしてもちろん、準備によって絞り込まれた買い手候補企業との交渉にも経営者自らが当たるケースが多くなります。

デューデリジェンスは正念場

買い手候補から意向表明書を提出してもらい、基本合意をどの候補先とするかを決定すると、意向表明書の内容を元に基本合意へ向けた交渉をします。価格や社員の雇用関係など大筋で条件が整うと基本合意書を締結します。

そして、ここからが売り手の社長は正念場に突入です。この後のステップは主に以下のようなものがあります。

6.デューデリジェンス(DD)
7.最終交渉
8.契約締結

基本合意までいけばあと一息、という感覚が出てくるかもしれませんが、前述のとおり山場はデューデリジェンス(DD)です。
デューデリジェンスでは、売り手企業に対する非常に詳細な調査を買い手側が行います。

デューデリジェンス(DD)で何を見られるか?

財務諸表が実態と合っているかといった面の確認から、資料に表れない問題を売り手企業が抱えていないかといったソフト面まで、徹底的に調べあげます。財務面で重要視されるのは簿外債務がないか。法務面では契約関係や不動産などの所有資産に法的な問題がないかなどです。

隠し事は不可能で、売り手企業は丸裸にされると考えていたほうがいいでしょう。

この段階においては、M&A業者に開示した資料を元その証拠がどこにあるのか、数字が正しいのか、契約はきちんと交わされていて、その契約書は法的な裏付けがあるのか、細かく調べられます。ある社長はこのデューデリジェンスの準備で疲労困憊し、「こんなに大変だとは思わなかった」とこぼしておりました。

買い手企業に提出した資料や説明した内容に虚偽や過大なものがなければ怖いことはありませんが、初対面の税理士や弁護士から根掘り葉掘りと会社のことを聞かれて、書類を調べられるのはどんな社長でも気分のいいものではありませんが、くれぐれも対応は誠実に、です。

まとめ

無事にデューデリジェンスを通過すれば、最終交渉のテーブルに進みます。

譲渡価格や従業員の処遇など細かく詰めていきますが、買い手としてはデューデリジェンスのレポートで懸念事項が出てこなければ、後は価格次第というところに来ています。落ち着いて条件を固めていきましょう。

最終交渉で合意に至れば、めでたく最終契約の締結、そして会社を引き渡すことになります。

M&Aは早くても半年、長いと1〜2年はかかることもある大プロジェクトです。この間、以上のような経営者の対応が続きます。

経営者としては非常に負担を強いられますが、M&Aは成約すれば経営者自身にとっても会社にとっても最良の未来を得ることにつながります。しんどい気持ちになっても、投げ出さずに粘り強く対応しましょう。

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著者

小川 潤也

株式会社絆コーポレーション
代表取締役

1975年新潟県新潟市(旧巻町)生まれ。株式会社絆コーポレーション代表取締役社長。大学卒業後、株式会社富士銀行(現・みずほ銀行)入行。法人担当として融資、事業再生、M&Aなどの総合金融サービスを手がける。2004年、医療介護の人材サービスを手がける株式会社ケアスタッフの代表取締役に就任。また銀行勤務時代に培った新規取引先の開拓やM&Aでの経験を生かし、地方都市の後継者不在、事業承継ニーズに応えるべく、株式会社絆コーポレーションを設立。M&Aアドバイザリー事業、スペシャリストの人材紹介事業を展開。著書に『継がない子、残したい親のM&A戦略』(幻冬舎)がある。
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