実際、経営全般に関する知識を認める唯一の国家資格が、中小企業診断士です。
事業承継に悩む中小企業経営者にとって中小企業診断士が事業承継のパートナーになるのかについて、解説しましょう。
中小企業診断士とは?
独立系の経営コンサルタントなどと名刺交換をしたことのある経営者であれば、名刺の肩書に「中小企業診断士」と書いてあるのを見たことがあるかもしれません。
中小企業診断士とはどんな資格で、どのような知識を持っているのでしょうか。
中小企業診断士の試験
中小企業診断士の試験は、毎年8月に実施されます。
一次試験は土日2日間をかけて7科目(経済学・経済政策/財務・会計/企業経営理論/運営管理/経営法務/経営情報システム/中小企業経営・政策)の学科テストが行われ、合格者は10月と12月に実施される二次試験で、記述と口述のテストが課されます。
合格率は4〜5%の難関資格で、経営全般の知識が得られるとして人気の資格です。2016年1月12日付けの日本経済新聞による「新たに取得したい資格試験ランキング」では、1位を獲得しています。
「食えない資格」である?
しかし、人気の一方で、中小企業診断士はそれ単体で生活していけるような資格ではないと言われています。実際、合格者の7割ほどが企業に勤めている人です。
その理由は、中小企業診断士としての独占業務がないこと。他の士業を見てみると、税理士なら税務、弁護士なら法務、社会保険労務士なら労務の分野において、それぞれ資格保持者にしか法律で認められていない業務があります。中小企業診断士にはそれがないのです。
結果、独立して事業を営む中小企業診断士は士業として仕事をしているというより、経営コンサルタントや税理士の箔付けとして中小企業診断士の資格を持っている、というケースがほとんどのようです。
事業承継のパートナー足りうるのか
さて、それでは、中小企業診断士は事業承継に悩む企業経営者の相談相手にはなりうるのでしょうか。
中小企業診断士にも得意・不得意がある
一口に中小企業診断士といっても、資格がカバーする範囲が広いだけに、資格取得後に何を強みとして仕事をしているのかは十人十色です。
例えば、当社が拠点を置く新潟県の中小企業診断士協会のウェブサイトから、協会に所属する中小企業診断士について見てみましょう。
・一般社団法人 新潟県中小企業診断士協会ウェブサイト
https://www.n-smeca.jp/
それぞれの中小企業診断士の名前とともに、「専門分野」という記載があります。専門分野は、「IT活用」「マーケティング」「税務」「原価管理」「人事労務」など様々な記載がありますが、中には「事業承継」を専門分野にしている中小企業診断士もいます。
事業承継に強くてコンサルティング実績の豊富な中小企業診断士であれば、あなたの会社の事業承継の相談相手になりうるかもしれません。
中小企業診断士は事業承継の資格ではない
ただ、知っておいていただきたいのは、中小企業診断士とはそもそも、それ自体が事業承継についての知識を認める資格ではないということです。
事業承継のコンサルティングに経営全般の知識が欠かせないのは確かですが、中小企業診断士だからといって事業承継に特化した知識を持っているわけではありません。
そういう意味では、あえて中小企業診断士という切り口で、事業承継の相談相手を探す必然性はないでしょう。
では、誰に相談するか?
事業承継のプロとしては、たとえば「事業承継士」「事業承継プランナー」といった民間資格保持者がいます。
他にも、全国47箇所に設置されている事業引き継ぎ支援センターという公的機関に相談してみてもいいでしょう。また、最初からM&Aを意識しているような場合は、当社のようなM&Aコンサルティング会社を訪れてもいいかもしれません。
重要なのは、何の肩書きにせよ実績のあるプロに相談することです。事業承継についてアドバイスするには机の上で得た知識だけでは足らず、多数の会社の継承を見届けてきた経験が必須だからです。
まとめ
「事業承継は中小企業診断士に相談するのが良いのでしょうか?」と経営者から相談されることが時々あるので、今回は事業承継と中小企業診断士について解説してきました。
重要なのは、経営者であるあなた自身が、引退後の自社をどうしたいか考えておくこと。親族や社内に承継するにしてもM&Aを検討するにしても、方向性を定めた上で目的に合ったプロに話を聞くのがいいでしょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役