豊富な経営経験を持つ「プロ経営者」に会社を飛躍させてもらえる――
そんな夢を抱く経営者は多いですが、実は外部社長による事業承継が失敗するケースは少なくありません。
今回は、外部経営者の招へいで注意すべきポイントを解説します。
外部経営者の招へいとは?
外部経営者への事業承継とは、統計上は「親族外への承継」として、多くは従業員への承継等と同様のくくりで計算されます。
しかし承継手法としての実態は、従業員承継とは大きく異なります。
まずは、外部経営者に社長を引き継ぐ際のパターンをいくつか見てみましょう。
パターン①他社の社長やフリーの社長をスカウトしてくる
既に同業他社の社長を現役で努めている人材や、経営経験を持っていながら現在はフリー状態の人材を引っ張ってくる方式です。
同業で同じような規模の会社での勤務実績があり、過去に経営を成功させた経験のある人物であれば、未経験の人材よりも自社をうまく経営してくれる可能性は高いかもしれません。
ただし、よほど人脈が豊富でない限り、一介のオーナー経営者が適任者を見つけるのは難しい面があります。
パターン②M&Aで自社を買収した会社の社内人材が登用される
M&Aによって、自社より大きな規模の会社に会社譲渡した場合、後任の社長は買収先の社内から登用されるのが通常です。
このパターンのメリットは、自社よりも大きな組織から適任者が選抜される点と、後継者本人だけでなく買収先の組織全体で自社の経営をバックアップしてもらえる点。
一方、社内登用というシステム上、経営未経験の人材が抜擢される可能性が高いのは、心配な要素です。
パターン③ファンドが経営者を連れてくる
M&Aによる売却先がファンドである場合、後継社長はファンドマネージャーが連れてくることになります。
ファンドはあくまでお金を運用する組織であって、買収した会社を自社で経営する人材は抱えていないからです。
ファンドには情報力も資金力もありますから、経験豊富な経営者を何人もリストアップして、高額な報酬を出して雇うことができます。
優秀な後継社長がやってくる可能性は高いですが、承継後の経営は以前と比較して大きく変わる場合が多いことには要注意です。
プロ経営者に気をつけろ
事業承継を考える経営者が気をつけたいのは、「プロ経営者」だという触れ込みの人物に後継社長を任せるケースです。
実は、プロ経営者だと信じて後任を託した結果、大失敗する企業はよくあることです。
失敗の理由を見ていきましょう。
失敗の理由①以前の経営経験が役に立たない
企業には、一つとして同じものはありません。
たとえ過去に同じような会社を経営した実績があったとしても、他の会社で後継者としての適性が認められるとは限らないのです。
わかりやすいのは規模の違いで、同種の企業でも、中小企業と大企業で舵取りのやり方は大きく異なります。
とくに、大きな会社を経営した経験を持つ人物が、同業の中小企業にマッチしないケースは非常に多いのです。
失敗の理由②経営スタイルが自社に合わない
本物のプロ経営者であればあるほど、得意な経営スタイルがある程度固まっています。しかし、後任の経営者のやり方と自社の文化が全く異なる場合、事業承継は失敗しがちです。
たとえば、どちらかというと大らかな社風で、先行投資を積極的に行なって販路拡大するスタイルが強みの会社を、徹底したコストカッターが引き継いだら、従業員の混乱は避けられません。
もちろん、コスト構造の見直しが功を奏する場合もありますが、従業員が反発して大量離職してしまうケースも散見されます。
失敗の理由③経営を短期的にしか考えていない
プロ経営者とは、すべての人物がそうだとはいわないまでも、「いくつもの会社を渡り歩いてステップアップしよう!」という志向を強く持っています。
したがって、自社の後継者と見込んで任せたとしても、それを一時的なキャリアとしてしか考えてくれない可能性があるのです。
前社長としては「長期的に組織を発展させてほしい」と願っていても、後任は「数年で業績を改善して次の会社で経営者になるポストを見つけたい」と考えているかもしれません。
そのようなすれ違いがあると、前社長の思惑どおりに承継が成功する可能性は低いでしょう。
まとめ
外部経営者への事業承継を考える社長に気をつけてほしいのは、後任の経歴を鵜呑みにして、安易にすべてを任せてしまわないことです。
どんなに輝かしいキャリアを持っていても、自社の後継者としてふさわしいのかは、慎重に判断する必要があります。
候補者と何度も面談を重ね、得意な経営スタイルや承継後の長期的目標など、慎重にすり合わせてから承継を決断しましょう。
小川 潤也
株式会社絆コーポレーション
代表取締役